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とってもパピヨンな迷探偵~切り裂かれた断章~第三章~【後編】

   《2》
 
 
 私達二人と二匹は血生臭い現場を離れ、勇作兄の事務所があるビルの一階のドッグカフェにやって来た。ちなみに店の名前は【Kitty‘s Kitchen】という。
 
 由宇奈姉が店のガラス張りのドアを開けると、一匹のゴールデンレトリバーが私達を出迎えた。
 
「おはよう、キティ」
姉ちゃんはキティの首回りをがしがしと掻いてやる。キティは嬉しそうに尻尾を振って応えた。
 
〈いらっしゃいませ~〉
 
さすが看板犬だけあって愛想の良さは折り紙つき。だって、彼女は人間だけでなく犬達にも愛想を振りまいているのだもの。私には絶対に無理だわ。
 
〈おはよう、キティ〉
 
私達はお互いの顔を近づけて挨拶を交わす。
 
〈おはよう、花蓮。今日も元気いっぱいって感じかしら〉
 
〈私はいつだって元気だわよ〉
 
〈そうね。でも、今日のあなた、少し変な臭いがするわ。まるで血の臭いのような〉
 
キティってば口調はおっとりしているけど、なかなか鋭いところがあるのよね。
 
〈あはは、えーっと、後で話すね〉
 
〈解ったわ。後で聞かせてもらうわね〉
 
由宇奈姉にリードを引っ張られたので、私は慌てて付いて行った。
 
〈よう、今日もいかしてるぜぇ、キティ〉
 
カルビはキティを舐め回すようないやらしい目で眺めながら、彼女の背後に回り込んでお尻の匂いを嗅いだ。そして、そのお尻を前足で捉えようとしたとき、勇作兄に思い切りリードを引っ張られて仰け反った。
 
〈ぐえっ、兄貴ぃ、いきなりなにするんだよう〉
 
「お前はこっちじゃ」
 
勇作兄はカルビを強引に引き寄せると、由宇奈姉と一緒にカウンター席のいつもの場所に陣取った。私とカルビは足元にある金具にリードを繋がれる。
 
「いらっしゃい。今日はいつもより遅かったですね」
 
マスターの声が聞こえてきた。カウンターが邪魔で顔が見えないのよね。挨拶したいから姉ちゃん抱っこしてくれないかな。って、してくれるワケないか。
 
「おはよう、マスター。もう朝っぱらから大変やってんから」
 
「こいつと花蓮、そこの公園で死体見つけたんすわ」
 
「へえ、そりゃ大変でしたねぇ。そういえばさっきからパトカーのサイレンが鳴りまくってましたもんね」
 
「まあ、死体がこの近くで二か所で発見されたもんやから、パトの数も半端ないですわ」
 
えっ? 二か所って……。初耳なんですけど。
 
「はあ? そんなん聞いてへんで」
 
勇作兄の言葉に姉ちゃんの声が大きくなる。
 
「お前、いきなり耳元でうるさいがな」
勇作兄は耳に手を当て顔をしかめた。
 
「ごめん。てか、そんなこと芦田のおっさん言っとらんかったで」
 
「まあ、お前をはよ追い出したかったんやろな。つうか、余計な首突っ込むなっつうことやろ」
 
「それにしても、こんなのんびりした町で二つも死体が見つかるやなんて、なんや気味が悪いですね」
 
マスターの言葉に由宇奈姉達は重い溜め息を吐いた。
 
 まあ、確かに昼間はのんびりした雰囲気の町だけどね。夜はどうかしら。少なくとも女性の一人歩きに関しては安全の保障は出来ないと思うけど。
 
「まあ取り敢えずマスター、モーニング頼むわ」
 
「私も同じく」
 
「はい。えっと、由宇奈さんは紅茶でしたね」
 
「うん。お願い」
 
二人はマスターにモーニングセットを注文し、マスターは厨房でその準備に取り掛かった。
 

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