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音のない世界、霊場 恐山

各地の宗教的聖地や霊場の音を巡る「音の巡礼」。今回は縁あって、日本三大霊場のひとつである恐山 菩提寺へお参りしました。

青森空港から車で約3時間、恐山街道と呼ばれるくねくねとした山道を抜けて、視界が開けると車中にまで硫黄の臭気が漂ってきます。
眼前に広がる美しいブルーのカルデラ湖「宇曽利山湖(うそりやまこ)」の周囲は白い岩や砂で覆われ、明らかに異世界の様相を呈しています。

故人へのわりきれない惜別の思いを受け入れている霊場 恐山では、死者が汗をぬぐうための手ぬぐいや、衣服、食品、あの世で寂しくないようにと「花嫁人形」までもが供されます。至るところに刺さっている風車は、幼くして亡くなった子どもが遊べるようにという思いが込められています。
霊場らしいモノクロームの世界に、突然あざやかな人工物の色彩が混じり、この霊場の非日常感を際立たせているようです。

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活火山ならではの豊かなお湯も湧いています。脱衣場があるだけの簡易な小屋でカジュアルに入浴できる源泉かけ流しの浴槽は実に気持ちがよく、ついつい長湯したくなりますが、それは危険。成分が強すぎるために3-10分程度にしてくださいと書いてあります。お湯を顔にかけようものなら目が潰れるかのように痛くなるそうですが、それでも何度も入りたくなってしまうほどに魅力的な温泉でした。

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さて、録音は朝勤の前に済ませようと思い4時半に起き、5時には宿坊を出ました。既に空はすっかり明るくて、外気温もそんなに涼しくない。火山性ガスの吹き出る賽の河原と呼ばれる岩場を超えて、宇曽利山湖畔に出ました。看板には「極楽浜」と書いてあります。

、、、歩きながら気付いてはいましたが、恐山はほとんど「音がない」のです。
もちろん全くの無音ではありませんが、マイクを向けたくなるような音がない。とても不思議です。季節は夏。宇曽利湖を囲む緑の木々から蝉の大合唱が聴こえてきそうなものです。そういえば恐山に来てから、全く蚊に刺されていません。カラスは居ますが、鳥の鳴き声も少なく感じました。

聴こえているのは風の音と、風によってまわるカラカラカラという風車の音。そして湖の浜辺に打ち寄せる波の音、くらいでしょうか。

少し調べてみると、宇曽利山湖は湖底から硫化水素が噴出して湖水に溶解しており、強い酸性の水なのだそう。その湖で生きられるのは酸性に強いウグイほか、ヤゴなどの水生昆虫くらい。本来であれば命の宝庫であろう水辺に生物が少なければ、その周辺で発せられる音も限られてくるのでしょう。
少し前に秩父の森でキャンプをした時は、時間帯や天気によって森のサウンドスケープの変化が感じられました。やはり自然の中で聴こえてくるのは、生物たちの活動音の重なりなのです。

比して恐山は生物の少ない、まさに「この世の果て」。音のない世界です。極楽浜では、死者の名前を大きな声で一心不乱に呼びかける「魂呼び(たまよび)」をする人が訪れるそう。湖に声が反響して、遠くから聴いているととてもこの世のものとは思えない声に聴こえるそうです。ここまで静かであれば、よく響くことでしょう。「魂呼び」の音もいつか録ってみたいですね。

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