見出し画像

2021年の映画ベスト

 というわけで今年もそろそろ発表したいと思います。新作映画の年間ベスト。
 選出してみたら何やかんやで今年は10本挙げられてしまった。ここ何年かはだいたい6とか7本しか選出できなかったのに……。久々にベスト10が完成してよかった。その喜びと共にお送りします。どうぞ。

10位:マトリックス レザレクションズ

 マトリックスの新作。
 近年の多方面の分野におけるリバイバルブームは自分たちの世代の郷愁感を刺激されつつも、安易に輪に入るのは現役の若者たちを市場においてマイノリティとして追いやることを助長しそうで少なからず抵抗感があったんだけど、まあ、マトリックスは乗っかっちゃったねえ……という感じ。だってマトリックスだから……。
 全編通して過去作のオマージュ要素が無数に散りばめられており、それら一つ一つを見付けて拾う度に「これもマトリックス!あれもマトリックス!」とキャッキャ喜びながら観てしまった。こういう楽しみ方は本来自分が持っている鑑賞美学に反する気はするのだが……自分の人生におけるマトリックスの重要性を改めて感じる次第だった。
 そういう小ネタ的ファンサービス以外の面だと、明らかに話が冗長だったりメタ言及が露骨すぎたりという欠点はあるんだけど、まあそれもマトリックスらしさだよね……と受け入れてしまうあたり本当に個人的な評価だなと思う。お許し下さいね。

9位:ベイビーわるきゅーれ

 むちゃくちゃ話題になってましたね。口コミでロングランヒットして続編もめでたく決定したそうで……。本当に良かった。ティーンエイジャーの女の子の殺し屋たちが主人公のアクション映画であり、青春映画。
 観た人の間で話題な通りアクションはマジで凄くて、ポスター左の伊澤彩織というスタントウーマンの役者さんが超高速で動きまくってて死ぬほどカッコいいです。最近の洋画だと女性のアクションは体重や遠心力を使ったぶん投げ系が主体なんですが、この人は真正面から男とガチンコで殴り合っててマジでクソヤベーです。
 その彼女とバディを組んで一緒に殺し屋をやっているのが、右の高石あかり演じる黒髪ロングの子で、この二人の掛け合いがいかにも若者っぽい軽薄さに溢れていて大変に楽しいです。かつ、その二人が各々自分の将来進む道について悩み、対立したりする姿も描かれており、青春ドラマとしてもまっとうに構成されているところがまた評価できるポイントだったりします。
 自分はもう若者とは言えない世代だけど、この主役2人の掛け合いなどを見て「そういや若いってこういう感じだったっけ……」と改めて感じ入ってニヤけながら頷く次第でした。おじさん的にはそんな感想もありましたよ。

8位:ゴジラvsコング

 ゴジラとコングが戦う映画。ゴジラとコングが戦う映画である以上、ゴジラとコングが戦う場面がよくできていればそれで充分であると言えるのだが、まあ余りにもその条件に忠実な映画である。
 とにかく人間が映っているパートの足の引っ張り具合がすごい。本当にマジでしょうもない。いらない。が、それでもゴジラとコングが戦艦の上でバッカンバッカン殴り合うし、コングが街中を高速で飛び回りながらゴジラに飛び掛かるし、終盤はあのあいつも登場して激アツバトル漫画的展開で大盛り上がりするし……となると、この映画としてやるべきことはしっかりやったのだと言っていいだろう。
 俺たちはゴジラとコングがしっかり戦う映画をこの目で観た、観たのだ、という感触の8位。

7位:モータルコンバット

 モータルコンバットとは何か? ……よくわからない。劇中であまり詳しく説明されないからだ。というかモータルコンバットとは武術大会であるらしいのだが、劇中でその大会は開かれない。何を言っているのかわからないかもしれないが、とにかく全てどうでもいいことだ。超人の能力を持った個性の強いキャラたちがいっぱい出てきて超人バトルをやるのだから……。
 非現実的な要素の強いバトルアクション映画であるが、この映画に割り当てられた予算は中規模程度の額である。正直潤沢とは言えない。だがその限りある予算を無駄なく分配して、多人数入り乱れた大戦映画を完成させたことにはやはりある種の感動がある。主人公が案内される味方の基地はボロい掘っ立て小屋そのままだし、魔界の描写も採石場でロケした映像の色調を変えただけっぽく見える。が、そういった『削れる部分は削って本当にやるべきことに集中させる』という魂が僕の心を掴んで引き寄せたのだ。まさに『Get Over Here!』と言うかのように……。
 真田広之は演技、アクション共に完璧でムチャクチャかっこいいし、全編通してずっと色んなキャラと戦ってるからかったるさもない。何だかんだで、こういうのが好きなら絶対に刺さる系のよく出来た映画であると思う。思うぜ。


6位:ザ・スイッチ

 殺人鬼が出てきて人を殺しまくるホラー映画……ではあるんだけど、一切合切古典的じゃなくて良い。全体的にめちゃくちゃ新しい。
 内気な女子高生と猟奇殺人鬼の人格が入れ替わって、人を惨殺しまくる女子高生を中身が女子高生のおっさんが止めに行くという、導入でかなり目を引くコメディ的なレールが敷かれるんだけど、その上で語られるのが豊潤なジェンダー論であるというのが素晴らしく深みがある。男の体を持つこと、女の体を持つことの意味に触れる描写が各シーンごとにあり、加えて後半には肉体と内面について愛がどう向き合うか?という問いに対して1000点満点の回答を叩き付ける神シーンが用意されている。今まで誰もが口先で言いつつも、行動に起こさなかったことをとうとうこの映画はやり遂げた。愛とはこういうことだ、ということを目の前で証明してみせた。これは映画史に残る偉業と言ってもいい。
 そんなこんなでかなり特異な内容ではあるのだけど、エンタメとしても抜群にスカッとできて抜かりない映画なので広くおすすめしたい。面白いぞ~。

5位:サイダーのように言葉が湧き上がる

 人と話すことが苦手な少年と人に顔を見せられない少女が出会う、ボーイミーツガールもののアニメ映画である。

 所謂コミュニケーションを題材にした映画であるのだが、ならば物語が辿り着く結論は一つであり、それはつまるところこの世に伝えずに伝わることなどないということである。終盤、当然それを果たすべき時が来てクライマックスとなるのだが、その方法が絶妙に設定を活かしたツイストが利いていて心が躍った。誰かと心を通わせる瞬間というのはいつでも、どんな形でも美しいものだなと思いながら泣いたのだった。


4位:スパゲティコード・ラブ

 ポスターあんまりよくないですよね、これ……正直面白そうに見えない……。かくいう僕もそこまで期待して観たわけじゃなく、何となく出演者を確認してまあセンス良さそうかなあと思って予告編も見ずに行ったわけです。ところが蓋を開けたら、マジで本当に最高の温かみを持った映画だった。
 現代の東京で生きる若者たちを描いた群集ドラマで、作中で焦点が当たるのはそれぞれの人物が抱える苦しみである。これはこの作品内に限った話ではないのだが、我々はみんな別々の場所で別々の苦しみを抱えながら生きていて、人として関わり合うことはあっても、その苦しみが明確に共有されることというのはほとんどない。我々はこの世界をそんな生き方で生きている。
 しかしそれは、我々が完全に他人と断絶されて独立していることを指すわけではない。実際のところ、この世界は色々な人間たちが絡み合って生きていて、誰かの気持ちは何らかの形で必ず誰かに届いている。あなたが苦しんだことのおかげで生きることができた、あなたが捨ててしまったものは私が拾い上げた。気付かないうちに作用し合い、本当のところはみんな孤独ではない。気付かないし、信じられないかもしれないが。
 終盤、配達員の青年が泣きながら常連のお客さんへの配達を終えて立ち去る場面がある。いつもぶっきら棒に商品を受け取るだけの客が、扉の隙間から青年に向けて言葉を発する。それは青年には聞こえていないかもしれない。が、確実に彼のことを見て、声をかけた。そういうことは現実で生きる僕やあなたたちにも起こり続けている。そうに違いない。


3位:ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結

  2016年に作られたスーサイド・スクワッドの、5年ぶりの新作。もうムチャクチャに楽しい。こんなに楽しい映画って人間に作れるんだ……という人間賛歌的思いすら湧いてくる。
 映画製作において作り手のやりたいことをやるというのは実際のところ難しいことで、特に大作映画になってくると興行収入との兼ね合いや社会的影響等の事情で浮かんだ独自のアイデアが全て盛り込めることは稀だとされてるんだけど、これは恐らくその稀なやつなんだと思う。
 破格の製作費を使ってやりたい放題やれるという、奇跡的な環境の下で作られたハチャメチャな映画だけど、それによって表現されているのが、美しくないものたちの中に宿る美しさという概念であって文句なしに泣ける。それは僕たちの世界でも見出し、見出されるべきものに違いない。


2位:くれなずめ

 所謂『男子』たちによる、清々しいまでの男子映画。全編通して男子のノリが貫徹されており、鑑賞しながら自分自身もまた男子であるということを強く意識せざるを得なかった。『男』ではなく『男子』であるところが重要である。
 そんなヘラヘラとした男子ノリによって深く結び付いた彼らが、やがてシリアスな別れに向き合わねばならなくなる。突飛とも思える手法で描かれるその過程は、しかしながらあまりにも彼らなりの真摯さで満ちている。不在を受け入れ、別れを告げ、進んでいく残された者たち。それを温かく見送っているであろう不在者。わかりやすい、綺麗な描き方をせず、敢えて滑稽で非現実的であることが返って現実的な切実さを強調する。アクロバティックな技を見事に決めた、友情についての大変な感動作である。


1位:空白

 観終わって今年の1位はこれだと確信したし、実際動くことはなかった。それどころか邦画史に名を残す傑作とすら言ってもいい。この映画の中にはクリティカルな場面しかない。観ている時間は全てこちらの心が突き刺される時間である。
 我々がとりあえず穏やかに生きているこの日常の、ごくごく薄い壁一枚を隔てたすぐ隣に、残虐かつ無限とも思える苦しみを味わわねばならない恐ろしい世界が広がっている、ということを冒頭のショッキングな事件を切欠として意識せざるを得ない。誰もがふとした拍子にそこへ足を踏み入れる可能性がある。我々の世界は実のところ綱渡りで、皆がそれに気付かずロープの上をふらふらと歩いている。本作はこれでもかとばかりにその構造を描き出すわけだが、同時にその逆説も唱えている。即ち、希望もすぐ隣にあるということである。
 重い苦しみに対する救済は劇的で、説得力のある者によって与えられるものだという無意識的な思い込みをこの映画は否定する。苦しみに陥るのがふとした拍子なら、救われる瞬間もまた同様に、全く思いがけない人物やタイミングによって訪れるものであると語り掛ける。
 絶望も希望もすぐ側に広がっている。であるならば、すぐ側にある希望を一つ一つ辿って生きていくことは必ずできるのだ。空白はそんな輝きを持つ映画である。


以上です。来年も映画観まくるぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?