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【極度の人見知りシリーズ-1話】その人見知りは産声さえ上げなかった

このブログは、とんでもない田舎に生を受けた人見知りの少年が、やがてコミュ力お化けになり年収3,000万超えを果たす迄の軌跡である。

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「時間がありません。今すぐ決断してください。」

手術室から飛び出てくるなり、医者は端的に、語気を強めて判断を迫った。
判断を迫られたのは父と子。
27歳の青年とその父だ。

場所は青森県の某病院、元日から少し日が経った時であり、太陽はとうに沈んでいた。

医者が語気を強めたのには理由があった。
手術室に横たわる青年の妻は子を宿していながら、心臓は停止していたからだ。

青年の妻は生来心臓に病を抱えており、騙しだまし生きてきた。
子を授かり、可愛い我が子の出産を今か今かと待ちわびていたのだが、先に訪れたのはあの世への片道切符、心停止だった。

医者が迫った決断は二択だったが、青年が判断するには余りにも酷な二択であった。

1.妻に電気ショックを施す
2.妻を諦めて子を取り出す

妻に電気ショックを施した後、子を取り出せば良いのではないか。
そう考えるのが定石ではあるが、事はそう上手くはいかない。
医者が続けて言葉を発する。

「奥様の心停止後、2回の電気ショックを施しました。依然として心停止中、3回目の電気ショックで奥様の心拍が回復する可能性はありますが、お子様は…。」

3回目の電気ショックで妻は息を吹き返すかもしれない。
だが、確実に子は死ぬ。
子の誕生を望めば、妻は手遅れとなる。

我が子の誕生を妻と喜ぶ。
青年のその想いは目前で塵と化しそうになっていた。

狼狽する息子を横目に、これまで沈黙を貫いていた青年の父が口を開く。

「言葉は悪いが、嫁がいればまた子を授かることは出来る。嫁が生きる可能性にかけるべきだ!」

父の力強い言葉を耳にし、青年は思考停止ながらただただ追従した。

決断を聞いた医者は手術室へと踵を返し、それからしばらく経った。

妻は息を吹き返した。

その事実が手術室、ひいては待機していた青年とその父に伝えられ、最悪の中の最善とも言える空気が立ち込めた。
「これでよかったんだ」と誰もが自分に言い聞かせた。
その後、その空気は一変する。

意識を取り戻した妻に、これまでの経緯が伝えられた直後だった。

「どうせ私はすぐに死ぬのに、何故これからの命を助けてくれなかったんだ!」

十月十日、わが身に子を宿し新たな生の誕生を待ち望んでいたのだ。
意識が朦朧とした中での本心の叫びだった。

泣き喚く妻を囲み、重たい空気が手術室中を囲む。

沈黙を破ったのは医者だった。
「お気持ちは分かります…お腹の子を…」

これほど酷な出産があろうか。
生の喜びを得られぬ出産。
死人をただ排出するだけの出産。

妻は泣き喚き、何とも言えぬ空気のまま死人の排出が続いた。

数時間後、死人は排出された。
これで全てが終わったんだ。
誰もがそう思った瞬間。

「先生!生きてます!」

死人と思われたその赤子は、瀕死ながら生を繋いでいた。

これが後に、担当医にして
「いやぁ、今まで数えきれない程の赤子を取り上げてきたが、おぎゃぁと泣かずに生まれたのは後にも先にも一人だけですよ。」
と言わしめた極度の人見知りの誕生である。

続く

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