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ともこさん

「私って、退屈を知らない人なのよ」

ともこさんはそううそぶきながら、シワシワの指にチリチリの白髪をくるくると絡ませていた。

「私って、退屈を知らない人なの」

知ってる。ともこさんは退屈を知らない人なの。私はうつむいて、心の中でともこさんに同意した。

ともこさんはピンクの花柄のカーテンが隅っこに引き寄せられている窓ガラス越しに光る澄んだ秋の青空をふかぶかと眺めながら、満足げに繰り返すのだった。

「退屈なんて知らないんだわ」

窓の外ではどこか遠くで子供たちが野球を行っている音がする。声援。バットがボールを捕らえる音、歓声。

「ほら、そこに」

震える指先を宙に浮かべて、ともこさんは優しげに微笑む。「そこに」

何もない。あるのは空間と、秋の午後の室内に射す柔らかな光だけ。ほこりが少し舞っている。私の視線がとまどうのをともこさんは目ざとく見てとり、じれったそうに首を傾けながら指先を震わせる。

ほこり、でしょうか。私がそう聞くと、ともこさんは唇をゆがめて微かに吐息をもらしながら

「あなたには、見えないの?」

私は目を凝らすふりをして、ともこさんが指さす先をまじまじと見つめる。いつもこう。

「ほら、そこよ!そこにあるじゃない」

先ほどまでの穏やかだったともこさんの顔つきは面影もなく、紅潮した皮膚と強張った口許でともこさんはヒステリックに叫ぶ。

「そこ!そこでしょ!ああもう、そこだってのに!」

いつもこうなんだ。平和に穏やかに始まるともこさんとの逢瀬は、怒号や金切り声による混乱で終わる。いつも。

はあ。私はため息をついて空間に手を伸ばす。ふう。やりたくない。

浮かんでいたほこりは、私が手を伸ばした瞬間にほこりであることを止め空間の中に凍りつく。それは傷口である。私はそのわずかな隙間に爪の先を食い込ませ、クッ、と押し広げる。コツがいるんだ、これは素人連中には到底無理な仕事。長年の、熟達した腕と経験に基づく勘が必要。さよなら。私はババアを広げた裂け目に向けて突き飛ばす。

「アア、アア!」

ともこさんは歓喜の絶叫をあげながら、半ば女陰に似た卑猥な裂け目に吸い込まれていった。ああ…。

どれほどの時間が経ったのか、気づけば野球の試合の音は止み、私は薄暗い室内にうずくまっていた。

ともこさん。

呼びかけられ、私は微笑みを浮かべる。シワシワの手を床について重い身体を持ち上げながらようよう振りかえると、そこには固い表情の私。

来ましたよ、ともこさん。

「あら、いらっしゃい」

ともこさんは満足げな表情で、チリチリの白髪をくるくると指に巻きつけているのだった。

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