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一つ 心の臓が脈打ち始め

そろそろマタニティマークを持ちたかったのだが、5週そこそこでベビー用品店や役場にもらいに行くのは気が引けたので、レジンで自作した。職場では外しておきたいので、紛失しにくさとつけ外しの手軽さを両立できるカラビナ仕様。これでつわりがしんどい日も堂々と優先席に座れる。

胎嚢確認から2週間。つわりと思しき体調不良は波がありながらも日々確実に悪化していた。嘔吐こそほとんどなかったものの吐き気は四六時中続き、倦怠感と眠気で家と職場の往復が精一杯、毎日が二日酔いのようだった。夫は心配しながらも「なんとか生きているってことだよ」と励ましてくれたが、中には流産しても死亡した胎児が排出されるまでつわりが続いた症例もあるそうだ。これだけつらい思いをして残念でしたとか、完全につわり損じゃないか。

それでもなんとか予定通り病院に行き、仕事の合間に不妊治療センターを受診した。内診台に上がるとカーテンが少し開いて、エコーの画面が見えた。

「心拍見えてますね。ここが頭でここが胴体、大きさはあまり問題にならない時期ですが週数相当です」

丸い低エコー像の中に、しっぽを切られたトカゲのようなシルエットが映っている。目を凝らしてみると真ん中が拍動しているようにも見えるが、産科のエコーは研修医以来見ていないので見間違いかもしれない。

この時期のトカゲのような胚は可愛くて好きだ。高校生物のカエルの発生も、大学で学んだヒトの発生も、途中でいったんトカゲになるのがとても可愛くて好きだった。勉強していてとても楽しかったのを覚えている。ちなみに高校生物ではウニの発生もやったのだが、ウニはトカゲの姿を通らないのでもう全然覚えていない。食べるとあんなに美味しいのに。

あのトカゲちゃんがこの腹の中にいるのかとこっそり感慨に浸っていると、奥に引っ込んでいた主治医がデンモクを小さくしたような物体を手に戻ってきた。小さな液晶に来年の日付が表示されている。妊娠週数や予定日を計算する装置だそうで、初めて見るおもしろ装置に予定日そっちのけで見入ってしまった。

エストロゲン製剤はここからもう数日飲んで終了、プロゲステロンの膣錠はもうしばらく続く。順調に行けば不妊治療センターは次回でいったん卒業し、紹介状を持って妊婦健診を受けに行くことになる。健診と出産をどこにするか調べて、次の診察までに分娩予約の連絡をしておくように指示された。分娩予約はなるべく早い方がいいとは聞くが、まだ7週そこらのトカゲなのにそんな先のことを考えていいのだろうか。

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