映画パンフレット感想#37 『HOW TO BLOW UP』
公式サイト
公式noteアカウントによる紹介記事
感想
映画パンフレット感想記事もこれで37記事目になる。なんでもかんでも「マストバイ」と書くのは不誠実かと自重し、特に直近の記事では意識的に控えてきたが、今回は「マストバイ」と断言したい。パンフレットとしてのクオリティーが優れているのは勿論であるが、この映画が持つある特質をフォロー/カバーする役割を大いに担っているように感取したからだ。
収録記事については、上記にリンクを貼った「公式noteアカウントによる紹介記事」に詳細が明記されている。そもそもパンフレットの内容を公式が公開してくれるのはそれだけで有り難いのだが、X(Twitter)で文字数制限もあり一部のみに止まるのが一般的。今回のように別途長文の紹介記事を用意するのは異例だ。それだけ力を入れているのだろう。
映画『HOW TO BLOW UP』は、気候変動を憂慮する環境活動家や環境汚染により命が脅かされた人物など、若者を中心とした8人組が結託し、抗議活動として巨大な石油パイプラインの一部を爆破する一部始終を描いた作品だ。劇中では作戦参加メンバーそれぞれの過酷な境遇や、行動に移した動機などの背景が端的かつ的確に語られ、作戦決行の正当性が理解できる作りにはなっている。
しかし語り口は、スリリングかつカタルシスをもたらす演出と構成で、エンターテインメント性が強い。つまり、虐げられた弱き者たちが支配者たる強者に復讐する爽快さも持ち合わせている。ただしパイプラインの爆破は、あくまでも犯罪行為にあたる破壊活動であるには違いなく、ある種の危険な側面を持っているのもまた事実。そこで求められるのが、「受け手のリテラシー」と「議論」である。むしろこの映画は観賞後の「議論」を要請することこそが真の目的であるように思える。
その「リテラシーを高める」と「議論をする」のに一役買うのが、このパンフレットというわけだ。気候科学者の親を持つダニエル・ゴールドハーバー監督がどのような想いでどのようにこの映画を作ったのか。気候変動の現状やそれを生むシステムの正体、アクティビストたちの活動と実相はどのようなものか。掲載された全ての記事が学びとなり、知的好奇心が満たされた。映画とパンフレットをセットで楽しみ、学び、初めて鑑賞体験が完結する。だからこその「マストバイ」である。
パンフレットを読んだ上で思い至ったのは、映画『HOW TO BLOW UP』は「擬似サボタージュ」であるということだ。本書にもあるように、平和的な革命活動も聞き入れられなければ行き着く先は、実効性の高い「サボタージュ(財物を破壊する活動)」や「暴力的な直接行動」だ。であれば、国家や巨大資本は本作を「擬似サボタージュ」として真摯に受け止め、方針転換を図るべきではないか。気候変動(環境破壊)も含めて全てが手遅れになる前に。
(余談:一部のページが、鮮やかな赤ベタを背景に黒文字の配色になっていて、目がチカチカして読みづらかったのだけは気になった……)