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【長編小説】異精神の治し方「合法処刑」.3

 ルルさんに着いて行く。校舎を出るとキャンプ用品の様な道具が大量に乗った台車が置いてあった。
「ニーコさん、こんな雑用で申し訳ないんだけど、これを処刑場設営地に運んで欲しいの」
 かなり重そうだ。正直ハイ喜んで、とは言いたくないが、ルルさんの仕事を邪魔するわけだし、これくらいのことはやるしかない。
「重そうですね」
 とはいえ、少しだけ不満が漏れてしまった。
「もちろん、全部じゃないですよ。ニーコさんが手伝ってくれるお陰で運ぶ量を分担出来るわけです」
「え、じゃあ一人で運ぶ予定だったんですか?」
「ええ、この時期は毎年人手不足ですから。プール開きの準備、合法処刑も直ぐに始まるので処刑場の設営。あと、今年は色々とイレギュラーがありましたし」
 イレギュラーとは十中八九、私とカオルのことだろう。
「まあ、細かいことは置いておいて、行きましょう。場所は別館と壁の丁度中間地点です」
 もう一台出した台車に荷物を移動させ、歩き始める。

 歩きながら聞いた話では、例年は合法処刑は別館内にある中庭で行われていたみたいだ。
 しかし、今年はカオルの蛹化で封鎖されてしまい、急遽場所を変更したとのことで、準備に時間が掛かっているようだった。
「殆ど準備は終わってるんだけどね、もう一息で。今日中に終われば一応一日遅れだけど明日から合法処刑が始められる」
 合法処刑と聞くと、胸がきゅっと痛くなった。
 
 処刑場に着く。そこ場所は二メートルほどの簡易的な壁代わりの布で囲まれていた。風にはためくと繋ぎ目の間から仲が少しだけ見える。
 ルルさんが入り口に立っている係の人に声を掛けると、布が捲られた。私たちは台車を押して中に入っていく。
 処刑場の風景が見えた。陽射しは刺すように暑い筈なのに、そこは冷たい空気を感じた。
 空間は広く取られている。プールと同じくらいだ。その真ん中に石で出来た椅子が置かれていた。その周りには同じ石で出来ている棒が円形に建てられている。
「あの椅子に、異精神者が座るの」
 ここでいう異精神者とは、もちろん合法処刑人に合法処刑を執行される人のことだ。
「さあ、準備を済ませましょう。後はこの日除けのテントを設置します」
 黙々と組み立てていく。作業自体に難しいことはないけど、数が多かった。
 やっと終わると、昼はとっくに過ぎていた。
「ニーコさん、お疲れ様」
「え、もう終わりですか?」
「はい。本番は明日ですので、今日はここまです。明日はここに来る時に椅子を持ってきて貰ます。それを昼までに並べて、午後三時には関係者を中に入れていきます。二十人ほどです。それから一時間後に異精神者がやって来ます。その三十分後に合法処刑人が現れて執行を行います。その後は終わり次第片付けを開始し、翌日の準備に入ります」
 ルルさんは淡々と語る。私も淡々と理解しようとするけど、やっぱり異精神者のことが頭から離れない。
「ニーコさん、本当に手伝いますか?」
 不安な気持ちが表れていたのか、ルルさんが心配した声で聞いてきた。
「まあ、ニーコさんには物質化の危険性がないので、ある程度融通が効く状態です。もし、明日無理そうであれば、言って頂ければいいので、あまり無理はしないようにしてくださいね」
「ありがとうございます。大丈夫です。明日もしっかりと手伝います」
 私がいうと、ニーコさんは笑った。
「では、今日は体を休ませてください」
「はい。じゃあ、戻りましょうか?」
「悪いけども、ニーコさん一人で戻ってください。私はまだやることが残ってますので。あ、あとこれ、調べておきましたよ。プールを掃除した時に居た二人の情報です」
「ありがとうござます」
 紙を受け取った。顔写真が載っている。確かにあの時の二人だ。

鳥居ぴぴき 1994年5月17日生まれ 思いつきで、文章書いてます。