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窓辺にはポトスライムを

4月下旬に引っ越しをした。
物件を探すに当たっての条件はまぁ色々あったのだが、私には新居でどうしてもやりたいことが2つあった。それが「イスと丸テーブルでご飯を食べる生活を送る」、そして「キッチンワゴンを窓辺に置き、そこでポトスライムを育てる」だった。ポトスライムとは、黄緑色の葉っぱのことである。ポトスという葉っぱには様々な種類があるが、その中でも私は、明るい黄緑色のポトスライムが一番好きで、自分で育てたいなと思っていた。

イスと丸テーブルとキッチンワゴンが置けるスペースがありそうな物件を目ざとく見つけて契約したあと、夜な夜な楽天やAmazonを徘徊し、白を基調としたイスと丸テーブル、そしてターコイズブルーのキッチンワゴンを購入した。
4月24日に行われた引っ越しは滞りなく進み、イスと丸テーブルは部屋の隅に、キッチンワゴンは窓辺に、当初思い描いていたレイアウト通りの位置に、それぞれがきっちりと収まった。我ながら見事。あとは空っぽのキッチンワゴンにポトスライムの鉢が入れば完璧である。大型連休に入るやいなや、私は「ポトス…ポトス…♪」と唱えながら自転車を漕いで近所のホームセンターを訪れた。

ポトスライムは見つからなかった。
当てが外れて少々面食らったが、ここは野菜の苗に力を入れているホームセンターなのかもしれない、と思い直し、近所のお花屋さんも順番に見て回った。でもやっぱりポトスライムは見つからなかった。それならばと一駅隣のお花屋さんまで自転車を漕いでみたが、ここでもポトスライムは見つからなかった。
予想外すぎて、嘘でしょう!?と思った。育てたい、一番好きだ、などと言っておきながら雑な表現になってしまうが、あんなベタな葉っぱ、いつでもどこででも買えると思っていたからだ。

いま一時的に売り切れていて、かつ連休中は仕入れが止まっているのでは?とひらめいて、連休が明けてから再度同じお店を訪れたり、職場近くのお花屋さんにも目を光らせるようにしてみたが、やっぱりポトスライムは見つからなかった。もしかして今は時期じゃないのか?
こうなれば通販…と思ったものの、Amazonなどで売られているポトスは、複数個の苗がセットになっていたり、大きすぎるサイズ(銀行に置いて強盗の背丈チェックの目安にするようなやつ)だったりで、私の希望には沿わなかった。あと、植物に関しては実物を目で見て選びたいという思いもあった。
もう、前にお店で見かけたアイビー(甲子園の壁に這ってそうなやつ)で妥協するか?という考えもよぎったが、どうせなら最後までベストを尽くしたい。

空っぽのキッチンワゴンとの同居生活も1ヶ月ほど経った頃、私は電車に乗って他の街のホームセンターへ行くことにした。調べたところ、電車1本で行けるそこそこ大きいホームセンターと、電車を2回乗り換えて行くめちゃデカのホームセンターが見つかった。そこそこで成果が得られなかった場合はどのみち行くことになるので、最初からめちゃデカの方を訪れることにした。

乗り慣れない電車に揺られて辿り着いたホームセンターは、下調べ通りのめちゃデカだった。大型商業施設に来ると毎回同じ感想を抱くが、この世の全てがここにあるなと思った。園芸コーナーも近所のホームセンターのそれより遥かに広い。ここならば、という絶大な安心感を持って屋外エリアから順番に見て回るものの、ポトスの葉がなかなか目に入らない。え……。
嫌な予感を抱きつつ、もうそれの方が早いので、店員さんに「ポトスはありますか?」と聞いてみた。「ポトスなら何でもいいですか?」「いや、できればポトスライムがいいです。」「それなら…」
店員さんが案内してくれたのは、屋内エリアの大きな観葉植物コーナーの陰。そこには、鮮やかな黄緑色をしたポトスライムの苗が小ぢんまりと置かれていた。ついに…!!
店員さんに「ありがとうございます!!」と強めのお礼を言い、苗を一つずつじっくりと見て、お好みのポトスを選んだ。ついでに、せっかくなのでアロマティカス(という葉っぱ)も購入した。前に、お世話になっている美容師さんが「マジで簡単ですよ誰でも育てられますよ~」と教えてくださり、気になっていたのだ。簡単なのは良いことだから。
ビニール袋に入れた苗を大事に抱え、電車を2回乗り換えて帰宅した。


今日で、引っ越しからちょうど3ヶ月。
おかげさまで、ポトスライムもアロマティカスもすくすくと育っている。
部屋の隅にあるイスに腰掛け、丸テーブルにパソコンを置いてこの文章を書き、窓辺にあるターコイズブルーのキッチンワゴンから溢れる鮮やかな緑色を眺める時、あぁ、私は自由に暮らしているな、と思う。

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