築40年以上の空き家 買取保証に期待するも...

父所有の築40年以上の空き家(木造4LDK一軒家)。旗竿地で接道義務を満たしてないうえに、建物としての価値も無い再建築不可の負動産。

地元のB不動産に売却の相談をしたものの、「まずは売れるような土地に整えてから売りに出しなさい(要約)」ということで、棚上げになっている。

色々検索していると、「買取保証」というワードを発見。
不動産屋が仲介しても売却が成立しなかった場合に、あらかじめ決められた額で不動産屋が直接買い取ってくれるという…
ただ、相場よりは安い金額にはなってしまうらしい。
でもでも直接買い取ってくれるなら、、、ほんの僅か、希望が見えた気がした。

早速、「買取保証」を謳っている大手不動産屋D社に連絡。まずは現地を見たいという。週末、現地で会うことになった。

現地へは車で約2時間。ただ、父母も連れて行くとなるとまず父母の家(現地までさらに遠くなる)まで迎えに行かなくてはいけないので、片道3時間の道のりだ。

往復6時間…貴重な週末が台無しである。

約束の時間に現地に着くと、既に大手不動産屋D社の担当者らしき男性がいた。
家の道路に面した接道のところでかがみながら、しきりに巻き尺を持って接道幅を測っている。

…なーんか嫌な予感…

挨拶を済ませ、名刺を渡すやいなや、開口一番、大手不動産屋の担当Eさんは言った。
「幅が…足りないっすね」
「えぇ、そうなんです」
「建物の中も見させてもらっていいですか?」
「えぇ、どうぞ」

建物の中に入る。
ただでさえ薄暗い旗竿地。電気が通ってないので、日中なのにさらに暗い部屋の中を、携帯のライトを照らしながら、確認するEさん。

「あーーッ、壁にヒビが入ってますね…傾きもありますねーー酷いなー!床も、、これは、、落ちそうで歩くのがちょっと怖いなぁ…こんなに酷い状態は今までに見たことがないです!・・・」
絶望的な言葉を次から次に漏らすEさん。

...私じゃなく父の所有物とはいえ、なんか泣きそう...

確かに、ボロボロでクロスが剥がれているし、壁にはヒビが入っていた。
言われると、確かに床が水平ではないような気もする。
Eさんの言葉を聞いて、本当にこれまで人が住んでいたんだっけ?と私まで疑いそうになる。

室内を見終えたところで、Eさんに尋ねた。
「どうなんでしょう?ボロボロの物件だとは思うのですが、、買取保証というものでこのまま買い取っていただくことって出来るんでしょうか?」

Eさんは断言した。
「買取保証は無理ですね。リフォームして賃貸で貸し出せる状態にできるのであれば、そういうことができる会社に買ってもらえるかもしれないと思っていたのですが、、建物自体が傾いていますので、これはかなり厳しいです」

「厳しい…買い取ってももらえないということですか?」

「そうですね…まず建物は、殆ど建て直すくらいの大規模な工事をしなければ再度使うことはできません。そのうえ、接道幅が法律を満たしていない再建築不可の土地なので、更地にして売るとか、新築を建てることもできません。大規模なリフォームをするにしても、前の道路も非常に狭い(車1台がやっと通れるくらい)ので、重機を入れるために余計に工事費用もかかります。さらに、再建築不可物件は銀行からローンが借りられないので、買うにしてもリフォームにしても現金での対応になります。仮に、大規模リフォームをしたところで確実に売れる保証は無いので、そういうものに手を出す人がいるかどうか…」

「…そうですか…何とかなりませんか?このまま建物を放っておくと危険な状態にもなるかもしれませんよね?」すがる私。

「こういう難しい物件を扱っている不動産屋にいくつかあたってみますね。ウチが仲介に入ると仲介手数料がかかってさらにマイナスになっちゃうので、ウチは仲介には入りません。もし買い取ってもいいという会社があったら、紹介だけはします」

売買できたとしても金額はかなり低く、手間の割には仲介手数料もわずかであろう。余計な手間は増やしたくないというEさんの思いが見える。
「仲介はしない」という突き放された言葉が胸に刺さる。

傍でEさんと私のやりとりを聞いていた父(高齢)が、「信じられない」というような表情で投げかけてきた。


「なんだかさぁ、法律がうんぬんって言っているけど、おかしいよ!だって今ここに建物が建っているんだよ?(40年以上前に)買った時は何千万もしたんだよ?(それは事実)。建物が古いのは分かるけどさぁ、土地としての価値はあるだろう!」

続いて母(高齢)も疑問を投げかける。
「なんだかおかしい話よね?別にそちらが無理なら、他に相談したっていいんだからぁ!」

やっぱり父母にはこの現状は理解できないし受け入れられないようだ…。

Eさんは、穏やかに冷静に、法律のことや世の中の背景、この辺り一帯の状況、土地建物の価値について、父母に分かりやすく説明してくれた。

しかし、、、
父母は憮然とした表情だ。

不穏な行く末を感じながらも、ひとまずEさんに買い手を見つけてもらうようお願いし、この場はお開きとなった。

そして、大手不動産屋D社のEさんからの連絡を待つこと1か月。

ついに連絡がきた。
「お父様の空き家なのですが、我々が取引している色々な会社にあたってみたのですが、やはりどこからも『買い取ることは難しい』と断られました。やはり再建築不可なうえ、建物の再利用も出来ないというところが難点でした」

「…そうですか…」

「ただ、1社だけ、そういういわゆる事故物件、難物件を取り扱っている会社から、買い取っても良いというお返事をいただきました」

「エッ!本当ですか?」

「えぇ、ただ、やっぱり買い取る方としては本当は、きちんと測量や境界杭を打つなどを売主さんにきちんとやっていただいてから買いたいそうなのです。しかし、今回はそういうことをやりたくないということですので、そういう難しい手続きを全部省いて本当に『現状のまま』で買い取るとなると、もうボランティアになってしまうそうです…」

「ハァ……善意の心で買い取りますよということですね……」

「前の道路が狭いので、仮に家を解体するにしても300万円くらいはかかります。しかし、更地にしても再建築不可なので解体は現実的にはできませんよね。なので、解体とまではいかずフルリフォームするとしたら、あれくらいの建物だと何千万円もかかり、殆ど新築を建てるのと同じようになってしまうので…。買い取ってもいいと言ってくださった会社の社長さんも、『買い取ったとしても、その後の利用方法が検討もつかないので困ってしまう』とおっしゃってはいるのです…」

「ハァ…それで、先方様はおいくらで買い取るとおっしゃっているんですか?」

「20万円です」

「に、にじゅうまん…」

大手不動産屋のEさんがたたみかける。
「もうここからは、直接、先方(買い取ってくれる会社)の社長とお話して手続きを進めていただけますか?私は仲介に入らないので」

「ちょっ、ちょっと待ってください。一応、所有者である父に、今聞いた話と『20万円』という額を伝えます。もしかしたら父は渋るかもしれません...(所有者が私だったら全然20万で良いのですがね)。父が渋らずに、20万円で手放すということになったら、先方の社長様と話を進めることにします」

「お願いします」

すぐに父に電話をし、伝えた。

なんとなく予想はしていたが父は即拒否。
「20万円!?そんな安い額になっちゃうの?!買った時は何千万円もしたんだよ!?(それは事実)」
心底、驚き、そしてガッカリしたようだ。
断固として、「それならば売らない」との一点張り。

大手不動産屋Eさんの話を100%信じることも難しいが、ここまで調整したことが無駄になることと、またゼロからのスタートになること、他の空き家のこともあり、私はついついキレてしまった。
その空き家に何の想い出もない小娘としては、自分に禍が降りかかってくる前にトットと手放してくれ!という気持ちだけだったのだ。

「じゃあどうすんのよ!?!また別な不動産屋に頼んでも結局は同じくらいの額だと思うよ?ソリャー何百社もあたれば、中にはもっと増額してくれるところもあるかもしれないけど、現地に行くだけで往復6時間もかかるし、、、貴重な休みが台無し!もう疲れたよ!時が経てば経つほど建物は朽ちていって、条件は悪くなるばかりだよ!その間に、建物が倒壊して近所に迷惑をかけることになったら賠償もしなきゃいけないかもしれない!また夏が来れば、また草刈りしなきゃいけない!固定資産税も毎年かかるし、このままだと、どんどんマイナス!どうすんのよ!!!!!」

しかし、父も頑なにして、譲らない。
「そんなこと言ったって、いくらなんでも20万円で譲るわけにはいかないよ。汗水かいて真面目に働いて、お前たち(私と兄)がまだ小さい時に家族みんなで楽しく住みたいと思って初めて買ったマイホームなんだ。必死に何十年も働いてローンをやっと返せたんだ。そんな風に簡単に『酷い家だからボランティア気分で20万円だったら引き受けますよ』って言われたって、すぐには受け入れられないよ。そんな額じゃあ納得できない」

……結局、Eさんには断りを入れることになった。

父は私に申し訳ないと思ったのか「前にこの家の賃貸管理をお願いしていたA不動産に相談してみる」という。

A不動産とは、この家を賃貸で貸していた際に、長らく管理をお願いしていた不動産屋だ。「空き家になって再度人に貸すためには、リフォーム代460万円を払わないと、新たな入居者は探せない」と言ってきた不動産屋だったので、ここから家の鍵を取り返し絶縁状を叩きつけてきたのだったが(大袈裟に要約)...

期待はせず待ってみることにしたのだった。


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