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映画パンフレット感想#39 『SCRAPPER/スクラッパー』

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感想

少女ジョージーが抱える、母を亡くした悲しみ。警戒心が強いジョージーのもとに、過去に一度も姿を見せなかった父親ジェイソンが突如目の前に現れ、互いに手探りで距離を縮めていくひりついた時間。物語は確かに憂いを帯びているはずなのに、キャラクターたちや映画そのものがもつ想像力豊かな空想、ユーモアや遊び心が湿っぽさを強調しすぎない。

この明るさ優勢の塩梅にすっかり虜になり、自然とパンフレットを欲してしまった。あとは映画文筆家の児玉美月氏が寄稿しているとの情報は事前に知り得ていたので安心感があったし、劇中に登場したレトロビデオゲーム風の音楽とテキストウィンドウが使われたシーンや、カラフルな色彩でカメラに向かって人物が語りかけるようなウェス・アンダーソン風のスタンダードサイズの映像など、特殊な演出についても何か情報が得られればという期待もあった。

特殊な映像演出について、意図やオマージュ元などの詳細な情報は残念ながら掲載されていなかったが、思わぬ収穫が多数あった。また、本作の大きな魅力のうちのひとつ、ジョージーを演じたローラ・キャンベルの豊かな表情が、収録された多数の写真で楽しめるのも嬉しい。記事数や情報は決して多くはないが、価格は相応で十分満足できるパンフレットだった。

思わぬ収穫のうちのひとつが、作家のブレイディみかこ氏による寄稿だ。イギリスの映画・ドラマには労働者階級の日常や貧困を描く「キッチンシンク」というジャンルがあり、本作はその「キッチンシンク」ドラマの定石を覆していると指摘する内容。つまり『SCRAPPER/スクラッパー』は、若手映画作家による長編デビュー作でありながら、イギリス映画史における革新性を有しているという。この記事と出会わなければ気づくことができなかっただろうし、よい学びとなった。公式サイトの「Comment」にて記事の一部が抜粋されているので、興味のある方は是非目を通してほしい。

また、劇中でジョージーが左耳に装着していた補聴器についても、いくつかの記事で触れられていた。シャーロット・リーガン監督へのインタビュー記事では関連するちょっと笑えるエピソードが。児玉美月氏の寄稿では、補聴器が映画で取り立てて言及されないことへのひとつの大切な捉え方が提示されている。前述の「ちょっと笑えるエピソード」は、公式Xアカウントによりポストされていたので下に引用する。このポストに貼られたリンクから、パンフレット掲載のインタビュー記事の一部分を読むことができる。「自転車泥棒と闇業者への転売」についての監督の考え方も、意外性があり面白いのでおすすめしたい。

これはパンフレットからでなくても得られた情報かもしれないが、撮影監督のモリー・マニング・ウォーカーが7/19公開作品『HOW TO HAVE SEX』の監督・脚本と知って驚いた。カンヌ映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した作品だ。『SCRAPPER/スクラッパー』でも、横長のスコープサイズのフレームを十分に活かした構図が、シンメトリー以外でも多く見られ、引き出しの多さや巧みな技術を感じつつ魅了された(シャーロット・リーガンの作風である可能性もあるが)。『HOW TO HAVE SEX』もますます期待が高まる。この情報も、公式Xアカウントによってポストされていたので下に引用する。

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