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レンタカー旅、イン、マイマイン ~旅行の終わり篇~

 眠れぬ夜を明かしたことによる不調必至の、一日のスタート。ホテルには朝食バイキングがついている。あまり早く行き過ぎるのも、と思い、出発の準備をすべて済ませて、エレベーターを降りる。
ゆうべ、とっとと酔っぱらってしまったからあまり意識になかったが、食べた量自体はかなり少なかった。そのためか、朝にしては近年ないくらいに空腹だった。しかし、「バイキングで控えめに取れるようになったら大人」の言葉をそろそろ飼いならしてきた自分。この朝も多品目をちょびっとずつ。「朝食カレー」なる魅力的な、そして大半の人が食べていたそれを、僕はついに取らなかった。優勝、と参加者一人の大会で戴冠。

 9時、約束どおりロビーで落ちあい、チェックアウト。車は、すぐの「津観音」へ。お寺であるが、「〇〇寺」とではなく、「津観音」として呼ばれるようだ。事実、HPのトップページも、どかっと「津観音」。で、お寺の名前は? 〇〇山とかさ、とHPをしばらく物色すればようやく、「恵日山 観音寺」。
境内の鳩たちが、近づけどまったく逃げない。えらく人馴れしているなと思った。
本来なら、色々な宝物が収蔵されている資料館があれば入館料を納めて入るのだが、この日は9時にして大変な暑さ。後もあるし、ここは二人して、「次行こか」となった。ちょっとどういう回路の判断だったか分からない。やはり、寝不足や寝ぼけ眼、加えて暑さで頭がうまく働いていないと見た。
せっかくだから、と一旦出て、きちんと真正面からお寺「津観音」を見る。こじんまりとして、町の中にあり、ちっとも逃げない鳩たち。あぁ、町の人たちに大切にされている良いお寺なのだなぁと思った。ら、激しく由緒あるお寺だった。「日本三観音の一つ」とか。
そして、まだ朝9時過ぎにして思った以上に文字が埋まっている。この調子で書き終えることができるのか。

 津観音を出て、少し車を走らせ(てもらって)、次は専修寺。「真宗高田派本山 専修寺」、なかなかにいかつい。


駐車場に車を停め(てもらって)、その敷地の広さに圧倒される。同時に、周辺の町の形とでもいうのか、このお寺が中心に形成された門前町なのだなということがひしひしと伝わってくる。
多分ここから入るのが正しいのかなという「山門」からぺこりとして入る。門の上部も、大変凝っていて立派。後にも言うが、細かいところもすべて立派。
太陽が高く昇ってくる。気温もぐんぐん上昇する。蝉が激しく鳴きたてる。暑くてたまらない。
御影堂・如来堂という、余裕で国宝の立派な立派なお堂に入る。広いお堂で、ここにはたくさんの人が集まったのだろうなと容易に頭に描ける。
門やお堂の上方に施された彫刻、その一つひとつも抜かりない。下世話な話だが「お金かけてるなぁ」と、友人と何度も言い合った。きちんと玉眼を入れてもらっていたり、さらに龍の髭は金色にしてもらっていたり(パーティー感ある! と思った)。
言いたくなる「真宗高田派本山 専修寺」、さすが、粋を集めたお寺なのだろう。あまりにすごくて、「権威、濃すぎ」? と、使ってみたかったMJの言葉を引く。正しく使えているかは自信がナイ。ちなみに、トイレも完璧、と思った。一度に大人数が使用できる広さを持ち、「ここに大きめの鏡があればなぁ」と思ったらまさにあった。
見たかった宝物館は、残念ながら工事中で叶わず。あまりの暑さに未練など秒で溶け、みやげものを覗く。十年前以上からあるガチャガチャ「和の心 仏像コレクション(300円)」を発見。見つけるたびに、やらずにはいられない代物。気づけば、けっこうの数をすでに所有しているが、やる。


願いを込めて、手首をスナップ、スナップ、スナップ。「すわ、極彩色!」 この時点で何が顕現したのか分かる。八部衆のひとつ、「迦楼羅」である。当たる確率のある中では唯一のカラフル仏であり、つまりは大当たり。いみじくもまだ持っていないもので、静かに大喜びしてしまった。ありがとう、「真宗高田派本山 専修寺」。



 次なる目的地は、友人たっての希望、三重県名張市は「C&J Records」。問題、「C&Jとは、何の略でしょうか」のクイズに、「Country & Jazz」と、おもしろくもなく正解でもない回答をするくらいには、目がトロントラプターズな自分である(正解はClassic & Jazzらしい)。
自分はレコードはやらないが、この店がある立地にはとても興味を持った。つまり、「旧国津小学校」の中に構えているのだ。8年前に閉校した、小さな小学校。一応教員である自分としては、そんな中に入れるのは、いつだって興味津々になってしまう。


旅行を終えてからも、ネットで一番色々と調べたのは、室生寺でも専修寺でも、最後に行く金勝寺でもなく、「国津小学校」だった。ていねいに、こまめに更新されていたHP。教員の運営HPあるあるの誤字も微笑ましい。ここでのこんな学校生活の日々が、閉校を迎えて、幕を下ろしたのだなと考えると、全然知らないのに感じ入るものがあるのだ。
訪問前、友人は、トラベラーズハイからか、「初めて5ケタのレコード買ってもいいかも」と意気込んでいた。が、良質なレコードを良心的な価格付けで販売する良店だったらしく、「欲しいなと思っていたやつ」を含む2枚をお買い上げ。僕はと言えば、CDの8センチシングルコーナーに目が留まる。ある、ある、と思い4枚。すべて小沢健二。


20年ぶりくらいに、8センチシングルと向き合った気がする。物としてそれを手に取るとぐわっと当時の風が吹いてきた感。「10代で口ずさんだ歌を、人は一生、口ずさむ」。この記憶は、誰にも邪魔されないもので、宝物だ、と思う。





 そこから車を走らせて、途中立ち寄れるということで滋賀県は信楽へ。一日目ランチのことを思い出し、入れるところに入るぞ、と気持ちを入れる。とは言え、欲はそうそうおとなしくはいず、「あー、あんまり美味しそうじゃない、かも」とか言っているうちに数軒逃す。言っているうちに景色はぜんぜんお店などありそうもない様相。
ひもじさが極まる前に信楽に入る。「できれば蕎麦屋がいいね」とか言っていたが、空腹民は濃い味を欲す。「らーめん」と幟(のぼ)っているのを見つけるやいなや、「すわ」と駐車。夜はBarになるらしい、よく分からない形態の、しかし実に町のラーメン屋然とした店がまえ。醤油ラーメン、高菜ごはん。いただきます、ごちそうさま。
信楽では、たぬきのつまようじ入れに食指が動いたが、たぬきの意匠にもうひと踏ん張り欲しいと思い、購入は断念。たぬきの大型火鉢500万円は、まだ売れていなかった。

 このレンタカー旅ラストは、滋賀県栗東市は金勝寺。僕はまったく知らないお寺だった。道中、HPの金勝寺縁起読んで、と運転席の友人が言った。「看板読むのも時間と体力要るから」。確かに、と朗読するが、この手の文章はやはり難読語が多い。全部正しく読むのは至難と思う一方で、一般教養レベルには達していたかな、と自分が少々心配になったのはここだけの話。というか、読んで人に聞かすために書かれてはいないと思う、あの手の文章は。途中それも思って、自分なりに「あえて」易しい言い方に替えて読み上げた。


「軍荼利明王」と友人は言った。明王とくれば「不動明王」がひとつ抜けている存在になりがちだからこそ、軍荼利のみに注目できるこの機会を大変楽しみにしていた。
道は大変な山道。ハイキングコースにもなっているようで、「ここから金勝寺、歩いて40分、車で5分」とあった。
嬉しいことに、駐車場からすぐ志納所で参拝が始められる。ほとんど歩かずに済むこの親切設計に一気にここが好きになった。
室生寺よろしく、自然がそれはもう豊かな境内。苔で風情ある参道を一段一段のぼる。仁王門を通り、右。すわ軍荼利明王。二月堂と呼ばれる小さなお堂に、ぴったりサイズの3.6メートル明王。圧巻である。これはかっこいいな、と声が漏れる。今後、仏像の話ができる人と会えば必ず話題に出すことになると思う。また良かったのが、センサーで、人が来たら明かりが点くことになっている。つまり、旅人が二月堂に到着したら、軍荼利明王が電気を点けてくれるような感覚。「よう来たな」みたく。

少し上ると本堂、ご本尊は「釈迦牟尼如来坐像」。ぐるっと上りながら回り、虚空蔵堂には、見どころの三体が。真ん中に「虚空蔵堂半跏像」。菩薩の、珍しい半跏(片足を下ろしているいる)の姿である。残念だった(それこそが良さか?)のが、下ろしている足の部分が隠れて見えないようになっていたこと。知っていなければうっかり半跏とは気づけなかったかもしれない。情報万歳、知っていた僕たちは、なるほど、と十二分に堪能できた。
左右には毘沙門天と地蔵菩薩。深山幽谷、心静かに仏像と向き合う間も、絶えず虫が足に跳んできたり頭周りを飛来したりする。何百年も、きっとこれは変わらないのだろうと思った。
室生寺でも思ったが、参拝すると、ふだんの時間の感覚がぶっ壊れる。「5年前は」とか「10年前は」とかの次元じゃないのだから。そして、やはり、このぶっ壊れる感覚は、ありがたいのだ。



 帰途、お礼の意味も込めて友人にソフトクリームをごちそうする。レンタカーの返却は18時。完璧な帰着時刻で、何の問題もなく二日間、我々を無事にあちこちへ連れて行ってくれたトヨタ車をお返しする。疲労感は、湯に浸かっていることに似た心地よさと言えなくもなかった。
二日間、車中では、ある映画について思うところを再三話し合った。たぶん、日本中で、その映画をこんな濃度で話し合う車内はないのではないか、というくらいに。
『佐々木、イン、マイマイン』、まさかもう一回観なおすことになるとは。この一泊二日が、この映画をさらに一段階傑作にした。ごく個人的な話。


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