マガジンのカバー画像

ピン留めの惑星|全アーカイブ

26
いつのまにか失くしてしまった“たいせつなもの”たちが辿り着くどこかの星のだれかの物語―。  ◉《大島智衣の読みもの》と《つきはなこの漫画》との週替り交代+おまけ付きでお送りするシ… もっと読む
運営しているクリエイター

#随想

受粉

*本編すべて無料でお読みいただけます 村上くんに彼女がいることを知ったのは、ふたりとも早番上がりで「軽く飲んでく?」と寄った先のバルのカウンターで、どの動画配信サービスを契約しているかをお互いに言い合っていたときで、村上くんが「僕はアマゾンプライムと、Huluと……あとNetflix。や、Netflixは彼女のか」と言ったそのときだった。 なんだ彼女いるのか。 口には出さなかったけど、それに、全くそこには食いついたりしないでスルーしたし、なんにも気にしていないフリをした

有料
150

「1112324493」

*本文すべて無料で読めます 藤野君がなんでウチに来たのかはおぼえていない。 なんでだか藤野君は、大学を卒業したあとも住みつづけた早稲田の私の部屋を訪れてひと晩だけ泊まっていった。しかも風邪を引いて具合が悪いとかで、来て早々にひとの布団で寝込んだ。 だから、私が記憶しているウチに来た藤野君の姿は、私が敷いた布団にすっかりとくるまって、掛け布団を乱すことなく綺麗にじっと寝込んでいる姿だった。 なんだったのか。 藤野君についてはわからないことが多い。 私はたしか、あの頃藤

有料
150

17時16分。

夕方の5時を過ぎて、あと15分でようやく退勤時間だ。 今日も定時でしごとは終わりそう。 労働というゆるい拘束からほっと解き放たれることはうれしいけれど、替わりに別の思いが押し寄せてくる。 今日もこのあと、なんの予定もない。 誰かと会う約束も、行きたいところも、買いたいモノも。 ひとつずつに思いをめぐらせて確かめてゆくけれど、どれも思い当たらない。 このまま家に帰ったとしても、なにをしよう。 Netflixでイッキ見したいようなドラマも最近見つけられていない。 17時1

有料
150

strawberry candy

信号待ちをしていると となりの親子連れの小さな女の子が 「青にな〜あれ! 青にな〜あれ!」 と 赤信号に向かってしきりに大きな声でさけんでいた 「こうやってると 青になるんだよ」 彼女は得意げに 嬉しそうに 母親にそう教えてあげていた そうなのか 赤信号はそうやって 青信号に変わるものだったのか──── 小さな女の子は その〈魔法の呪文〉を 懸命に 願いを込めて 唱え続けていた 私は 青になってほしく なかった 願えば届くなら ずっと赤信号のままでいて

有料
150