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コミュニケーターとしてのChief of Staff

Chief of Staffの役割は様々あると思うけれども、自分の場合にはPatrick Aylwardという方が示されている5つがそれに当たると思う。

(1)航空管制官(air traffic controller)
(2)統合機能(integrator)
(3)コミュニケーター(communicator)
(4)直言居士(truth teller)
(5)懐刀(confident)

なかでもリーダーと他者とを繋ぐ「コミュニケーター」としての責任は、日本に馴染みのないリーダーを支える場合には極めて重い。それは単純に言語の違いからそう言っているわけではない。

多くの場合、私たちはコミュニケーションを通じて他者と関係を築く。このコミュニケーションの根幹を成すのが対話で、言葉でお互いの思想や観念を共有し、様々な態度をとっていく。

ところで言葉はひとつの記号なので、当然発せられた「言葉」がどのような思想や観念を想起させるかについては、解釈の余地がある。

解釈とは、単純化すれば、「これはXであってYではない、さらにX1であってX2ではない」という、いわば二項対立を繰り返していって本質的な意味に迫っていく営みと言える。この解釈に対する態度が、文化によって大きく異なる。

日本人の多くは、対話者がお互いに文脈や背景を深く理解しあっていることを前提にしたコミュニケーションを取る。この場合、「真意は推して測るべし、良きに計らえ」という態度が取られ、真意を探るために根掘り葉掘り尋ねること(対話を通じた解釈)は、かえって不信の顕れと取られかねず、避けられる。つまり、解釈に必要なプロセスを明示的には行わない。

しかしこれでは、そうした文脈を共有しない他者は(日本に馴染みのないリーダーの多くはこれに当たる)、十分に背景となる情報を補われない限り、解釈に必要なプロセスを辿ることが出来ない。その結果として、本来話し手が意図した思想や観念とは異なるものを想起してしまい、この誤解に基づき行動を起こしてしまう。

そのうえ、米国やオーストラリアのような、対話者間の共通認識を前提としない文化で育った人たちからすれば、日本人のそうした態度は秘密主義的で透明性がないものと映り、不信感が醸成されてしまう。そうなるとなおさら関係性を深めるのが難しくなり、ますます理解し合うことが難しくなる。

リーダーが効果的に正しく意思決定を行うことを担保するのがChief of Staffの職責だとすれば、相異なるふたつの文化に配慮しつつ、リーダーと他者とをうまく繋ぐ優れたコミュニケーターとしての振る舞いが、Chief of Staffには求められる。

リーダーと他者との間の認識のギャップに感覚を研ぎ澄ませ、必要な文脈や背景についての補足に努めるとともに、対話のプロトコルとして、お互いに交わされる言葉については簡易明瞭を旨とするよう取り計らうことが必要だと思う。

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