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経済のためなら中国は野放し? EUの対中政策

香港支配を不当に強めたり、イスラム教徒のウイグル人を強制収容所送りにしたり、中国政府の横暴が目立ちます。かたや中国はいまやアメリカに次ぐ経済大国。中国が世界各国にもたらす経済的恩恵ははかり知れません。

エコノミスト誌によれば、この9月に開催予定だった、EU27か国のリーダーと中国の習近平とのサミットが延期になったのは、表向きはコロナウイルスのためということになっていますが、内部事情に詳しい人の話によれば、中国に対してEUが統一した見解を持てないためだとか。

「EU圏の対中政策を説明するために、珍しいたとえを使ったEUの外務大臣、ジョセップ・ボレルの努力には満点をつけたい。いわく「フランク・シナトラ流に『マイ・ウェイ』でいくべきだ」。
"Full marks for effort, then, to Josep Borrel, the EU's foreign-policy chief, who turned to a less frequently cited source of inspiration to explain the bloc's policy on China: "We have to be like Frank Sinatra, no? 'My way'.""
(英エコノミスト 2020年6月13日号 "Charlemagne: Sinatora doctrine" より。以下引用同じ)



EU加盟国といえば、言葉も文化も異なるバラエティに富んだ国々の集まりなので、中国問題に限らず足並みがそろわないのはいつものこと。かといって開き直って「ゴーイング・マイ・ウェイ」っていうのも、どうなんでしょうか。このように各国勝手にやれ! という経済政策を、経済用語で「シナトラ・ドクトリン」というそうです。

EU各国の中国との関係はというと、

「中国との関係が最も深いのはドイツで、2019年のドイツの中国からの輸入額は 960億ユーロで、この額はEU全体のほぼ半分を占めている。」
"Germany has the closest ties with China, which bought €96bn of German exports in 2019, nearly half the EU's total."
「フランスにとって中国は、EUを真の地政学的強国へと拡大する(その過程でフランスの国力を強化する)チャンスを与えてくれる国だ。」
"For France, China is a chance to bulk up the EU into a true geopolitical actor (magnifying French power in the process)."

理想は一つの国として、アメリカVS中国の2大国に対抗する勢力になりたいEU。特にフランスのマクロン大統領は、欧州の覇者になる気満々の野心的な人物です。

ドイツやフランスほど経済的に豊かでなく、中国の協力が大いに必要な国もまだまだあります。

「中欧、東欧、南欧の17と1か国の小国は、中国から投資を受けたいという希望を持って中国の役人と会見している。」
"A "17+1" group of small countries from central, eastern, and southern Europe meets Chinese officials in the hope of receiving Chinese investment."

 他の国々と少し態度が違うのがスウェーデン。

「中国に対して強硬な態度をとる数少ない国、たとえばスウェーデンは、最近の中国の香港支配について唯一制裁を求めており、情勢をますます複雑にしている。」
"The odd hawk, such as Sweden, which was the lone voice demanding sanctions against China over its recent attempts to control Hong Kong, further complicates the picture."

とまあ、中国に対する態度は各国バラバラ。

アメリカと中国の関係が冷え込んでいる今、EUがどちらの側にもつかない態度をとることは、ある意味では正当化されています。しかし中国の非人道的なふるまいについて、制裁まではいかなくとも声明くらいは出せるはず。あるいは経済や貿易で中国企業を優遇するのをやめるよと、やんわりいさめてみるとか、やり方はありそうですよね。

「孤立主義のアメリカと権威主義の中国との間で板挟みになりながら、EUはリベラルな秩序の最後の砦となる役割を果たしている。」
"Stuck between an isolationist America and an authoritarian China, the EU casts itself as the last bastion of the liberal order."

アメリカも中国もリベラルには程遠い、政治的には困った状態に陥っているわけですから、こんなときにはせめてEUにしっかりしてもらいたいものです。


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