XTech Venturesの2人が語る、スタートアップの経営チームの作り方
ここ数年で、起業はとても身近なものになった。「友人や昔の同僚が起業した」「スタートアップやベンチャーで働き始めた」という話も、珍しくはなくなっただろう。
多くのスタートアップやベンチャーの躍進によって、優秀な人材がスタートアップへ挑戦する流れができ始めている。そして、人材が集まった企業は、さらなる成長を遂げていく。
ベンチャーキャピタル(以下VC)、XTech Venturesの創業者であり、世の注目を集めるスタートアップを多く支援してきた西條氏と手嶋氏は、「メンバーがCEOだけという生まれたばかりの会社であっても、未来の理想とする組織図を描く力は重要だ」と、スタートアップのチーム作りの重要性を語る。
今回は、自身も複数の事業立ち上げと経営を経験しながら、現在はVCとしてスタートアップの成長を支えるお二人にインタビュー。躍進するスタートアップに欠かせない経営チームの作り方について伺った。
組織を作れるスタートアップは、チャンスを逃さない
ーXTech Venturesは2018年にお二人で創業されたベンチャーキャピタルですよね。それ以前はどのような経歴を歩まれてきたんでしょうか。
手嶋氏:私のキャリアは、大きく2つに分けることができます。広告代理店での博報堂6年間、ユナイテッド(旧・インタースパイア社)での経営12年間です。ユナイテッド社では、2回の経営統合とマザーズ市場への上場も経験しました。2018年に、XTech Venturesを創業し、2019年からはブロックチェーン関連事業を営む株式会社LayerXの取締役も務めています。
西條氏:私は1996年に新卒で伊藤忠商事に入社して、2000年にサイバーエージェントへ転職しました。サイバーエージェントでは、多くの新規事業、子会社の立ち上げに携わり、2006年からはサイバーエージェント・ベンチャーズの初代社長に就任しています。サイバーエージェントだけでなく、複数の企業の経営に参画させていただき、2018年に自らXTechおよびXTech Venturesを創業しました。
XTechのコンセプトは“Startup Studio”。まるでハリウッドの映画スタジオのように、クオリティの高いスタートアップをプロデュースしていく会社を目指しています。
手嶋氏:投資する企業は、時価総額10億未満のアーリーステージのスタートアップが多いですね。
ーこのフェーズのスタートアップへ投資する場合、どういった点で投資を決めるのでしょうか。
手嶋氏:この段階だとまだ経営チームは出来上がっていない場合も多く、CEOとしか話さないケースも多いです。それでも自社のチームに何が不足していて、経営メンバーをどのように構築していく構想なのかは確認します。
この時点で経営チームができている必要がなくても、常日頃から未来を見据えながらアクションを取れているかは大切です。
だから面談の場では「今後どういう人が必要だと思ってるか」「未来の組織図を作ってみて」というようなことをよく質問しますね。
創業期からチーム作りの観点がある会社とそうでない会社では、どういった差が出てくるのでしょうか。
手嶋氏:タイミングを逸することはあるでしょう。組織が育つ前に、事業としてのチャンスが先に来てしまって、その波にうまく乗れない。その間に、競合に先手を取られるということはよくあることだと思います。
ー西條さんはいくつもの事業や会社の立ち上げを行って来られました。これまでどのように経営チームを作って来られたんでしょうか。
西條氏:持論としては、組織は現場から積み上げていくのでなく、上から作っていった方がいいと思っています。だから、僕の場合は創業から一年後には、経営会議に参加できるメンバーを4人位集めるというのを、目安にしていました。いわゆる経営チームですね。必ずしも取締役ポジションである必要はなくて、経営や事業戦略の視点で会話ができるメンバーを集めます。
CEOを支えるCxOがスタートアップの成長を加速させる
ー経営チームを作っていく上で、メンバー構成を考える際のポイントはあるのでしょうか?
西條氏:CEOのタイプに合わせて構成していくべきでしょうね。CEOが器用で実務も得意な場合は、ある程度のサイズまではCOOはいなくても問題ないでしょう。ただ、CEOがビジョナリーで実務家でないタイプなら、早めにCOOを採用してビジョンと現場のオペレーションのバランスを取るべきです。
手嶋氏:メルカリの場合を例にあげると、プロダクトを注視する経営者である創業者の山田さんに対して、小泉さんの存在はとても大きかったと思います。小泉さんはCFOの経験がありましたが、ファイナンスだけでなく、マーケティングとかPR、CSなど、プロダクト以外の部分を一手に担っていました。
メルカリほどの急成長だと事業にかかりきりで、経営体制構築が手薄になってしまい、結局それが事業の成長を止めてしまうこともあります。しかし、かなり広いカバー範囲をもつ小泉さんが取締役として参画することで、初期の成長を止めることなく、むしろ弾みをつけることができた。
西條氏:私自身がサイバーエージェントでCOOを務めていた時は、CEOである藤田さんの時間を取らずに彼の意図を汲み取って実行することを意識してました。特に藤田さんがその時注力している分野以外のところを重点的に。CEOには、注力している分野には深く入り込んで、そうでない分野は完全に任せる、というタイプは一定数いるので。
手嶋氏:スタートアップは資金が潤沢でないので過剰に雇えないし、とはいえチーム作りは半歩先に動かなきゃいけない難しさがあります。
創業初期は事業を作るのに精一杯が当たり前で、経営チーム構築までやれている人は本当にすごい。でも、少数ですが適切なタイミングで採用できている会社はあるんですよ。
ーXTech Venturesが出資するスタートアップのチーム作りの状況を、お二人はどう見ているのでしょうか。
手嶋氏:半歩先の採用という意味では、まさに目下取り組んでいるスタートアップが多いです。
まず、オーダーメイドヘアケアブランド『MEDULLA』を運営しているSparty社であれば、代表の深山さんが博報堂出身でCMO的な動きも担って経営を進めてきました。2020年は新しいブランドの立ち上げを控えていて更に成長が見込まれる中で、彼が経営に集中する必要があるし、マーケティングとしてもより緻密さが求められる。この状況が見えているからこそ、ここで強力なCMOの採用はかなり重要です。
subsclife社はここ数年注目を集めるサブスクリプションモデルで家具や家電を提供する事業が順調に拡大中で、数年以内のIPOも見据えられるフェーズです。CEO町野さんは、事業経験も豊富で、これまでの成長には投資家として安定感を覚えますね。更にハイスピードで市場を席巻するには、町野さんの右腕となりうる、攻めのCOOがいると良いでしょう。事業モデルはインターネットではないので、インターネット業界以外での事業開発経験のある方が貢献してくれる可能性も大いにあると思います。
西條氏:僕が最近投資を担当したのは〝売れるトーク〟をパターン解析するAIスタートアップのコグニティ社です。AIで劇的に進化する事業領域に注目していて、営業活動におけるAI活用は投資したいテーマでした。コグニティのソリューションはこれまで可視化しづらかった営業トークの生産性を大きく向上させる可能性を秘めています。代表の河野さんは事業にかける情熱と行動力がずば抜けていて、尚且つ器用になんでもこなせるタイプ。だからこそ社長が器用貧乏にならないよう、開発、営業など専門性の高い担当役員を採用・育成して経営チームをしっかり作って事業成長に勢いをつけて欲しいですね。
「自分でゼロから事業を作ってみたい」という強い欲求が必要
ー会社のフェーズやCEOのタイプに合わせたCxOの存在がスタートアップの成長を左右するわけですよね。具体的には、どういった経験や素質が求められるのでしょうか。
手嶋氏:経営経験がある人は、もちろん活躍しやすいです。しかし、そうでない場合は、会社の中で、何かをゼロから形にし、最後までやりきった経験があった方がいいでしょう。
西條氏:私が立ち上げた子会社を引き継ぐ際に見ていた基準も、“社長である私が関与せずに、会社にとっての新規事業や新しい取り組みを行い、実績を残せたか”という点でした。
それを、one of themでなく、中心的な存在として実行したのかが大切。これは会話をしていると見えてくるものですよ。
手嶋氏:また、「自分でゼロから事業を作ってみたい」という強い欲求がある方がいい。
西條さんも私も、サイバーエージェント、ユナイテッドなどの入社時点で、自分で事業を作りたいと思っていました。既存事業ではなくて、自分で事業をゼロから作れる能力を身につけたかったんです。
一方で「勝ち馬に乗りたい」という欲求の人もいると思います。私としては、創業期のスタートアップに入るのであれば、動機が「ゼロから自分で事業作りたい」というタイプの方の方が向いていると思ってますね。
他に必要となる素質で言えば、人物としてのスケール感。これは経営経験の有無に関わらず、スケール感を感じる人とそうでない人がいますよ。
西條氏:“せこくない”というか…。優秀でなくても、そういう方にもスケール感を感じます。あと、多少リスクテイク思考を持っていないと難しいでしょう。マネージャーであれば、石橋を叩いて渡るタイプも必要ですけどね。
ー人物としてのスケール感は、どのようにして養われていくのでしょうか。
手嶋氏:仕事以外の時間の使い方で規定されていることも多いと思ってます。仕事から学べるものもありますけど、若い頃はスケールの大きい仕事を任せることも少ない。だからこそ、普段から何を考えているのか、仕事以外の時間をどう過ごすかで、若い時期のビジネスパーソンのスケール感は養われていくんじゃないでしょうか。
やはり若手で飛び抜けている人は、プライベートの時間もアンテナ張ったり勉強して深ぼったり、それぞれ自己研鑽に繋がる行為をしていることが多いです。
経営者のタイプを自分の目でみて、相性を確かめることが重要
ー急成長中のスタートアップへ、経営メンバーとして挑戦するなら経験以外の点もかなり重要になるんですね。
手嶋氏:そうですね。未経験であれば、更にコミットメントの強さが重要になります。「自分の会社だ」と思ってできるかどうか。未経験で経営層に加わるなら、信頼を勝ち取る必要があるので、それぐらいのコミットが必要でしょうね。
ー今後スタートアップのCxOポジションへの挑戦を検討されている方は、何を意識することが大切なのでしょうか。
西條氏:先にも話しましたが、IPO前のスタートアップの経営メンバーがどう組成されるかは、やはり基本はCEOを起点に考えられます。CEOが、COOやCFO、CMO的な役割まで担えれば、そのポジションは必須ではありませんから。
ただ、CEOにその能力があっても、会社が成長するにつれ見切れなくなったり、現場のマネジメントが性格的に向いていなかったりするケースもあります。
だから、CxOの採用には、CEOの性格とカバー範囲、それから会社のタイミングが重要です。
つまり、スタートアップのCxOに挑戦したいと考えている人にとっては、その企業の経営者がどんなタイプで、どんな仕事ぶりなのか確認することが大切ですね。それには、今の経営メンバーと直接会話することが最適でしょう。
手嶋氏:スタートアップのCxO、ないしはCxO候補として入社し、「自分の会社だ」というくらい、自分と一体化した存在としてみなし、そして120%のコミットメントで成功に導くことができれば、人生変わるほどの有形無形の報酬が得られ、人生を変えられる可能性があります。「経営者としてのキャリア」も獲得できます。ぜひこれを機会に一度検討して欲しいですね。
文=萩原愛梨 撮影=平沼 孝義
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