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なぜ私は、コンテンツのつくり手に出資をするのか

「コンテンツの力で、経済と人を動かす」をビジョンに掲げ、産声を上げた新会社PIVOT。先日、3億円の資金調達も発表しました。

PIVOTで実現したい「コンテンツの力」とは何か? 

この時代に新たなメディアを立ち上げる社会的価値とは? 

出資を決めた一人であるOne Capitalの浅田慎二CEOと共に、PIVOT創業メンバーが語りました。全3回の初回テーマは、「PIVOTに期待するコンテンツの力」について。

スピーカーは、One Capital浅田慎二CEO、PIVOT代表取締役CEO・佐々木紀彦、同チーフSDGsエディター兼執行役員・竹下隆一郎。聞き手は、同エグゼクティブ・ライターの宮本恵理子。鼎談は7月下旬にオンラインで実施。文中敬称略。

出会い、そして、支援したいと考えた理由

―東洋経済オンライン編集長、NewsPicks初代編集長と、ニュースメディアで実績を積んできた佐々木さんが自ら起業して新しいコンテンツサービスを立ち上げる。この決断に早くから共感し、いち早く出資を決めたのが浅田さんです。佐々木さんとの出会い、そして、なぜPIVOTを支援したいと考えたのか、率直にお聞かせください。

浅田 まずは皆さん、会社の設立おめでとうございます。PIVOTの船出を心から祝福しますし、投資家として同じ船に乗れることに喜びを感じています。

佐々木さんを知ったきっかけは、純粋に僕が、佐々木さんの創るコンテンツのファンだったんです。「東洋経済オンライン」の時代から、「面白い記事だなぁ。ここの編集長、佐々木さんってすごいな」と、いち読者としてリスペクトしていました。僕が前々職の伊藤忠テクノロジーベンチャーズに在籍していた頃です。

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浅田慎二/One Capital代表取締役CEO、General Partner
伊藤忠商事および伊藤忠テクノソリューションズを経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズにて、メルカリ、ユーザベース、Box、Muse&Co、WHILL、TokyoOtakuMode等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan、freee、Visional、Goodpatch、Yappli、スタディスト、Andpad、Eventhub等B2Bクラウドベンチャーへ投資。2020年4月にOne Capitalを創業。マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。freee社外取締役、スマレジ社外取締役、Nota社外取締役、CRISP社外取締役

佐々木 そう言われると、照れますね(笑)。

浅田 その後、「SPEEDA」というデータ提供事業に可能性を感じて、ユーザーベースに出資して僕も役員として参画したのですが、当時の代表だった梅田優祐さんから「今度、メディアをやるんです」と後に「NewsPicks」の立ち上げにつながる構想を聞いて。

「いいですね。でも、今のリソースだけでできるんですか?」と返すと、「実現可能にする人がジョインしてくれます」と。それが佐々木さんだったんです。その後のNewsPicksの成長は皆さんご存知の通りで、成長率もARR(年間経常収益)にして30億円まで伸びてすごいものでした。

竹下さんがつくってきた「ハフポスト日本版」も同様に、つくり手のパワーを感じさせるコンテンツだという印象があります。

こういった実感から、「やっぱり“誰が創るか”が重要なのだな」と考えていたときに、佐々木さんが新しい挑戦をすると耳にして、コンタクトを取ったのが半年ほど前のことですよね。

佐々木 私も浅田さんのことはもちろん知っていましたが、直接お話しするのは番組に出演してもらった機会くらいでしたよね。私が一念発起して起業を決めた直後に、声をかけてくださって嬉しかったです。

浅田 佐々木さんの起業にかける思いを聞いて、ますます共感は強まりました。

特に響いたのは「人の“行動”を生みたい」という言葉です。

佐々木さんはNewsPicks初代編集長として順調に数字を伸ばしてきましたが、「情報にアクセスできても、行動を起こせる人がまだ足りない」という課題感を募らせていた。アクションにつながるコンテンツを、竹下さんや宮本さんらと共につくっていこうと、自らもリスクを取って行動を起こす姿に感銘を受けました。

―「行動」が、浅田さんにとっても重要なキーワードなのですね。

浅田 そうですね。時代の流れとしても、今が“最後のチャンス”だという危機感があります。

世界が同時にパンデミックを経験し、混沌の中で劇的な変化を遂げようとする今は、日本を前に進めるチャンスです。8月2日に発表になったリリースウェブサイトに書かれた佐々木さんのメッセージを読んで、僕は「絶対に成功するな」と確信しました。

成功の定義は、単に投資家としてのリターンという意味ではなく、「人に行動を起こさせるコンテンツを、このメンバーなら必ずつくってくれる」という意味です。本当に楽しみでなりません。

―行動を後押しするコンテンツとは、どんなものだと思いますか。

浅田 僕もいろいろな起業家を知っていますが、実力があり、行動をしてきたリーダーが喋りが上手いとは限らないわけですよね。だから、思いがうまく伝わらないこともある。

皆さんのようなプロの手によって、その人らしい魅力を引き出し、きちんとした文脈に乗せてテキスト、映像、音声など最適な形で発信することができれば、思いはもっと深く遠くまで届くはずです。

人気を集めた韓国ドラマ『スタートアップ:夢の扉』でも、話下手で朴訥とした天才エンジニアに光を当て、ストーリーの力で共感度を高めていましたよね。

ドラマはフィクションですが、現実世界にもドラマティックなストーリーはあちこちで起きている。伝え方次第で共感を集め、行動を起こす人を増やしていけるのではないかと期待しています。

One Capitalと組んだ3つの理由

―浅田さんの思いは、佐々木さんの考えとも一致していますか?

佐々木 一致していますし、私たちがプロとして担いたい役割はまさにそれです。起業することを発表した後、出資のお話をいくつかいただく中で、ぜひとも浅田さんと組みたいと思った理由は3つあります。

第一に、浅田さんご自身も起業家であること。

大企業を経験した後に、自らリスクを取ってVCを創業したという点で、起業家の気持ちに立った助言や投資の決定をしてくれます。実際にこれまでのコミュニケーションを振り返っても、常に“起業家ファースト”の姿勢を貫いてくださっているなぁと。同じ船に乗る気持ちでパートナーになれると確信しました。

第二に、「大人のプロ」であるという点です。

日本の伝統的な企業の風土も知り、外資系のグローバル基準も知り、組織づくりにもテクノロジーの分野にも精通している。幅広い知見を持つ浅田さんと共に事業の設計図を作れることは、“コンテンツバカ”の私が会社を経営する上で不可欠な条件と感じたのです。

第三の理由は、目指すビジョンが同じであること。

日本、世界が抱える問題の難しさを知りながらも、「次世代のためによりよい社会をつくりたい」「世界に学びながら、日本を変えたい」という強い思いを持っている。私も浅田さんも小さな子どもたちを育てる父親であり、真剣に「未来」を見つめる目線が非常に近いと感じています。

浅田さんと一緒に成功して恩返しすることが、私自身の夢の実現になると確信したので、「ぜひ一緒に組んでください」とお願いをしました。

浅田 こちらこそ光栄です。

僕たちが同じ夢や価値観を共有できるのは、年齢が近いという理由も大きいですよね。僕は44歳で、佐々木さんは42歳。佐々木さんも日本の伝統的なメディア企業でスキルの基盤を磨き、スタンフォード大学で留学経験も経て、テック企業のカルチャーも知っている。

人の価値観は経験によって形成されるものと僕は考えていて、佐々木さんと僕は立場は違えど近い経験を重ねてきたのではないかと思うんです。

佐々木 特にこれからはグローバルの視点は欠かせないと思っています。世界の中で日本がどんな価値を発信していけるかが、私たちの未来の風景を確実に変えるでしょう。

浅田 一方で、よくある「シリコンバレー礼賛」には反対です。

西海岸のあの企業がすごいよ、こんな飛び抜けた起業家が活躍しているんだぞと示したところで、どれだけの人が行動を起こせるのか。バスケットボールのマイケル・ジョーダンをかっこよく描くだけでは、ほとんど参考にならないですよね。

例えば、僕がSalesforce時代に最もリスペクトしていたのは、当時は事業部のトップで2019年末から社長に就任したブレット・テイラーという人。創業者のマーク・ベニオフと比べると有名ではない人物ですが、彼はGoogleマップの立ち上げや、Facebookに「いいね」ボタンを追加した功績の持ち主なんですね。


来日するたびに、投資先のスタートアップに講演してもらっていたのですが、体験談がめちゃくちゃ面白いし、圧倒的に実践的なんです。

宇宙開発のスペースXを取り上げるときも、イーロン・マスクばかりに注目するのではなくて、実業を引っ張る第二、第三のリーダーのほうが実践につながるメッセージを出せる可能性は大きい。

実業を担う人たちの経験・知見を噛み砕いて、アクションにつながるコンテンツを発信することができれば、日本版イーロンが出てくるかもしれないですよね。

佐々木 同感です。“自分ごと化”できるコンテンツにして届けていく。まさに、本物の実学ですね。これからのメディアの使命だと思います。

浅田 Salesforceの『THE MODEL』という書籍の取り組みがいい事例かもしれません。

この本には、同社のマーケティングのノウハウが、誰にでも実践しやすい形で解説されているんです。プロダクトの宣伝ばかり顧客に送りつけるのではなく、うまくいっている理由を可視化して提供した。すると、結果としてファンが増え、会社のブランド価値が上がり、さらに成長できたんです。

こういったアクショナブル(=行動を起こす)な方法論を世の中にあふれさせて、多くの人のチャレンジを後押しすることをPIVOTに期待しています。上場前のプライベート企業の良さは、自分たちが信じるビジョンに向かって長期目線で挑めることです。

短期的な数字だけにとらわれず、本当にありたい未来へ向かっていくチャレンジを資金面でサポートしていく。これが投資家としての僕の使命です。

※第2回に続く。


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