アイノイツキ流「無個性な漫画」=普遍的無意識のコミカライズ説

つい先日1巻が発売された、週刊少年ジャンプの新連載作品『タイムパラドクスゴーストライター』。
連載開始から話題が絶えません。

中でも議論となっているのが以下のコマ。10話より。

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「無個性な漫画」という概念の真相をめぐり、日々論戦が続いています。

実際に彼女が描いた漫画が読者(我々)には一切示されていないので、彼女の理想が追求する漫画がどんなものなのかはわかりません。想像に委ねられています。

ただ、「ANIMA」という作品名を手がかりにすれば、ひとつの結論が見えてきます。


集合的無意識説


答えはユング心理学の中にあります。

「ANIMA」つまりアニマといえばユング心理学における原型のひとつ。
つまりこれは、ユング心理学を紐解けというヒントなのです。

ドイツの心理学者であるC.G.ユングの考えを体系化したものがユング心理学になります。

現代心理学のような定量的研究に基づくものではなく、今となってはオカルト的な立ち位置になりますが、射程はものすごく広いです。どんな分野でもユング心理学を使って語ることができます。フィクションは特に得意分野です。


ユング心理学には、「普遍的無意識」という概念があります。


河合隼雄『ユング心理学入門』新装版
焙風館 2010年4月
P.93〜p.94

ユングは、人間の心のなかに意識と無意識の層を分けるのみでなく、後者をさらに個人的無意識と普遍的無意識とに分けて考えた。

普遍的無意識。これは表象可能性の遺産として、個人的ではなく、人類に、むしろ動物にさえ普遍的なもので、個人の心の真の基礎である。

この普遍的無意識の内容は、さきの例にも示したように、神話的なモチーフや形象から成り立っているが、この内容は神話やおとぎ話、夢、精神病者の妄想、未開人の心性に共通に認められる。


人間は、時代・地域を超えて、共通の「無意識」を共通しています。
ユングによれば、神話やおとぎ話の内容が、世界中で似通っているのも、普遍的無意識を共有しているためなのです。

現代科学に照らして考えると明らかにオカルトですが、ロマンや説得力を感じる人もいるでしょう。私自身、かなり好きな考え方です。

普遍的無意識は、人類全員が共有しているものであり、特定の誰かのものではありません。つまり完全な無個性です。

彼女にとっての「透明な漫画」とは、この普遍的無意識を漫画で表現したものなのではないでしょうか?

イデオロギーの分断が進む現代社会において、誰もが心から楽しめて心身を委ねられる、現代の神話・おとぎ話を、漫画という媒体で顕現させようとしているのではないでしょうか?


前後関係がむちゃくちゃ

この一コマだけの解釈であれば、普遍的無意識説は相当いい線いってると思います。我ながら。


しかし、作品の流れに全くハマらないので、作品の解釈としては全然駄目です。
彼女が漫画道に入るきっかけと全く合致しませんし、彼女には旧式の心理学に関心があるような素振りもありませんでした。

いやあ難解です。

こういうリアルタイムな考察、流れに乗れている感覚、久々でめっちゃ楽しい。

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