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2020/05/23 ジェネレーター/教員の意味

教員のありかたについては、以前からずっと話題になっていることだけれど、今回の長い休校期間(生徒の在宅学習期間)によって学校のありかたそのものについても考えるべき課題が出てきたことで、余計に強く突きつけられることになったように感じている。

4月半ばから動画配信で授業をしている。最初はkeynoteを使ったスライドに書き込みをしながら音声をのせていた。でも、今回のイレギュラーな事態で始まった状況では、「いつもの授業」を感じられるほうが生徒は喜ぶようだと分かり、自宅に白板を導入して教室で行う授業に近い形の動画を作成するようになった。でも、50分全部を講義に使うことはなく、どんなに長くても動画は20分までだ。残り30分は生徒自身による活動になる。学習内容の整理とか調べ学習とか。
生徒が受動的でいる時間が激減しているということで、元々勤務校では生徒の主体的な学びを推進していることもあって、学校再開後も今回のことで得た利点を残す方針になっている。

「オタクと教員は喋り好き」が両方で自分にあてはまると考える者としては、講義型授業が中心なのは認める。とはいえ、それなりに授業ができるようになってからは、生徒が自身の考えを形にすることに重きを置いて取り組んできた。しかし、見る人によっては、もっと講義の部分を手放すべきでいわゆる「ファシリテーター」に徹するように主張する人もあるだろう。分かるけれど、教科特性もあるし、一律にはいかないよなあと感じている。「ファシリテーター」というのも、正直なところしっくりこない。学会、研究会ならともかく、中高生の学びの中での立場としてはそぐわないのではないかと思っていた。

そんなことをぼんやり考えていたときに、慶應義塾大学の井庭崇さんの以下の記事を読んだ。

上記の記事の中で井庭さんは、「ジェネレーター」という言葉をこのように説明する。

僕らが言う「ジェネレーター」は、自ら面白がりながら創造・探究を進め、周囲も巻き込んで刺激・誘発しながら、みんなで成し遂げてしまう人のことだ。
教師でいえば、生徒・学生に教える「ティーチャー」や、議論や話し合いを促す「ファシリテーター」でもなく、生徒・学生のなかに入り一緒にプロジェクトや探究に取り組む人ということになる。

モノや考え方に名前をつける(ラベルを貼る)と話がしやすくなる。井庭さんの定義する「ジェネレーター」は、これまで教員がそれぞれに取り組んできた振舞いであり、決して新しい取り組みをする人を指すわけではない。しかし、「ジェネレーター」という名前(ラベル)のおかげで、先に違和感を感じていた「ファシリテーター」との違いが明確になって、個人的にはすっきりした。

勤務校の目指す教育のありかたを見ていると、行き着くのは大学の「ゼミ」のイメージに近いように思う。今の大学の授業がどんな様子かは分からないけれど、先に引用した井庭さんの「ジェネレーター」の取り組みは、自分が学生時代に大学で受けてきた学びのありかたそのものだ。

それをいきなり中高生にもすっかり適用するのは乱暴な話で、道具も知識もなしで何かを作れと言っているようなものだ。だから、自分で切り拓いてゆくための道具と知識を身につけながら、創造的な取組みのトレーニングをするのが実際的なところではないかと思う。生徒たちが自分で進むための背中を押すような、アシストをするのが中高教員の役割ではないか。

ここ何年か学校の中で試してみたいと思っていることがある。それは、「読書会」と「ゼミ」だ。学校には決められたカリキュラムがあるので授業の中で継続的に行うことは難しいので、課外の活動でしかできないだろうけれど、有志の生徒数人と取り組めたらおもしろいのではないかと考えている。「探究の成果=目に見えるモノづくり」と見られがちのような気がするし、わたしがしたいことはそういう分かりやすいものにはならないけれど、小さくても自分で「世界」を知ろうとする取り組みにこそ意味があるのではないかとこっそり考えている。(これ、初めて人の読む文章で書いたと思う。)

途中で止まっているけれど、ポール・ヴァレリーについての調べ物だって、ここに繋がる。新しい知見を得るには、自身がアップデートする必要がある。先頭を走る必要は大して感じないが、走り続けていることに意味があり、その姿勢が他者への(教員にとっては生徒への)刺激になるのではないかと思う。

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《2020/05/24 補記》
散見されるポール・ヴァレリーのある言葉について、気になって調べ物をしています。まだ記事は一つしか書いていませんが、続篇もそのうちに。


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