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(いまさら)NewJeansの音楽の話がしたい

こんにちは、pireumです。

いつぞやにティザーが出たことすらすっかり忘れていた2022年7月22日、HYBEの新顔・NewJeansのデビューミニアルバムから、MVの公開が続々と始まりました。
そして気づけば8月1日にはデビュー、すでにミニアルバム収録4曲のMVが全て公開されています。

しかもタイトル曲で最初に公開されるのが「隠しコマンド」的なティザーって、もうコンセプトの作り込み方が違う。


ということで、HYBEの新顔、ミン・ヒジングループ、Y2Kド真ん中アイドルなどなど、
設定てんこ盛りで今月正式にデビューしたNewJeans。

すでにいろいろな方がいろいろ考察されていることと思うので、1週間も経つと今さら感がなきにしもあらずですが、
せっかくなので、私も楽曲について少しおしゃべりしてみようと思います。


1stミニアルバムを貫くレトロ系ティーン・ポップ路線

ミン・ヒジンが90's風、いわば「レトロっぽ」に強いのは昔から変わらずで、
少なくともオーディション時点で、この路線で行くことは明確になっていたようです。

ハッシュタグの意味は順に、遊び心ある、ラブリー、ユニーク、生意気。
この当時から、キッチュでキュートでレトロなグループを作るイメージで人選していたようですね。
(とはいえアニメーションの雰囲気や音楽の雰囲気的に、この時はもっとインターネットカルチャーっぽい音楽を想定していたのかもしれません)


さらに、コロナ禍の2年の間に、レトロブームはますます拡大していました。

中でもNewJeansデビュー作の具体的な構想に大きな役割を果たしたのは、
おそらく2021年、Y2Kの代表選手とも言えるオリヴィア・ロドルゴが大ヒットしたことでしょう。

ローファイな、あるいはチルっぽいとでも言えばよいのでしょうか。
あえてゲートリバーブで音をザラつかせ、全体的にぼんやりと霧がかかったような雰囲気がありながらも、
キックドラムのような尖った音が明確に目立つ音づくりは、
オリヴィア・ロドルゴのような「Y2Kど真ん中世代向けティーン・ポップ」が手本になっているものと思われます。

また、歌唱法的にも、「溜め」の感じやブレスの使い方、ウィスパーボイスの多さなどに、K-POPらしさというよりも北米っぽさが感じられます。
これ、メンバーは結構苦労したんじゃなかろうか…。
別事務所やスクールにいた子だったら、たぶん「Kドル歌唱法」的なレッスン受けてきたはずですからね。


ただし、全体的にNewJeansの楽曲の方が、オリヴィア・ロドルゴの同テイストの楽曲に比べて速いテンポに設定されており、
一つひとつのチャンネルがクッキリクリアに聞こえている(特にボーカルとリズム)など、踊りやすさとのバランスも感じられます。

さらにアルバム全体で見た時、3番目にレトロ色を抑えたCookieが配置されているので、
「俺はKポのアイドルソングが聴きたいんだよぉ!!!!」という層も離脱しにくい工夫がされているように思います。


ちなみに、Olivia Rodrigo - traitor (Official Video)
NewJeansのMVは、映像的にも似た部分が見られます。こちらは 'Attention' Official MV



K-POPのアイドルが、いまレトロコンセプトでデビューする意味

先ほども書いた通り、彼女たちはオーディション時点から「レトロでキッチュ」なアイドルの原石として発掘され、
Y2Kやニュートロといった、音楽以外のカルチャーも巻き込む一大トレンドに乗ってデビューしました。
ですから、もちろん細部は最近になって決定され、丁寧に作り込まれたのだろうとは思いますが、
この5人がレトロコンセプトから出発することは、3年前には決められていたことです。


「レトロっぽ」音楽とK-POPアイドルの相性の良さ

では、2022年のいま、彼女たちがレトロコンセプトを引っ提げてデビューする意味とは何か。
多少概念論的な話をしてみたいと思います。


前の項目で書いたように、NewJeansのデビューアルバム収録曲は、
全体的にローファイな音色に整えられています。

こうしたローファイな音楽の特徴は、綺麗な音源を、あえてどこか「ルーズで、人間的」(1)なビート感にしたり、
リズムの尖った音でそれ以外の音がかき消されるようなミキシングを行ったりといった、いわば不完全さにあるといえます。(2)

一方ダンスミュージックは、よりリズムに正確性が求められます。リズムがガタガタの曲って踊りにくいからね。
またNewJeansの楽曲は、ミキシングの方向性としても、それぞれの楽器・ラインの音がクリアに出ており、機械的な正確さが感じられます。

何よりも、この「緻密に計算されたヌケ感」にこそ、その正確性が現れていると言えるでしょう。


こうした「計算づくの人間らしさ/あざとさと、音楽商品としてのクオリティの高さ」というのは、まさにK-POPアイドルの十八番です。

正確に揃っていればいるほど美しいとされるパフォーマンス、ポップスとして完璧な音楽の作り込み。
機械に勝るとも劣らない正確さは、K-POPの真骨頂です。

さらにKドルは、きちんと人間性を見せるコンテンツも提供してくれます。
しかもNewJeansは、まだあどけなさの残る少女たちです。
まだ素顔満点なvlogの類は少ないですが、MVにあどけなさ=ある種の現実味がある点は、
同世代のIVEやLE SSERAFIM、NMIXXとは異なる点と言えるでしょう。


といいつつ、様々なところで指摘されているように、ここ最近のKドルは高い人間性も求められています。
かつてなら1年の謹慎程度で、ファンからも世間からも許されていたであろうスキャンダルでも、あっという間に脱退騒動に発展しかねません。
つまり、完全無欠の「人間」として、自分を見せなければならないのです。

でも、本当にそんな完璧な人間っているんだろうか。
少なくとも、有名どころのアイドルだけでざっと200人近くいるはずなのに、みんながみんな人格者なんてあり得るだろうか。
アイドルの「人間」っぽさって、本物だろうか、「つくりもの」だろうかー。


確かにこの世に存在するはずの少女たちなのに、その存在感が本物なのか、人工的につくられたものなのかわからない存在。
そんな存在としてのアイドル、そしてNewJeansを表現する上で、丁寧にアナログ感を表現したローファイな音楽は、これ以上なくフィットするのです。



まとめ

HYBEが、あるいはADORが考えていたのは、まず間違いなく前者のレトロ/ノスタルジアブームのことだけでしょう。

2019年のオーディション当時から、そのブームはずっと続いていますし、
韓国でニュートロな音楽が大量にリリースされた2020年、
オリヴィア・ロドルゴ大ヒットの2021年を経て、微調整されながらここに至ったことは間違いありません。


そして、まだしばらくは続きそうなこのレトロブームの中、ローファイなダンスミュージック路線を継続するのか、
はたまたポップ・ロック路線へ転換するのか、
あるいはブームが下火になる日が来たらどうなるのか…
まだまだNewJeansから目が離せそうにありません。

同時に、これから彼女たちが活動する間に、「K-POPアイドル」のあり方やイメージがどう変わるのか、
その時このデビュー曲の印象がどう変わるのかも含めて、今後がとても楽しみです。
私ももうしばらく、NewJeansを見守ってみたいと思います。


(1)Reynolds, S., "The cult of J Dilla," The Guardian: Music, 16 June.
(2)Emma Winstonm, Laurence Saywood, "Beats to Relax/Study To: Contradiction and Paradox in Lofi Hip Hop(1)," IASPM Journal vol.9no.2, 2019


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