見出し画像

「長年聴かれ続ける楽曲」をどう作る?BOOM BOOM SATELLITES 中野雅之の場合。

BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUNDのメンバーであり、アーティストへの楽曲提供も手がける中野雅之さん。中でもBOOM BOOM SATELLITESの楽曲は、活動が終了した今でも、多くのリスナーに愛され続けている。

10年、20年と長く愛され続ける楽曲はどのように作られてきたのだろうか。音楽家としての軸や、音作りへのこだわりについて伺った。
<文:伊藤美咲 / 編集:小沢あや(ピース株式会社)

中野雅之さんプロフィール>
1997年にヨーロッパでデビューしたBOOM BOOM SATELLITESのメンバー。エレクトロニックとロックの要素を取り入れながら新しい未知の音楽を創造し続け、国内外の大型ロックフェスティバルやツアーを敢行し絶賛される。2016年10月にボーカリストの川島道行が脳腫瘍により逝去し、バンドとしての活動を終了。2020年12月からはTHE NOVEMBERS 小林祐介と共にTHE SPELLBOUNDを結成し、活動中。

音楽を聴く環境や楽しみ方が変わっても、良い音楽は残り続ける

BOOM BOOM SATELLITESは1997年にベルギーのレーベルからデビューし、エレクトロとロックの要素を織り交ぜた音楽性が評価され、世界で活躍してきた。2016年の活動終了以降も、中野さんはBOOM BOOM SATELLITESの名前を掲げながら活動している。

中野さんは、活動初期から長く聴かれる音楽を作ることを意識していた。その裏には、ひとりのリスナーとしての音楽愛、そして音楽家としての野望が詰まっている。

「20年以上音楽活動をしていると、時代によって音楽を聴く環境や楽しみ方が変化していると感じます。ですが、一生懸命作った音楽が残り続ける事実は、いつの時代も変わりません。

録音した音楽がパブリックに聴かれる行為が始まって100年ほど経ちますが、昔の楽曲が未だに聴かれることもある。100年前の音楽に耳を傾けることはリスナーとしてもすごく楽しいし、素敵な体験ですよね。

できることなら僕の音楽が100年経ってからも聴かれて、『こんな良い音楽があったんだ』と思ってもらいたい。そのためには、音楽家として日々切磋琢磨していくことが必要です」

リスナーの環境の変化をチャレンジと捉える楽曲制作

この20年間で、再生装置もガラッと変わった。これまではCDをプレーヤーにセットしたり、ウォークマンやiPodといった音楽プレーヤーに楽曲を取り込んだりする必要があったが、現在はストリーミングで聴くのが主流だ。スマホさえあれば、いつでも楽曲を楽しめる。

そんなストリーミング音楽が普及する時代で問題に上がるのが、「スキップ問題」。一生かけても聴ききれないほど膨大な数の楽曲にすぐアクセスできるようになったことで、音楽をじっくり聴く機会が減った。1曲聴き終わる前に、早ければ冒頭の数秒だけ聴いて「好きじゃないな」と思われたらスキップされてしまうのだ。そんな状況を、中野さんは肯定的に捉えている。

「ここ数年、スキップされることを防ぐために、サビ始まりの曲や2番まで間奏がない曲が世界的に増えていますよね。リスナーの音楽を聴く環境に寄り添う形で作品を手がけるのは、クリエイターとして必然的なことだと思います。それを否定的と捉えるか、肯定的に捉えて楽しむかは、制作者にかかってくる。

今の僕はわりと後者ですが、悲観的に感じていた頃もありました。BOOM BOOM SATELLITESが7枚目のアルバムとして『TO THE LOVELESS』をリリースした2010年頃は、CDからストリーミングへ移り変わった時期でした。だからこそ、『CDでできる最大限のことをやっておこう』という気持ちが強く、70分越えの長尺の作品を出したこともありました。

今活動しているTHE SPELLBOUNDでは、リスナーが音楽を聴く環境やトレンドを意識する中で、いかに広がりのある音楽体験をしてもらうかを考えながら曲を作っています」

大衆に好まれやすい展開やトレンドと、音楽家として奏でたい音楽が必ずしも一致するとは限らない。求められているものと、自分の届けたいものが異なる場合に発生するジレンマとどう向き合うかは、どの時代のアーティストも一度は悩んだことがあるだろう。

「時代の変化を、僕はチャレンジと捉えて楽しむようにしています。音楽に対してのこだわりを『なんでわかってくれないんだ』と嘆くのではなく、『聴いていたらいつの間にか豊かな芸術体験に引き込まれていた』というものにしないといけないと思っています」

リスナーの要求を叶えることに徹するわけでも、自分らのこだわりを押し付けるわけでもない。耳を傾けてくれたリスナーを、自然と音楽の世界に誘っていくのが中野さんの音楽だ。

良い音楽を作るには「技術よりも自分の感性を磨く」

自身のバンドの楽曲だけでなく、他のアーティストの楽曲も手がける中野さん。「良い音楽」を作るには、音楽の技術よりも自分の感性を磨くことが大事だという。

「楽曲制作のためにさまざまな機材を試したり導入したりしていますが、今はラップトップとソフトウェアだけでも多くのリスナーを充分に楽しませられる楽曲が作れるんですよね。誰でも音楽家になれる時代なので、良い音楽を作れるかどうかは、自分の感性にかかってくると思います。

どんな機材を使ったとしても、最終的に良い音かどうかを判断するかは僕自身の身体です。なので、よく寝るとか美味しいものを食べるとか、若い頃だったらどんな恋愛をするかなど、音楽の知識や技術以外が重要。

そういったことが自分の音楽体験を豊かに、感性を磨いてくれます。人生で起こった全てのことが音楽に反映されるので、生活こそが一番大事だと思います」

音楽は過去の記憶を鮮明に呼び起こすもの

20年以上音楽活動を続け、リスナーとも長い時間を共にしている中野さん。一緒に年を重ね、思い出を積み上げてきたからこそ、「音楽によって刻まれた記憶」の力を痛感する出来事があった。

「THE SPELLBOUNDのライブで、BOOM BOOM SATELLITESのカバー曲を披露すると、オーディエンスの顔が一瞬にして変わるんです。驚きや感動、思い出が一気に押し寄せてくるんでしょうね。

『この曲ってこんな力があったんだな』『この曲をたくさんの人の人生に残せてよかったな』と思える体験がこの1年間でたくさんありました。音楽で刻まれた記憶には大きなインパクトがあることを、目の当たりにした瞬間でした」

若手アーティストからも刺激を受け、自分の糧に

レコード屋やCDショップに足を運ばなくても、スマホで気軽に音楽を楽しめるようになり、パソコン1台あれば作曲もできる時代になった。次々と現れる実力派の若手アーティストには、中野さんも多くの刺激を受けている。

「僕らの世代にしかできないことや僕にしか作れない音楽もあるので、自分のストロングポイントは常に意識して楽曲制作をしています。一方で、若手アーティストが生み出す音楽を聴くことでワクワクしたり楽しい気持ちになったりすることもたくさんある。

みなさんと同じように、僕自身もレコード屋でレコードを漁ることはしなくなって、インターネット上でレコメンドされたものを聴くことが増えましたが、日々新しい発見があって刺激を受けています。世界はすごい才能に溢れているので、僕もうかうかしてられないですね」

良い音を聴くときに重要なのは、機材よりも「部屋」

楽曲制作において、機材選定は重要な要素だ。しかし、それ以上に大事なのは「どんな部屋で聴くか」だと中野さんは語る。

「実は良い音を聴くって難しいことなんです。良いスピーカーさえあれば良い音が聞けるわけではなくて、どんな部屋で聴くかが大事です。なぜかと言うと、人間の耳で聴いている音の80%は部屋の反射音だから。スピーカーから出ている音はわずかしか聴こえていないんです。

例えば、布団が敷いてある和室は適度に音が吸われて良い環境ですが、一見おしゃれなコンクリート剥き出しの部屋は音を濁らせる要素が多いので、本来の音がほとんど聴けていない状態です」

現在は、プライベートスタジオで楽曲制作を行っている中野さん。長年音楽活動してきた彼でも、というより音に対するこだわりが強いからこそ、現在のスタジオの環境を整えるまでに5年かかったそうだ。妥協せずに試行錯誤を続け、より良い環境を探し続けるストイックな姿勢が伺える。

「今のスタジオに移転して5年ほど経ちますが、ここで作った音が外でどのように聴こえるかを把握できるようになったのは最近のこと。この5年間はずっと音の聴こえ方を調整していたので、やっと環境が整って落ち着いてきたところです」

89秒の限られた時間の中で届ける豊かな音楽体験

BOOM BOOM SATELLITESの活動終了後、中野さんが小林祐介さん(THE NOVEMBERS)と新たに結成したバンドが、THE SPELLBOUNDだ。

そんなTHE SPELLBOUNDは、先日TVアニメ『ゴールデンカムイ』のエンディングテーマとして書き下ろした楽曲「すべてがそこにありますように。」をリリースした。TVアニメのエンディングテーマであるということは、規格である89秒という限られた短い時間の中で作品との世界観を共有しながら、楽曲としてのインパクトも残さなくてはならない。

「この曲は、テレビで流れる89秒の中で豊かな音楽体験ができるように、瞬発力やスピード感がある楽曲に仕上げました。アニメの舞台設定があるからこそ生まれた曲ですが、その設定をポジティブに使い切れたと思っています。

BOOM BOOM SATELLITESやTHE SPELLBOUNDのファンの方はもちろんですが、アニメを通じてどちらのバンドの楽曲も知らない層まで作品を届けられる機会になったのはありがたいですね。この曲をきっかけにして、豊かな音楽体験や広い世界を届けられたら良いなと思います」

活動するバンドが変わっても、タイアップ楽曲であっても、中野さんの「リスナーに豊かな音楽体験を届ける」という想いは変わらない。そして、自分たちの音楽を最大限に楽しませる自信があるのはライブだという。

「THE SPELLBOUNDのライブは音がすごく良いので、アトラクションのような音楽体験ができると思います。耳が痛くなったり疲れたりせず、大きな音に包まれる空間。これはどんな良いスピーカーやヘッドホンがあっても絶対に体験できない、極上の体験です。ぜひみなさんに味わってもらいたいです」

イヤホンからストレートで聴きやすいサウンドを出すのは意外と難しい

音に対して強いこだわりを持つ中野さんは、ピヤホン・ピッドホンシリーズを絶賛している。日々音楽と向き合うアーティストにとって、ストレスなく音が聴けることはかなり大事なポイントだ。

「ピヤホンは音の脚色や歪感がほとんどなく、輪郭がはっきりしていますね。誇張されている帯域がないので、ストレートで聴きやすいです。これって、意外と難しい。THE SPELLBOUNDの楽曲はダイナミックレンジが広いので、ピヤホンでポテンシャルを発揮しやすいと思います。ぜひ聴いてみてください」

「音楽家目線で使用しても、申し分ない音質です。移動中に使えるイヤホンやヘッドホンでこんなにリッチな音楽体験ができるのは、すごいと思います」

AVIOT連動記事
WA-Z1PNKはどんなジャンルの楽曲でも過不足なく楽しめる。中野雅之が語る、良いヘッドホンの条件とは?


ピヤホンやnoteの感想、ぜひTwitterにつぶやいてください。すべて手動でエゴサーチしています!