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君が愛しくなるまで。

幼馴染といえる友達は、一人しかいない。
あの頃そいつは暴力的で、無理やりストーキングに付き合わされたり、とてつもない癇癪を起されたりなど、「友達」という言葉が呪いに感じるくらい、避けたい人間だった。

人間味をもって読んでもらいたいから、仮名をつけよう。風太(ふうた)だ。
彼が無茶苦茶だったのは小学生の頃だけで、中学生になるころには随分付き合いやすくなっていたようにおもう。
それでもやっぱり自分は風太が苦手で、それでいて嫌いにはなりきれなかった。

僕は小学3年生から中学に上がるころまで不登校だったのだけど、その原因のひとつは風太だった。小学生がそうなる理由なんて幾らでもあって、今考えると、彼のことはその中では小さなことだったとおもう。
けれど、僕たちはたしかに友達で。その関係の中で「不登校」になるということは、彼に呪いをかけてしまったと、僕は思っていた。

中2になるころ僕は隣県へ引っ越すのだけど、それからも風太は時々に僕を遊びに誘った。それは3か月に1度であったり、1年に一度であったりしたけれど、とにかく33歳現在に至るまで、連絡をつづけてくれたのだ。

風太と僕はかなりタイプの違う人間で、幼馴染でなければ友達にはなっていないとおもう。だから、僕をずっと遊びに誘ってくれるのは、正直彼に贖罪の意識があるのではないかと思っていた。

でも、それを僕は嫌に思っていたわけじゃない。いや、彼と遊ぶことを贖罪としてる傲慢な自分もいたけれど、そんなことはいい。

今じゃ20年以上の付き合いだ。そんな過去なんてのはどうでもいいと言えるくらい、いつの間にか大切な友達だった。
ただ、それでも。懺悔のために友達をしてくれてるのではという気持ちが、心の隅にいる。

お互い30代となり、僕も子供が産まれたりと忙しく、電話などはしながらも、風太とは3年以上遊ばない時期がつづいた。
先日、いつもの通り急にLineが鳴り、久しぶりの誘いがはいった。

大抵はカラオケにいこうって話なのだが、今回は少し違った。
カラオケ自体は一緒なのだけど「飲み放題を入れて、たけお(僕のあだ名)と酒を飲みながら歌ったり喋ったりしたい」と言うんだ。

風太はそれほど酒好きではなく、飲みあった経験は2度ほどしかなかった。呑み助として幼馴染のこの誘いはとても好ましく、とても嬉しかった。

そして当日。これが本当に、心から楽しかった。
酒が加速させてる部分もあるけれど、いつも通りの冗談を言い合ったり、彼の意外な近況を聞いたり、彼の良い部分を再発見したり。とにかく肴(さかな)になることばかりだった。

結局、カラオケには6時間以上いた。
その中で、風太は「たけおにどうにも惹かれるところがあるんよな。だから、たまに遊びたくなるんよ。最近はそういうやつと遊んでるんだ。」と語った。

多分そうなんだろうとは、思っていた。でも改めて言葉にされると、涙が出そうになった。
だって、彼がいじめた過去と、僕がかけた呪いの、歪な贖罪がこの関係だと思ってたからだ。

随分酒も入っていたから、僕はこの気持ちをそのまま言葉に出した。

「風太は、償いのつもりで誘ってくれてるんじゃないかって」

思っていた、という前に、もう泣いてしまっていた。

風太も「全然そんなつもりはないよ」と言いながら潤んでいて。
僕たちは幼馴染だけれど、心暗い部分を露出させることはなかった。だから、こんな交わりは初めてで。幼馴染というだけの曖昧な「大切」が、輪郭を描くのを感じた。

これを書いている今日(正しくはもう昨日だけれど)、僕は死ぬほど働いて疲れて帰ってきてた。もう妻も子も寝ていて、2缶ほどチューハイを呑んだら寝ようと思っていたところに、風太からまた連絡がきたんだ。

「本当に楽しかった。またおんなじ内容で遊びたい。予定はどう?」

と言う。

僕の心にはもう、愛しさしかない。


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