三題噺④
練習をしてみる。多分やり方間違ってるよって話もある。つづけることが多分大事なので,やってみる。
※ ライトレというアプリを使ってお題を決めています。
お題:死 黒 酒
酒の味は何時になっても好きになれない。
45歳にもなって酒が好きじゃないなんて,面倒ごとでしかない。
一度酒が飲めない事について,古くからの友人に相談したことがある。
友人は「酒が飲めない奴なんてそこら中にいる」と励まされたが,「飲めないんじゃない,味が好きじゃないんだ」と言うが「俺も昔はビールが嫌いだった」と返ってくる。
違うんだ。俺は本当に酒の味がまずくてまずくて,とても飲め込めない。酒っていうのは,なんていうか酷い血のような味がして…
結局友人は理解してくれなかった。
今では会社でも飲みに誘う人はいない。昨今パワハラだのサケハラだの色々あるし,上司も何も言えないのだろう。良い世の中になったものだ。
1人で駅前の繁華街のちょっとした飲み屋街を歩きながら,子どもの頃,いたずらで父の書斎にあったウイスキーを飲んだことを思い出した。一口含んだ瞬間,いぶされた液体の香りと,それから鉄の臭い,それから…
記憶はそこで途切れていた。
こんな記憶,ひさしぶりに思い出した。しかしなぜ今になって…
家に帰ると父は相変わらず,大きな丸い氷をグラスに浮かべてカラカラやりながらニュースをみていた。
父は帰ってきた俺を一瞥して「薬,飲んでおけよ」と言った。
俺は自分の部屋に入って机に積まれた薬の1つを飲み,鉄製の台に横になった。
友人も少なく,会社でも孤立気味で,妻も子もない俺がうつ病にもならず,きっとそう遠くない父の死も考えない。横になればよくねむれる。
目を閉じると俺はすぐに眠りについた。
彼の父はいつも彼が水槽に沈んだかどうか確認するため,彼の部屋にやってくる。
今日も彼は保存液の中ですやすやと眠っている。
彼の父は少しだけほっとして,「子供の寝顔をみてほっとするだなんて」と皮肉に思う。
彼は父の末の息子だった。他の息子たちは皆,大きくなる前に型崩れして死んでしまった。彼だけは初めから大きく作ったから,思ったよりも長生きしてくれている。おまけに仕事まで。
行動抑制プログラムもよく働いているようだ。
人として生きるにはいささか気の毒だが。老人の孤独にもう少し寄り添っていてくれないか。
老人は初老の男の顔にそっと祈りをかけて,部屋を後にした。