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大逆の物語(10)アルファリウス

 蛇の王、最後の総主長。二十番目の〈皇帝の息子〉にして、第20兵団アルファ・レギオンの将帥。最も謎多き人物であるアルファリウスは、実は双子の弟オメゴンとともに“二つの体に一つの魂”持つ者である。しかし、その外見と活動について公式の記録は何一つ残ってはいない。未知のヴェールに隠された総主長の姿とは。

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 アルファ・レギオンは隠密と秘匿を特徴とする兵団であるが、それは総主長において極まっている。彼(彼ら?)について、わずかながら知られている情報は、〈帝国〉異端審問庁の対渾沌部門〈鉄槌の団〉に属していたクラヴィン審問官の手によって集められたものだが、クラヴィン自身もアルファ・レギオンに誘惑され、その所在は不明となってしまった。そもそもこのクラヴィンなる者にまつわる顛末そのものが、アルファ・レギオンによるミスリードではないかとさえ言われているのだ。このため、〈帝国〉が持つ〈最後の総主長〉に関する情報もかなり疑わしい。

 アルファリウスは総主長の中で最も背が低かったとされている。逆に、アルファ・レギオンの将官は通常のスペースマリーンよりも上背があるため、アルファリウスは頻繁に配下と入れ替わっていた。総主長の身代わりとなる兵団員は、特別な薬物によって心身ともに総主長になりかわったという。また、実際にサイキック・パワーによって精神を入れ替えたことすらあったというが、定かではない。

 アルファリウスにまつわる最大の秘密が、双子の弟オメゴンの存在である。皇帝がこの事実を知っていたかどうかはわからないが、兄弟は時に応じて“アルファリウス”の名で公的な場面に登場していた。“オメゴン”と名乗る人物が過去おおやけに現れたのは、ホルスとの会合のときただ一回である。

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 アルファリウスの出身についても諸説があってはっきりしていない。地球の〈帝国〉中枢で秘密裏に語られていた話によれば、彼は〈大征戦〉のさなかに〈月狼〉ルナ・ウルフ兵団によって発見されたという。当時、アルファリウスはささやかな宇宙艦隊を擁する人類の星系連合を率いていた。征服にやってきたルナ・ウルフ兵団は敵の巧妙な策略と奇襲によって翻弄されたため、この敗北に怒ったホルス自身が追討にあたったところ、不意打ちにつぐ不意打ち、罠につぐ罠に見舞われ、影を追うような捜索となり、ついに旗艦〈ヴェンジフル・スピリット〉が直接攻撃にさらされた。

 強力なホルスの艦隊によって敵の艦隊は追い散らされたが、その混乱の中、ひとりの暗殺者が旗艦に潜入することに成功した。そして、驚くべきことにホルスの指令室にまで到達し、総主長の親衛隊も苦も無く殺戮した。自ら暗殺者に相対したホルスはしかし、相手が兄弟たる総主長であることに気がついた。アルファリウスと名乗った暗殺者は、自分が長い年月の間、宇宙を彷徨していたのだと言ったが、出身については決して口にしようとはしなかった。彼が率いていた星系連合をはじめ、周辺の星々は残らず〈帝国〉の支配下となったが、そのいずれもアルファリウスの出身惑星とは特定できなかった。

 別の物語もある。黄金の近衛兵団によって捕獲されたアルファ・レギオンの隊長の精神から引き出された情報は、〈嵐の領域〉の南端に位置する辺境星区〈マンドラゴラの星々〉のさらに辺縁にある名も無き死滅惑星が舞台となっている。そこには人類の興隆以前に滅亡した異種族文明の廃墟が残されていた。二十番目の総主長の生育ポッドはこの無人の都市に落着したのである。全くの孤独のまま、助けもなく、荒廃した惑星での厳しい生存を強いられた若者は、廃墟に残る死者の怨念にも悩まされたという。

 長い年月が過ぎ、彼の孤独が破られるときがやってきた。空から星が降りてきたのである。それは、半人半獣の無法者と異種族が乗る海賊船であった。古代の廃墟を漁りにやってきたのだ。だが、彼らが遭遇したのは総主長の手による死だった。武器と知識と宇宙船を我が物にすると、若者は自分を造り出した者を探すために、宇宙の大海に乗り出したのである。

 また別の話もある。『闘争を通した人の魂の遷移』または『多頭蛇写本』と呼ばれる禁書の中に暗号化されて二つの逸話が残されている。ひとつめによると、総主長はバル・サヴォールという名の技術寡頭制社会の星に落着した。しかしそれから一年も経たないうちにバル・サヴォールはスロースというイモムシ状の異種族の大軍に襲撃された。ただひとりそれらに抵抗する力を持っていた総主長は異種族の虜囚となった。スロースらは彼の精神をねじ曲げて奴隷にすると、自分たちが襲撃を行う星に送り込んで、争乱と不和をもたらす生体兵器にしたのだという。この話は皇帝の到来で終わる。忌まわしい異種族の巨船を粉砕した黄金の戦艦によって救い出されたのである。

 もうひとつの話は驚くべきものである。アルファリウスはそもそも渾沌の手によって地球から拉致されなかったというのだ。重傷を負いながらも何らかの理由で地球に残った彼は、総主長の中でただひとり皇帝自身によって養育された。これは皇帝の側近き者たちにも明かされていない最大級の秘密であるという。成人したアルファリウスは皇帝の最高の間諜にして護衛となったが、やがて自らの宿命を完遂するために父のそばを離れることになった。

 こうした数々の逸話のどれが正しくてどれが間違っているのかを判別することは不可能に近い。だが、隠匿の基本が「木を隠すなら森の中」であるように、それぞれの話にはいくばくかの真実がちりばめられ、真相へのヒントが隠されているのかもしれない。

 地球で皇帝にまみえたアルファリウス(とその弟オメゴン)は、第20兵団アルファ・レギオンを任されて〈大征戦〉に乗り出した。このころすでに〈大征戦〉は終盤に達しており、皇帝は地球での秘密プロジェクトに専念していた。

 アルファリウスは兵団の総帥、オメゴンはその第一の副官として活動した。総主長が双子であり、二人で一人である秘密は兵団の中だけで厳重に守られ、他のスペースマリーン兵団に知られることはなかった。双子の指揮下で生まれた兵団員は背が高く強健で、総主長の狡猾さを受け継いでいた。兵団は銀河の辺境に遠征して戦果をあげた。その規律正しさと異物の侵入を許さない鉄壁の組織は、寡黙で謎めいた総主長とともにすぐに有名になった。アルファ・レギオン兵団の団結は完璧で、スペースマリーン全員のあらゆる活動が組織だっていた。戦場では一分の隙もない精密な連携が兵士と戦闘機械との間で保たれ、破壊工作や奇襲、隠密作戦や暗殺をも駆使したすばやく効率的な戦いが展開された。

 しかし、アルファ・レギオン兵団は、協同作戦中であっても他の兵団から距離を置いていた。そのスペースマリーンたちは他者に対して冷笑的で、どこか嘲るようなところがあったのである。アルファリウスと他の総主長との関係も同様だった。その秘密主義と戦場での協調性の欠如は、グィリマンやモータリオンとたびたび衝突を起こした。

 また、ともすれば策略に淫する傾向のあったアルファ・レギオン兵団は、正攻法のほうが効率的な場合であっても、自分たちが好む隠密作戦をとることが多かった。その中でも特に悪名高い例が、惑星テストラ・プライム攻略戦であった。アルファ・レギオン兵団は、惑星の首都を制圧して屈服させるチャンスがあったのにもかかわらず、敵に防備を固める時間を与えた。その上で敵軍を徹底的に分断して奇襲と罠の餌食にしたのである。一週間の血塗られた戦いの末、惑星防衛軍は九割の損耗を出して降伏した。

 なぜもっと単純な戦略を採らなかったのかと問われたアルファリウスは「たやすすぎないようにだ」と答えたという。

 この戦いでアルファリウスは他の総主長のほぼ全員から非難された。特にグィリマンは激怒して、このような戦闘の引き延ばしは「皇帝陛下の聖弾の浪費に他ならない」と断罪した。ただひとり、大元帥ホルスだけがアルファリウスの戦いぶりに感銘を受けて、アルファ・レギオン兵団の技量を褒め称えたのである。

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 このようにアルファリウスが親しくしていた総主長はただひとり、ホルスだけだったことから、彼が〈ホルスの大逆〉において大逆側についたのは自明の理であると言われてきた。事実、〈着陸地点の虐殺〉でとられただまし討ちの作戦は、アルファ・レギオン兵団の戦法を彷彿とさせた。しかし、アルファリウスが兵団を大逆側に投じたことには、兵団の外には知られていない別の理由があったという。

 〈大逆〉勃発の約二年前、アルファリウスはとある秘密組織からの接触を受けた。それは、アエルダリが率いる異種族連合の組織で〈謀議団〉(カバル)と名乗っていた。彼らは人類の内戦を予知しており、渾沌の禍つ神々の実相とその企みについても広範な知識を有していた。〈謀議団〉は、銀河から渾沌をしりぞける唯一の道は、ホルスが反乱に勝利することであるとアルファリウスに説いた。これが、アルファリウス・オメゴンが〈帝国〉と皇帝への忠誠心を保ちながらも、渾沌に魂を売った大逆者に味方した理由ではないかと語られているのだ。

 〈謀議団〉に属する人間の工作員にして〈永生者〉のジョン・グラマティカスは、〈ホルスの大逆〉に予見される二つの結末を説明した。最初の予知はアルファ・レギオン兵団が忠誠派についた場合である。この未来では皇帝が勝利をおさめる。しかし、皇帝は瀕死の重傷を負って〈黄金の玉座〉に封じ込まれ、生きても死んでもいない状態のまま、もはや人類を導くことができなくなる。それから一万年が経過して、〈帝国〉がゆっくりと衰退していく中、渾沌が復活を果たして人類を打ち負かし、絶滅に追い込むのである。

 もうひとつの予知は、アルファ・レギオン兵団がホルスと渾沌についた場合である。この未来ではホルスが勝利して皇帝を殺害する。大逆兵団は忠誠派を打ち破り、地球は今や渾沌の総魔長となったホルスのものとなる。しかしこの予知では、ホルスは父皇帝を斃した直後、そのショックで正気に戻り、渾沌の誘惑から自力で解放される。自分の凶行を憎んだ彼は、渾沌に汚染された人類の排斥を進め、百年の間〈帝国〉全土に血の雨が降る。人類は絶滅するが、渾沌もまた人類の滅亡によって滅び去る。なぜなら、渾沌の存在は〈歪み〉に映じる人類の感情の集積によるものだからである。

 〈謀議団〉はこの二つの未来の選択をアルファ・レギオン兵団に託した。すでに他の兵団を説得する時間は残されていなかったからである。百年の流血によって人類と渾沌を滅するか、それとも人類を存続させて戦乱の一万年の末に銀河を渾沌の勝利に帰さしめるか。

 こうして、アルファ・レギオン兵団は大逆軍に味方した。皇帝ならば人類を犠牲にして渾沌の滅亡を選ぶだろうと信じたのである。しかし彼らの苦闘は無益に終わった。ホルスは勝利できず、アルファ・レギオン兵団が渾沌を支持したにもかかわらず、人類の存続が決まったからである。〈謀議団〉の予知は正しかったのか? それとも彼らはひそかに渾沌に味方しており、アルファリウスと兵団を堕落させようとしただけではなかったのか? 真相は闇に閉ざされている。

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 〈ホルスの大逆〉の中でアルファ・レギオン兵団が行った凶行としては、〈着陸地点の虐殺〉で壊滅したレイブンガード兵団の復興を阻止した事件がある。オメゴンの主導の下、アルファ・レギオンの工作員が、死んだレイブンガードになりすまして潜入を果たしていた。

 このころ、自分の兵団を増員しようと必死だったコラックスは、秘密裏に総主長らのオリジナルの遺伝種子を集めていた。そのことを〈謀議団〉を通じて知ったオメゴンは、大逆の機械教団の協力を得て、遺伝種子の一部を悪魔から抽出した毒によって汚染することに成功した。結果、これらの種子から誕生したレイブンガードたちはウロコや角や尾といった悪魔の諸相を顕現したのである。オメゴンにそそのかされ、彼らは兵団に反乱を起こした。混乱の中、アルファ・レギオン兵団は首尾良くオリジナルの遺伝種子を奪取したのである。

 この貴重な情報はホルスを通して、エンペラーズ・チルドレン兵団の悪名高い科学者ファビウス・バイルに渡ったが、不完全で役に立たないことが後に明らかとなった。なぜなら、完全なバージョンはアルファ・レギオン兵団が秘匿したからである。

 他の目立った活動としては、〈大逆〉勃発当時、チョンダックス星系でウラノールから脱出したオルク残党と戦っていたホワイト・スカー兵団が地球の忠誠派と合流するのを、アルファ・レギオン兵団が阻止しようとした作戦がある。艦隊によって進路を封鎖したアルファ・レギオン兵団はホワイト・スカー艦隊と激しい戦いとなったが、総主長ジャガタイ・カーンの巧みな突破作戦によって、アルファ・レギオンの艦隊は大損害を被った。そしてホワイト・スカー兵団は地球に向かうことになる。

 しかし後にモータリオンからこの戦いの経過について疑問が提示された。本来、ホルスはジャガタイ・カーンを大逆側に引き入れるためにアルファ・レギオン兵団を派遣したのであったが、どういうわけかアルファ・レギオン兵団はことさらに敵対的な行動をとり、長引く戦闘の中で、ホワイト・スカーはローガル・ドルンから〈大逆〉勃発の報せを受け取ったのである。

 実際、この報せがジャガタイ・カーンに届いたのも、オメゴンが斥候を送って、ホワイト・スカー兵団の通信を妨害している施設を破壊したからであった。モータリオンは、これはホワイト・スカー兵団が皇帝忠誠派にとどまるようにアルファ・レギオン兵団が仕組んだようだと疑ったのである。なお、ホルスの反応は薄かったという。

 続いて、アルファ・レギオン兵団はホルスの命令で、惑星プロスペロ攻略で大きな損害を受けたスペースウルフ兵団の討伐に派遣された。敵の大艦隊が迫っていると知った総主長レマン・ラスは、ジャガタイ・カーンに救援を求めたが、ジャガタイは誰が味方で誰が敵かを判断できず、それに応えようとはしなかった。彼は地球にその疑問の答を求めに行ったのである。増援を得られず一時は絶望したラスだったが、アルファ・レギオン艦隊がやってくると陣頭に立って大逆者たちに戦いを挑んだ。

 この〈アラクセス星雲の戦い〉のただ中、ラスの旗艦にカタフラクティ・ターミネーター・アーマーをまとったスペースウルフ親衛隊が突如テレポートしてきた。しかしそれは変装したアルファリウスであった。ラスとアルファリウス、二人の総主長は激しい一騎討ちを戦った。艦隊戦はアルファ・レギオンの勝利に終わると思われたが、スペースウルフの救難信号をとらえたダークエンジェル兵団の艦隊がかろうじて救援に間に合った。ラスを忠誠派と信じた第1兵団の助力でスペースウルフはアルファ・レギオンの撃退に成功する。

 〈大逆〉終盤、大逆軍主力が地球に向けて進撃する中、アルファ・レギオン兵団は自分たちの優越性を証明すべく、インペリアルフィスト兵団が厳重に守りを固める〈帝国〉の中枢、帝殿そのものへの潜入を敢行した。

 周到な準備の末、帝殿に入り込んだ工作員は〈栄誉の殿堂〉(インベスティアリ)に到達した。そこは〈大征戦〉で武勲をあげた英雄たちの壮大な彫像が立ち並ぶ広間であった。中にはひときわ大きく総主長たちの彫像も立っていたが、二つの台座だけは空白となっていた。それは記録から抹消された〈喪われた総主長〉の空間であった。しかし、反逆した九人の総主長の彫像はまだ破壊されておらず、幕がかけられていた。あたかも、彼らにまだ帰参の可能性があるかのように。

 この広間こそがアルファ・レギオン兵団が目標とした場所だった。工作員はそこにあった彫像を全て破壊したのである。ただ二つ、アルファリウスとローガル・ドルンのそれを除いて。

 この挑戦を知ってドルンは激怒した。〈栄誉の殿堂〉に何者も立ち入ることを禁じた上で、必ず自分がアルファ・レギオンを討ち果たすと誓ったのである。

 潜入工作員たちが各地で破壊を実行する一方、アルファリウス率いる兵団の本隊は、大逆軍の地球攻撃先遣隊として太陽系に侵入した。彼らは厳重な防衛網をくぐり抜けるために、あらゆる機関を停止して慣性のみで艦艇を飛行させた。そしてその目標は、太陽系の早期警戒基地である冥王星であった。系内各地で発生するテロ活動にドルンの注意が散らされている間に、アルファ・レギオン艦隊は冥王星とその周囲を回る衛星群に奇襲をかけた。ここを守るインペリアルフィスト兵団のシギスムンド隊長は二百隻もの敵艦隊に対して三十隻の艦艇で立ち向かった。猛烈な砲撃が降りそそぐ中、圧倒的な敵襲に対してインペリアルフィストたちは決してしりぞくことなく戦い続けた。

 このとき、ローガル・ドルン麾下の精鋭のひとりアルカムスは、敵の本当の目的を看破した。アストロパス通信基地が設けられている要塞衛星ヒドラがそれである。事実、アルファリウス本人が率いる襲撃部隊がヒドラ破壊のため降下を果たしていた。これを迎え撃ったアルカムスらは、総主長と敵精鋭の前に打ち倒され、瀕死の重傷を負った。全てはアルファリウスの思惑通りに進んでいた。

 しかしそのとき、突如、インペリアルフィスト兵団最大の機動要塞〈ファランクス〉が大艦隊を引き連れて出現した。率いているのは地球防衛の総帥ローガル・ドルンそのひとだった。太陽の重力井戸を綿密に計算したインペリアルフィスト艦隊は、スリングショットを利用して信じがたいスピードで戦場に到着したのである。

 ドルンは自ら親衛隊を率いてアルカムスの位置、すなわち敵将アルファリウスがいる部屋にテレポートした。すぐさま凄絶な死闘が二人の総主長の間で始まった。アルファリウスは隙を見てドルンを槍で突き殺そうとしたが、ドルンはそれを予期していた。わざと突きを肩に受けて敵の動きを止めると、巨大なチェーンソード〈嵐の牙〉(ストームズ・ティース)でアルファリウスの両手首を絶ち、返す刀で首を粉砕した。総主長を失ったアルファ・レギオン艦隊は冥王星から撤退した。だが、“アルファリウス”はこの後も戦場に現れ続けた。それは双子の弟オメゴンが兄に成り代わった姿だといわれている。

 以後、アルファ・レギオン兵団は地球攻撃には参加せず、忠誠派の増援の到着を遅らせる作戦に従事することになる。しかしその貢献もむなしく、ホルスは皇帝によって斃され、〈地球の戦い〉は大逆軍の敗北に終わる。

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 〈ホルスの大逆〉終結後、アルファ・レギオン兵団は他の大逆兵団のように〈恐怖の眼〉に撤退することはなかった。かわりに、彼らは銀河東部へと去っていった。そして、それが主目的だったのかどうかはわからないが、ウルトラマール領域のウルトラマリーン兵団と衝突した。

 ロブート・グィリマンとアルファリウスが最後に会ったのは、惑星エスクラドアでのことだった。〈戦いの聖典〉に沿った戦術をとると考えていたアルファリウスは、総主長率いる分遣隊が兵団本営を急襲してきたことに驚いたが、同時に喜んだともいわれている。彼の柔軟で重層的で予測のつかない軍事戦術が、精密で正攻法なウルトラマリーンのそれに勝ることを証明するチャンスだと思ったのである。

 総主長どうしは戦場でまみえて戦い、アルファリウスは斃れた。総主長を討ち取ったことで敵兵団がしりぞくと考えたウルトラマリーンたちは驚愕した。アルファ・レギオンの残存部隊が翌日に反撃してきたからである。ウルトラマリーン分遣隊はさんざんに打ち破られて惑星から撤退した。総主長を失いながらも果敢に戦い続けたアルファ・レギオン兵団の様子から、アルファリウスの死は偽装されていたのではないかと疑われている。

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 その後、アルファ・レギオン兵団は銀河のあちこちを数多くの戦群に分かれて彷徨している。それぞれの戦群は独自に訓練され、あるときは小惑星帯に、あるときは古艦廃墟(スペースハルク)に、あるときは無人の惑星に隠れながら、兵団の大義のために隠密活動しているといわれている。このため、アルファ・レギオン兵団はおそらくは渾沌の変異に屈していない唯一の大逆兵団となった。それはあるいは、人類の皇帝への忠誠をひそかに守り続けている証左なのかもしれない。

 アルファ・レギオン兵団が〈帝国〉をおびやかす戦略として知られているのが、渾沌教団の拡散である。秘密裏に教団を惑星に潜伏させ、やがて武装蜂起させるのである。そうして社会を混乱させた後、兵団の本隊がやってきてとどめを刺すのだ。この悪名高い戦い方のため、アルファ・レギオン兵団は異端審問庁から特に危険視され、絶え間なく追討を受けている。

 地球政府はこの一万年の間に、三度にわたってアルファ・レギオン殲滅をおおやけに宣言したが、そのたびに〈多頭蛇〉たちはその異名のごとく復活を遂げてきた。確たる根拠地も持たないまま何度も討伐を受けている彼らの数が一向に減らない理由を、〈帝国〉の研究者たちはアルファ・レギオンが独自の遺伝種子の蓄えを持っているかではないかと結論づけている。

「多頭蛇は全てを支配せり」(ヒドラ・ドミナートゥス)

 こうして、アルファリウス・オメゴンとその子らは今も、余人にうかがい知れぬ目的のため、銀河辺境で血塗られた暗躍を続けているのである。

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……これが、大逆の総主長らの物語である。ここに記された逸話はその伝説の一端にすぎない。これからも異伝や真実が明らかになることだろう。彼らは全員、姿を消したが、紀元四十千年紀の人類の厄災であることに変わりはなく、いずれ再び恐怖の化身として〈帝国〉の行く手に立ちふさがることだろう。

(完)

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