地下室の窓から
「また光った。こんどは教会のほうだ」
――――こんどのは、大きかったね。火柱があがってる。
「讃美歌、すきだった。司祭さまは嫌いだった」
――――司祭さまの説教は長かったね。何か憶えてる?
「光あれ、と神が言った」
――――すると光があった。よく憶えていたね。
「光ができるまえに、光っていう言葉があったの?」
――――そうだよ。最初に言葉があった。
「静かになったね」
――――オオカミの遠吠えも聞こえない。暗くなって、寒くなってきた。
「終わったのかな」
――――何かが焦げる匂いがする。燃え尽きたのかもしれない。何もかも。
「光がなくなっても、光っていう言葉はあるの?」
――――わからないな。大事なことを、司祭さまは教えてくれなかったね。
「光がなくなっても、言葉があるなら、また賛美歌を聴きたいな」
――――大事なことほど教えてもらえないんだ。そういうものなんだよ。
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