見出し画像

ものづくりは自惚れることが大切

2009年に会社を辞めてからずっと、僕はカバーホイールというものを作っている。自転車や車椅子のホイールを塞ぐプラスチック製のカバー(一般的にホイールカバーと呼ばれる)と、形状はほとんど同じなんだけど、僕は自分の作るホイールカバーを、必ずカバーホイールと呼ぶ。一般的なホイールカバーが、金型に溶かした樹脂を流し込んで作られる大量生産品なのに対し、僕の作るカバーは、ホイールにぴったりとフィットするオーダーメイド品だ。だから、カバーだけでは意味がない。ホイールにばっちりとフィットして一体となってこそ価値が出るのだ。カバーのついたホイールが僕の作品であり、それはカバー付きホイール=カバーホイールなのだ。

カバーには、ステッカーや塗装でデザインができる。おまけに、カバーとホイールが一体化することで、空力効果や慣性力がアップし、ホイールの乗り味が大きく変化する。自分のお気に入りのホイールにフィットするカバーをオーダーメイドで作成し、お気に入りのデザインを施し、気持ちよく転がす。今でこそ、そんな楽しみを理解してくれるお客さんが増えてきたが、工房を立ち上げて数年間は誰も見向きもしなかった。最初の数年間は、ただただ工房で試作品を作る日々が続いた。試作品といえば聞こえが良いけれど、要するにお客さんが来ないので、自分のためにカバーを作るのだ。端から見れば、寂しげに見えるかもしれないけれど、実はこの頃が一番楽しかった。お金にならない謎の造形物を作り続ける夫の姿に、妻は不安を感じていたと思う(本当、申し訳ない)。世の中に存在しないもの、そして何より僕自身が欲しいものを作ることが、とてつもなく楽しかった。そして、10年後の今も、カバーホイールを作り続けている僕がいる。途中でギブアップすることなく、今も僕が作るカバーホイールに夢中な僕自身がいる。

挫折することなくものづくりを継続するためには、自分自身、そしてその自分が作る作品のファンにならないといけないと、僕は思う。金の為じゃない、誰かの為じゃない、自分自身が自分の一番のファンでなければ、ものづくりは続かない。これからものづくりを仕事にしていこうと考えているあなた、あなたが作ろうとしているものは、あなた自身が本当に欲しいものですか?そしてものづくりをしているあなた自身を想像してみてください。その姿をカッコいい!と思えますか?


僕自身は、どこにでもいるおじさんだけど、一枚の板からどんなホイールにもフィットする円錐(カバー)を自由自在に作り出す技術を生み出したパイオニアであり、そしてそれを生業としている世界でただ一人の人間だと自負している。だから、ひとたび工房に入りホイールと向き合う自分自身は、大リーグのスーパープレイヤーや、テレビの人気俳優に負けないカッコいい奴だと、本気で思っている。「自惚れる」という言葉はネガティブなイメージがあるけれど、ものづくりを生業にするなら、自惚れ屋でなければいけないと、僕は思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?