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とってもパピヨンな迷探偵~切り裂かれた断章~第三章【前編】

   《1》
 
 
 由宇奈姉が警察に通報して間もなく、数台のパトカーがサイレンを鳴らしながらやってきた。現場の公園には規制線が張られ、その向こう側はあっという間に黒山の人だかりとなっていた。
 
 由宇奈姉はというと、県警の機動捜査隊の警官に一通りの事情を訊かれ、私が騒ぐからついて行ったら死体に出くわしたと説明した。
 
「つまり、あなたは犬の散歩中に被害者の遺体を発見したんですね」
 
「正確には、うちの花蓮がですけど」
 
「ああ、そのワンちゃんね」
 
「そう。せやから、このコを褒めてやって欲しいんやけど」
 
由宇奈姉はそう言って抱きかかえていた私を警官の目の前に突き出した。警官は呆気に取られた表情で私と姉ちゃんを交互に眺めながら、ぎこちない笑みを浮かべた。まあ、当然よねぇ。私も少し呆れているもの。
 
「はあ。え、エライですねぇ、えーと……」
 
「花蓮。蓮の花って書いて花蓮」
 
「は、はあ。花蓮ちゃん、お利口さんですねぇ」
 
警官は私の頭をそっと撫でてくれた。なんだか少し申し訳ない感じ。姉ちゃんも別にそこまでしなくてもいいのに。一見、親バカ丸出しの痛い飼い主のように見えるけど、これ、絶対にわざとやってるもん。ったく、この状況でこんなことをするなんて、どれだけ警察嫌いなのよ、由宇奈姉ってば。
 
「では、間もなく一課の者が来ますんで、詳細はそちらにお願いします」
 
「てことは、まだ帰られへんのですね」
 
「すみません、間もなく到着する思うんで」
 
警官の言葉に姉ちゃんはうんざりと言わんばかりに大きな溜め息を吐いた。
 
「次回作のプロット考えなあかんのに」
 
締め切りが終わっても、次の作品のための構想を考えなきゃならない。自由業に休みはない。働かざる者食うべからず。こんなところで足止め喰ってたら時間の無駄だよね。
 

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