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2021阪大(文)国語/第二問/解答速報

【21阪大(文)国語/第二問/解答速報】

出典は林京子の自伝的小説「トリニティからトリニティへ」

問一「生きているものがたてる物音を、私は聞きたかったのである」(傍線部(1))について、「私」が「生きているものがたてる物音」を「聞きたかった」のはなぜだと思われるか、説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
長崎で被爆した過去を持つ私は、かつて原爆実験が行われ、半世紀を経た現在も放射能が残留し、砂漠の荒野で生き物が死滅したように感じられるトリニティ・サイトでなお、生命の営みが続くことを実感したかったから。(100)

〈参考 S台解答例〉
世界初の原爆実験が行われた地を訪れ、見学者以外に動くもののない静寂に接した「私」は、長崎で被爆した自分たちと同様の被害を受けた生物がここにもいたことに気付き、ありえたかもしれない彼らの生の証を何とか感じたかったから。(108)

〈参考 K塾解答例〉
広大な原爆実験の跡地は、未だに射撃物や放射能が留まり、樹木のない砂漠で動くものは見物者だけという死の荒野となっているため、せめて生きんがためにもがく生き物たちの微かな兆しを夢想せざるを得なくなっているから。(103)

〈参考 Yゼミ解答例〉
広大な原爆実験の跡地にはいまも放射能の影響が残り、樹木も動物も存在しない。自分たちの足音しか聞こえない静寂の荒野を歩いていると、そこには死が充満しているように感じられ、生命が力強く息づいていることを感じたくなったから。(109)


問二「ひたひたと無音の波が寄せてきて、私は身を縮めた」(傍線部(2))において、「無音の波」という表現にはどのような効果があるのか説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
遠い地平線に連なる山脈に至るまでの荒野を一瞬に焼き尽くした人間の愚行に対し、時を経て今度はもの言わぬ自然が熱波を跳ね返し人間を責め立てる様子を、「無音」と「波」という対義的な表現により印象づける効果。(100)

〈参考 S台解答例〉
五十余年も前に原子爆弾に焼かれた荒野で、「私」が、沈黙を強いられた自然の気配や被爆当時の彼らの苦しみを感じ取っておののいていることを、音がないことを表す「無音」と音の波動などを表す「波」という対義的な語句を結合させた比喩を用いて、印象深く表現する効果。(126)

〈参考 K塾解答例〉
轟音とともに広がった原子爆弾の衝撃を、抗うこともできず受け止めるしかなかった周りの自然が、最初の被爆者として強いられたその沈黙を今も保つほかないという事実が「私」に迫り、それに圧倒される心情を示す効果。(101)

〈参考 Yゼミ解答例〉
かつて原子爆弾がいま自分が立っている場所で爆発してあらゆるものを焼き尽くしたという恐怖と、最初の被害者となった、言葉を発することのできない大地や生きものたちの痛みが、五十余年の月日を経て「私」に押し寄せてくるイメージを強める効果。(115)


問三「八月九日に流さなかった涙を、私は人としてはじめて流したのかもしれない」(傍線部(3))について、なぜ「私」は「八月九日に流さなかった涙」を「人としてはじめて流したのかもしれない」と思ったのか、その理由を説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
被爆当日、人としての感情を失い異様な状況からひたすら逃げ、その後も体験を直視することを避けてきた私にとって、グランド・ゼロへの行程は自然を含む生命の消失という被爆の深意を再体験させるものとなったから。(100)

〈参考 S台解答例〉
自分たちより先に原爆の被害にさらされながらも、その苦しみを表す術を持たず沈黙し続ける大地の痛みを感じた「私」は、その姿に、当時泣くこともできなかった自身の姿を重ね、長年心の奥に押しこめてきた、人生に決定的な影響を与えた被爆した日の感情をようやく実感したから。(129)

〈参考 K塾解答例〉
被爆したのは人間だけではないと痛感したことで、被爆者としてのこわばった意識が解かれ、直面することを避け自らの内に抑え込んでいた被爆体験そのものにあらためて向き合い、それを受け止めることになったから。(99)

〈参考 Yゼミ解答例〉
八月九日には逃げることに必死で悲しみ嘆く余裕はなく、それ以降は被爆者の事実を心の奥に押し込めてきたが、原爆実験の跡地に立ち、最初の被害者になった大地の痛みを感じとったことで、はじめて自分の体験と向き合うことができたから。(110)


問四「私は感動して見入っている自分や、テーブルを囲む人びとが滑稽になり」(傍線部(4))について、なぜ「私」は「感動して見入っている自分や、テーブルを囲む人びとが滑稽にな」ったのか、その理由を説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
原子爆弾の威力が半世紀経っても計器を動かすことへの素朴な驚嘆は、かつて原爆が自然と人間のかけがえのない生命を奪い、現在においても被爆者の生命を脅かし続けているという過酷な現実と地続きのものであるから。(100)

〈参考 S台解答例〉
被爆の影響で身心に非常な痛みを感じ続けてきたにもかかわらず、半世紀たっても放射能が残留する原爆の威力を目の当たりにして他人事のように驚嘆する「私」自身や、原爆が与えた被爆を慮ることもなく無邪気に感動を示すアメリカ人たちを対象化し、ばかばかしく思ったから。(127)

〈参考 K塾解答例〉
半世紀も前の遺物にも高い放射能を残留させる原子爆弾の力に思わず驚嘆する人間の姿は、生き残った者にも半永久的にその放射能の影響を及ぼす原爆の惨禍を、あまりに容易に忘れ去る人間の愚かさを象徴していたから。(100)

〈参考 Yゼミ解答例〉
いまだに放射能が残留していることに感動して驚いている自分や見学者の姿に、たかだか半世紀で原爆のもたらした悲惨な現実を過去の出来事にしてしまい、半永久的に続く放射能の威力を日常的な感覚でしか感じとれない人間の愚かさを感じたから。(113)

#大阪大学 #国語 #解答速報 #林京子 #トリニティからトリニティへ

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