檸檬
突然のスコール
街の空気が藍色に染まっていく
きみが雑貨屋に駆け込むと
店頭はセール品の傘の山 そのなかで
気がかりな檸檬色の傘を引き抜いたとき
きみは直感する
死んだら 檸檬色の傘に うまれかわるのだ
気が付くと盗んだ傘をさして
行くあてもなく歩いている きみ
ふと立ち止まった陸橋
下界を見下ろせば
藍色の水底 奔流となって行きかう
特急 急行 快速電車
きみが 戯れに傘を手放すと
傘は ゆっくり ゆっくりまわりながら
藍色の空気に落ちていく
警笛
りんご色の特急がとおりすぎると
檸檬色の水煙があがって 消えた
陸橋から眺めていた きみ
さよなら 檸檬色
うまれかわるはずだった セール品
きみは ひどく眠くなる
きみは いつまでも気付かない
きょうの きみは
きのうの傘の生まれ変わり
きのうの きみは
おとといの きみの 戯れで
りんご色の特急列車に砕かれた
そして
今夜の眠りにつけば
あしたの朝は セール品の傘の山で目が覚める
きみはずっと
檸檬色
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