一番痛かったこと
中年になるくらいまで長く生きていると、それなりに痛い目にあう。財布を無くすとか悪いことをして罰が当たるとかそういう話ではなく、物理的な痛みの話だ。
そんな中年の私が今まで生きてきた中で一番痛かったのは何か、と聞かれたら答えは決まっている。「痛風」だ。
今思い出してもあれはほんとに痛かった…。
ちなみに2番目に痛かったのは「ぎっくり腰」であの数日間続く痛みも辛かったけど、1位の痛風は痛みの爆発力が違う。
自分が痛風になるまでは「風が吹いただけで痛い」だなんて大げさすぎるだろ、とせせら笑っていたものだけど、実際なってみると確かに風が吹いただけでも痛いくらい痛い。風が吹かなくても痛い。
私の場合は右足の甲側の指の付け根当たりが痛くなったのだけど、ピーク時には足の向きを1ミリ変えただけで激痛が走るという状態だった。あまりの痛さに脂汗が噴き出て、「イィィッ!!」と思わず声が出る。「新しいカギ」に出てくるキャラクター「力見力」の「イィィッ!!」をイメージしていただくとこの苦しい感じが伝わると思う。
その日は朝起きた時から足に違和感があり、「なんか足が重いな…」と思いつつ会社に行き、「ちょっと痛くなってきた…」と感じつつ帰宅した。
以前社内の痛風持ちが足を引きずりながら歩いているのを見たことがあるので、「もしかしてこれが痛風?なんだそこまで痛くないな」だなんてまだこの時は甘く見ていた。
しかし痛みの本番は夜になってからやってくる。
ベッドに入り、さあ寝ようと目をつぶるも、足が誰かにぐりぐり踏まれてるみたいにじんじん痛い。会社を出たときは子供が踏むくらいの痛さだったのに、いつの間にか大人が踏んでるくらいの痛さに代わっている。
痛いのが気になって眠れずにいると、どんどん痛みが強くなって耐えられないくらいになってきた。大人が裏に画びょうをつけた靴でぐりぐり踏んでくるような鋭い痛み。めちゃくちゃ痛い。気絶したいけど痛すぎて気絶できない。
汗をだらだらかいてフーフー言いながら、どうにかこの痛みが治まらないかともぞもぞしていると、ふと痛みが治まった。あれ治まった?と足を動かすとまた激しい痛み再開。どうやら足の角度によって痛みがなくなるポイントがあるようだ。
寄せては返す痛みにアゥッオゥッと唸りつつこの「痛くない角度」をどうにか特定する。フゥー死ぬかと思った。ひとまずこの角度から動かさなければ朝まで耐えられそうだ。絶対足を動かさないようにしよう。
…と思って痛みが引いたことに安心したら眠ってしまった。
すると起きてるうちは無意識に込めてた力が抜けたのか、足が動いてしまった。再びやってくる激痛。「イィィッ!」と叫んで目覚める。慌てて足の角度を調整し、ふぃーと安心してまた眠る。眠るとまた足が動いて激痛が帰ってくる。
そんな地獄のようなループを繰り返しているうちにようやく夜が明けた。
朝になると今度は猛烈にトイレに行きたくなってきた。こんなに汗をびっしょりかいているのになぜ尿意を催すのか。トイレに移動しようとするも痛みで足に力が入らず、立ち上がれない。このままだと漏らしてしまうのでどうにか這っていくしかない。痛い方の足を床につけないようにずりずりとゆっくり這うようにトイレに向かった。このスピードで間に合うのか?!
寝室を出てリビングを通り、あと少しでトイレというところで妻が物音を怪しんで起きてきた。
夜明けに夫が床を這いずり回ってる…やべぇもん見た…という目で見られたがかまわず「足が、足が痛くて立てないんです~」と泣きついたら「痛み止めを飲んでみたら?」とロキソニンを出してきてくれた。
まずは限界寸前だったトイレを済ませ、おちついてからロキソニンを飲んだ。その時まで「飲んで痛みが治る薬」なんてものがあるとは思いつきもしなかったのだけど、飲んでから30分で嘘みたいに痛みがなくなって歩けるようになった。
すごいなロキソニン。そしてありがとう妻。女神様か。というか夜のうちに妻に相談しておけばあんな痛みを味わわなくてよかったんじゃないか。
その後痛みから解放された喜びをかみしめつつひと眠りし、近所の医院へ。
症状を説明すると「まあ痛風でしょうね」と診断される。検査のため採血しておきましょうということで別室に連れていかれた。
「痛風ですか?私の夫も痛風持ちなんですよ。もう4回も発作を起こしてて、痛がるくせに何度やってもこりないんですよねー」というベテラン看護師さんの話を聞きつつ採血される。「こいつもこりなさそうだな」と思われてそうな気がする。
帰宅して会社の上司に休む連絡を入れたら「ようこそ痛風持ちの世界へ」と歓迎された。経験者だ。もらったアドバイスは「毎日水を2リットル飲め」とのこと。水分をしっかりとることで尿酸値が下がるらしい。
痛風になると尿酸値を上げるような食べ物は避けないといけない。イクラやタラコなどの魚卵は尿酸値が上がりやすいらしい。好物なので食べられないのはつらい。
まあまた痛くなってもロキソニンあるし…という考えが少しよぎったけど夜味わった痛みを思い出し、治るまで絶対食べないでおこうと誓った。
これが私の人生で最も痛い思いをした1日の話だ。今後これ以上の痛い思いをせずに済むことを祈ってる。ほんとに。
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