なんでガチャ回すかわかりますか?
雷鳴がなり、南の果ての海が荒れた。後日、様子を見にいくと新たな大陸がそこにあった。
「——もちろん君は既に知っているんだろうね。あの大陸のことは」
国王が言い、冒険者は旅立つ。その未知なる大地に。
はいはい。ワクワクっと。
テンプレート。でもワクワクしますね。一体その大陸には何があるんでしょうか。
巨大な獣。知能を持った爬虫類。言葉を記憶した石。謎の少女。かつての伝説。エトセトラ。
いやー。何より、こうやって想像したワクワクすることを超えてくる〝何か〟がそこにはあるんですよ。必ずね。
その〝何か〟を手にしたときの脳内、あまりにも満たされ過ぎですよね。
別に、冒険に限った話じゃないんですよ。例えば、サッカーや野球。これだって、想像を超える〝何か〟を見たいってのがあるでしょ。そうでしょ?
生配信が流行っているのも、想像以上の出来事を期待しているからだと思います。
私が中学生の頃、モンスターハンター2Gが流行りました。
友達と集まって遊ぶのはもちろん楽しいわけですけど、何より私をワクワクさせたのは、武器や防具を製造することでした。
新しいモンスターを倒すと、そのモンスターから素材が取れます。鱗だったり骨髄とかいう想像し難いものだったり。
新しい素材を手に入れると、武器屋さんは品揃えが新しくなります。
手に入れた新しいモンスターの鱗や骨髄を使った新しい武器を作れるようになるわけです。
その武器は作る前に、どんなものかを確認するプレビューみたいな機能があるんですけど、はいこれ、見た瞬間〝何か〟ですわ。
このとき私の脳内は〝何か〟を手にするんですね。
モンスターを倒すのは大変だけど、その見返りに手に入るこの〝何か〟が大切なんですよ。
「冒険者よ。その鞄にいっぱい詰まった宝石は一体なんなのかね?」
冒険者は未知なる大陸で、洞窟を守る〝食人植物〟に打ち勝ち、中にある宝を持ち帰ったのだった。
「その宝を国に預けるだと。ふむ。分かった。国をあげて君たちのバックアップをより強靭なものにしよう」
冒険者はまた旅立つ。
攻略本って知ってますか? まだ今の世の中から無くなってませんか? もしかして攻略本ってジェネレーションギャップですか?
『本』これを『ボン』って読むの、妙に古臭い感じがするな。
てか、言いたいことはそうじゃなくてね……。
あるとき、モンハンの攻略本を誰かが持ってきたんですね。もう、詳しい部分は思い出せないですけど。
すごいんですよ。攻略本って。そこにはまだ出会ったことのないモンスターが載っていて、さらにそのモンスターの素材を使った武器や防具まで画像付きで載ってるんです。
お友達そっちのけで読みまくりましたね。ゲームもせずに。
結果、ゲームで得られていた〝何か〟は失われてしまいました。
あのワクワク感がなくなると、途端にモンスターを倒すのが作業になってしまったんですね。
未知なる大地。その奥地に一人の男が居た。彼は若い。しかし目に光がなかった。
男は冒険者を一度見ると、こう言った。
「この島のすべてを教えてやる」
冒険者はうなずいた。一人の男は未知なる大地のことを隅々まで教えてくれた。
生息する危険な生き物の数々、またその撃退方法。宝石や遺跡の場所。
この大地に、未知なる場所は無くなった。
透視能力を持った人間がババ抜きを楽しむことはできない。
もし楽っmでいるように見える人がいたら、それはババ抜きを楽しんでるんじゃなくて、別の〝何か〟を楽しんでる。
俺は1994年に生まれた。
中学の進路で俺は工業高校の電気科を選ぶことにした。その頃、俺は音楽に夢中になっていて、ギタリストになるつもりでいたんだけど、とりあえず高校に行かなくちゃいけないから、エレキギターに関係のありそうな電気科を選んだ。
「でもね、珍しいですよ。そうやって夢を持ってるのは」
進路相談で先生が俺にいった言葉だ。
別に、俺は熱心に先生を説得したわけでもない。ただ、そんな感じのことを思ってると言っただけで、珍しいと言われた。
同級生がサッカー部にいて、何気なく、「プロ目指すの?」と聞いたとき、彼は「現実的じゃない」と言った。
中学生の頃(高校のあたりでも)俺にとって世界は〝未知なる大地〟だった。
けど、彼らにとってこの世界に未知なる場所は残ってなかったのかもしれない。大人たちを見て、その先の将来のババを引かないようにしていたのだろう。
自分探しの旅は、人生の攻略本によって未知なる場所がなくなった。
1994年生まれの俺たちには、寂れた大人に囲まれていた。いろいろな種類の大人だ。なりたくなくて、別の攻略法を考えたつもりでも、すぐに最適化された答えが見つかった。
「最近の子は主体性というか、自主性? 何かにチャレンジする気持ちがないよね」
そりゃあ、もちろん。だって、俺がするチャレンジって既に誰かがしてるんだもん。このチャレンジの先に〝何か〟があるのなら、それなら俺だってチャレンジ出来たかもしれない。
すべてを知った冒険者は、〝未知なる大地〟の金銀財宝のすべてを持ち帰った。その頃には既に冒険者を引退する年齢になっていた。
彼の人生は、攻略本を見ながらクリアしたゲームのようなものだった。彼が死ぬ直前に見た走馬灯を俺は若かりし頃の冒険者と一緒に見た。
映像は、彼が未知なる大地で目に光のない男に出会うところをクライマックスにして終わった。
冒険者にとって、その時より先にある、未知のない冒険になんの意味もなかったんだろう。
たとえどんなに富や名声を得たとしても。冒険者は言う。
「見返り少なっ!」
見返りの少ないことなんてやらないんです。見返りって言っても、お金だけの話じゃない。ワクワクする〝何か〟です。そもそもワクワクすることがないとお金も回りませんし。
今、未知なる部分ってないんです。だから、挑戦もしません。見返りが少ないから。
「でもほら、大企業でいっぱい働けば、お金もいっぱい入って、いい車も買って家も持って家族も持ててね……」
うん。見返り少な。
ちなみにタイトルは、ガチャは未知だからワクワクする。と言う意味です。けど、俺はガチャを回しません。すまんな。
鳥居ぴぴき 1994年5月17日生まれ 思いつきで、文章書いてます。