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イヤモニメーカーの担当者が語る、音楽体験と聴覚保護を両立する方法

ミュージシャンがライブ中に演奏の音を拾うために耳につけている、インイヤーモニターシステム(以下、イヤモニ)。中でも、数々のアーティストが使用する「FitEar」を取り扱っているのが、須山補聴器だ。

近年ではミュージシャンだけでなく、一般のリスナーが使うことも増えている。今回は須山補聴器の須山さんに、イヤモニの役割や仕組み、音楽を楽しむための聴覚保護について伺った。

<文:伊藤美咲/編集:小沢あや(ピース株式会社)


<須山慶太さん プロフィール>
1970年生まれ、慶応義塾大学法学部政治学科卒。「須山補聴器」を展開する株式会社須山歯研代表取締役社長。
耳を守り、音楽を安全に楽しむプロジェクト「SAFE LISTENING」の代表も務める。


イヤモニの役割は演者の耳を守り、パフォーマンスを向上させること

ミュージシャンがライブ中にイヤモニから音を拾っているという認識は、音楽リスナーの多くの人が持っているだろう。とはいえ、イヤモニがどのように誕生し、他にどのような役割を持つかまではあまり知られてはいないのではないか。須山さんは次のように語る。

「イヤモニ(インイヤーモニターシステム)は、演者がステージ上で自身やバンドの演奏を確認するモニタリング手法のひとつです。

従来は演者の前に置かれたウェッジスピーカーやステージ袖に置かれるサイドフィルスピーカーからモニター音を伝えていましたが、ライブ会場の規模が大きくなるにつれて、ステージ上の音圧も上げざるを得ない状況となってしまいます。その結果、明瞭なモニタリングが難しく、演者の耳への負担も大きくなるという課題が生じました」

そこで1990年代初頭から中盤頃、アメリカのメーカーによって考案されたのがイヤモニだ。

「イヤモニは、耳の型を採って製作するオーダーメイドイヤホンで耳を完全に密閉することで耳の中に静かな環境を用意し、周囲の音圧によらず適切な音量でモニター音を返すことを目的としています。これによって、耳への負担を抑制するとともに、音楽表現に必要なダイナミクス(音圧差)を与えることが可能になりました。聴覚保護の役割だけでなく、演者の音楽体験としても非常にメリットのあるツールになります。

通常のイヤホンだと、耳から外れてしまったり外から音が入ってしまったりします。個人の耳型を採取してアーティスト一人ひとりに合わせたイヤホンを製作するのが、カスタムイヤーモニターの原点です」

イヤモニは大きな会場でのライブで着用されることが多いが、使用にあたっての基準値はあるのだろうか。

「イヤモニの使用推奨規模はおよそホール規模以上という目安はありましたが、最近は小ぶりなライブハウスで行うライブでも利用されることが増えました。デビューを控えたアーティストが、何カ月も前からイヤモニを作ることも珍しくありません」

イヤモニを使用することは、パフォーマンス向上にも繋がるのだと須山さんは語る。

「アーティストが音を拾いやすくなったことで、当然演奏のクオリティも上がります。またコンピューターやインターフェースと同期しやすくなり、演出面の自由度も高まりました。ボーカリストが前に飛び出して歌ったり、ステージ上を動いたりといったことが可能になり、音だけでなく視覚的にもエンターテイメントとしての魅力も上がったと思います」

個々に合わせた音の届け方の違い

実は、同じバンドのメンバーであっても、イヤモニで聴いているサウンドが全く同じとは限らない。パートや好みによって一人ひとりが異なる音の聴き方をしている。

「例えば、ボーカリストは「質の高いカラオケ」としてサウンドが戻ってくれば歌いやすいと思います。一方で、ベーシストやドラマーはリズムをしっかり取ることが大事なので、ボーカルの音量を抑えたバランスであることも多いです。

イヤモニに伝わる音は『モニターエンジニア』と呼ばれるサウンドエンジニアが演者のリクエストやニーズに合わせて調整していて、場合によっては1曲ごとにリアルタイムで音圧を変えていることもあります。イヤモニによるオペレーションの中心にいるのがモニターエンジニアです。

特にボーカリストは、バラードの歌い出しで音を外さないようにしたり、コーラスで釣られないようにしたりと細かい配慮が必要です。逆に固定の場所で演奏するドラマーだと、手元にミキサーを置いて、自分で適宜調整している方もいらっしゃいますね」

一般の音楽リスナーにも広がるイヤモニ

最近では一般の音楽リスナーがイヤモニを使用するケースも増えてきている。

「スマホやデジタルプレイヤーを使用して移動中に音楽を楽しむライフスタイルは一般化していますが、公共交通機関内や野外だとどうしても周りの音が入ってきてしまいますよね。そこでイヤモニを使用することで、耳の中に静かな空間を用意することができるので、外でも快適に音楽を楽しめるというメリットがあります」

周りの不要な音を消す目的であれば、昨今ではノイズキャンセリング機能がついたイヤホンも販売されている。では、イヤモニとの違いやそれぞれのメリットは何になるのか。

「ノイズキャンセリング機能は音の信号をデジタル処理して電気的に抑制するアプローチなので、周波数の低い音であれば、イヤモニよりノイズキャンセリング機能の方が抑制できる場合もあります。今はノイズキャンセリング機能がついたイヤホンは各メーカーから販売されているので手に入りやすく、多くの人が納得する音に仕上がっています。

一方、イヤモニは耳を密閉することで没入感が生まれるというメリットがあります。また大衆向けのイヤホンと違い1台から製品化することができるため、メーカーや開発者のこだわりが反映されやすいという点も魅力です。イヤモニはユーザーが何十種類の中から自分に合った製品を選べるというのも、楽しみのひとつだと思います」

プロユースでもコンシューマーユースでも、「密閉した耳の空間に適切な音を届ける」というイヤモニの仕組みに大きな差はない。決定的に違うのは利用目的だ。

「プロの場合は入ってきた音と出る音がイコールであることが求められますが、一般の方の場合は『もう少し低音がほしいな』『広がりのある澄んだ音が聴きたい』『歌声をじっくり楽しみたい』といった好みに寄せることができます。イヤモニと言っても、業務用のものと音楽鑑賞用向けの製品に分類されると思います」

音楽体験と聴覚保護の両立を目指した啓蒙活動

須山補聴器を展開する株式会社須山歯研では、耳への負担軽減やイヤモニ利用における安全性を大きなテーマとして取り組んでおり、2010年から「SAFE LISTENING(セーフリスニング)」という音楽体験と聴覚保護を両立するための啓蒙活動を続けている。

ライブ会場にて、耳栓のようなものを装着しているリスナーを見かけたことはないだろうか。それはイヤープラグ(あるいはライブ用耳栓)と呼ばれるもので、音質を損なわずに音量だけ抑えるツールだ。イヤープラグを使うことで、大きい音が苦手な方でも快適にライブを楽しめるようになる。

「大前提として、ライブ会場は大きな音が出る場所という認識はあると思います。そして、ライブ会場に集まる方はアーティストのファンですよね。ただ、音の聴こえ方にはかなり個人差があります。そのため、音楽は大好きだけど大きな音が苦手な方、ちょっとした音でも過剰に反応してしまう聴覚過敏の方もいらっしゃいます。

そういった方が聴覚を守るためにイヤープラグを装着してライブに参加されているのですが、周りの方から「何でライブに来てるのに耳栓を付けているんだろう」、「アーティストに失礼じゃないか?」と誤解されてしまうこともあるのが現状です。自分が聴こえている音と周りの人が聴こえている音が同じではないことを、もっとみなさんに知っていただけたらと思います」

もしかしたら、「みんなが楽しめるようにライブ会場の全体の音を小さくしたらどうか」と考える人もいるかもしれない。しかし、それは音楽表現にもあまり良い影響を与えない。須山さんは次のように語る。

「リスナーの方々は、ライブという非日常を体験するためにお金を払って会場に集まっています。そして何より、音圧の幅(ダイナミクス)は音楽表現において大事な要素です。無論過剰な音圧は避けるべきですが、一方で過度にボリュームを下げることは「音楽を諦めること」にも繋がってしまいます。

音楽のクオリティや楽しみを維持しつつ、聴覚保護もできる対策として2016年頃からライブ用イヤープラグの販売を開始しました。ピエール中野さんともコラボさせていただいたことで、より多くの人に『ライブでイヤープラグを使ってもいいんだ』という安心を届けられたのではないかと思っています」

音楽リスナーが耳を守るために気をつけたいこと

聴覚を保護するために意識を向けるべきなのは、ライブだけに限らない。スマホやデジタルプレイヤー、オーディオ機器などで音楽を聴く際にも配慮をした方が良いとのこと。

「よく『どのくらいのボリュームで聴くのが良いですか?』と質問されますが、音の大きさだけでなく、聴き続ける時間の長さも大事なポイントです。例え大きな音だとしてもライブのような一定時間であれば、そこまで大きな負担にはなりません。逆にそこまで大きくない音でも長時間聴き続けていると、耳への負担は大きくなる場合もあります。

WHO(世界保健機関)とITU(国際電気通信連合)がコラボレーションして作ったガイドラインでは、1週間の間に80デシベルの音量で40時間(お子さんや聴覚過敏の方では75デシベルの音量で40時間)までであれば聴いても耳への影響は出ないとされています。元々は工事現場や工場で働く人の耳を守る観点から定められたものなので、音楽を聴くときも必ず当てはまるわけではないですが、このような基準はあります。

音楽を楽しむためにはある程度の音量は必要だと思いますので、大きな音で聴いた後には耳に休憩を与えるようにする、ライブ後のカラオケは控える、といったことを心がけるだけでも耳への負担を和らげることができます」

耳の聴こえが悪くなると、補聴器が必要なケースも出てくるだろう。加齢による聴覚の衰えであればさほど問題ないが、音圧により聴覚が低下してしまった場合が一番危険なのだと須山さんは語る。

「実は『ずっと大きな音を聴いていたことによって耳を悪くしてしまった』というケースが、一番補聴器の調整が難しいんです。加齢によって音が聴こえにくくなるのは避けられないことですが、過大な音圧で聴いていると年齢的にも早い段階から聴こえにくくなりますし、急に聴こえなくなることもあります。

本来の耳は静かなところでは小さな音を聴き取りやすくするために感度を上げて、うるさいところでは感度を下げることを、無意識に行っています。しかし、その調整機能が大きな音によって壊れてしまうと、小さな音は聴こえないのに大きな音はうるさくて仕方ないといった状態(補充現象)になってしまう。これを補聴器で補うのは非常に大変なので、耳も自然に年を取れるように心がけていただくのが良いと思います」

耳への負担を緩和させるひとつの手法として、イヤホンなどのツールの使い分けも挙げられる。

「ご自身の静かな部屋であれば耳を密閉する必要がないので、オープン型のイヤホンの方が広がりのある音を楽しめますし、音のボリュームを上げる必要もありません。騒がしい場所だったらイヤモニやノイズキャンセリング機能を活用することで、ボリュームを上げることなく音楽を楽しめます」

実はピヤホンシリーズの最新モデル「ピヤホン6」は、イヤモニにも多用される積層造形技術や金属ノズルを応用している。

「ピヤホンシリーズは、音がフラットでありながらも繊細な部分をきちんと捉えられます。適正なボリュームで本来の音楽のバランスを楽しめる製品を手の届きやすい価格で提供できているのは、本当に中野さんやメーカーさんの努力の賜物なのだと思います」


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