重力との関係について

私の先生であるエド博士の著書のタイトルは、「重力とのダイナミックな関係」です。重力はボディワーカーにとって、非常に重要なテーマの1つだと思います。

メールボックスの整理をしていたら、以前にお世話になったパーソナルトレーナーの先生の先生が宇宙飛行士の方が著した本を紹介されていて面白い内容だったので紹介しておきます。

「無重力状態に身体をさらすのは、青くて美しい地球に暮らす私たちにとっ
 ては、とても不自然なことです。私たちのみならず地球上のすべての生物
 の身体各部や臓器は、地球がもたらす重力の影響を受けながら成長し、進
 化を遂げ、形づくられてきました。重力の使い方如何によって、私たちが
 どれほど健康的で強靭な身体をつくりあげ、維持することができるか、筋
 肉の衰えを防げるか、皮膚の皺の数を減らせるか、が決まるのです。」

「重力は最大の殺し屋である」というオステオパシーの考え方と「重力は治療家である」というエド博士が半世紀おこなってきたロルフィングの真反対にも受け取れるアイデアがとても好きで、どちらの言葉も表裏一体真実なことが、わかりやすい文章で紹介されています。

そしてさらに、宇宙での長期滞在が筋肉の衰え、それも姿勢を維持する
 ために使われる背骨を支えている筋肉と、下肢の筋肉に強く影響を及ぼす
 こともわかりました。腸の動きが悪くなり、小腸からのカルシウムの吸収
 効率が低下します。免疫系の働きも悪くなり、身体の状態を安定させてお
 くことが難しくなって、暑さや寒さをとても敏感に感じるようになり、眠
 りが浅くなることも明らかになりました。

無重力空間で生活する宇宙飛行士の健康への影響は誰でも想像するでしょうが、書かれているとおり、私たちの姿勢・生活スタイルによっても重力との関係性は変わります。だから、ダイナミックな関係性をエド博士は提唱しています。エクスパンショナルピラティスで常々、動きの質に目を向けていく1つの理由も代償動作によって重力が味方にできなくなってしまうからなのです。

このような症状は宇宙飛行士ではなくて、高齢者の姿です。宇宙飛行士に-私たちが普通に経験する老化に比べてはるかに急激に-起こるさまざまな身体の変化は、私たちが歳を重ねるごとに経験する身体の変化と一致しているのです。宇宙飛行の身体への影響と老化現象の問題意識は、高齢者に見られる多くの症状と非常に似通っていたのです。
加齢に伴う老化現象は、生涯にわたって続き、けっして元に戻らないと、考えられていましたが、「高齢者の肉体的な変化は、はたして年齢を重ねた結果だけなのだろうか。重力と何か関係があるのではないだろうか」と気づきました。老化の問題について考えれば考えるほど、老化による多くの症状は、年齢そのものとはあまり関係がないことを確信するようになりました。つまり、「老化現象の多くは、長い人生をかけて、徐々に重力の恩恵を避けるようになった結果である」というものです。

老いによる生活スタイルの変化が、重力との関係性の変化につながり、それによって健康を害していくことが述べられています。とはいえ、自分の身体の一部のようにスマートフォンを触り続ける私たち現代人は若くして、すでに重力との関係性は随分とこじれてしまっているのではないかと感じます。

私たちが重力をどう使うか、もしくは使わないかによって、身体に対する影響が大きく変わるのです。私たちの大半は年齢とともに、暮らし方を身体にとって楽なように変えていく傾向があります。歳をとれば家族や友人たちや身の回りにいる人たちからは、ゆったり過ごすように勧められるようになります。そして、ある年齢に達すると仕事を辞めて、身体を使わなくなってしまい、その結果、重力の恩恵をあまり受けない生活に入ってしまいます。そうです。重力はいつもそこにあるにもかかわらず、それを活用しないかぎり、健康にとって意味がないばかりでなく、むしろ悪者になってしまうのです。現代の生活習慣に身体を慣らしてしまった人は、重力の恩恵を避けて生活しているようなものです。

まず、そのこじれた重力との関係性を修復するには、座ることではなく立つことと言いたいところですが、重力との関係性が悪い人にとって長時間立っていることは苦痛でしかありません。過剰に身体を緊張させてしまって、太ももの張りや腰の痛みを強く感じるだけかもしれません。それではあまり意味がありません。

うまく立てない人は、うまく座れないのです。うまく座れない人は、うまく四つ這いにもなれないのです。まず上手に仰向けになって、基本的な動きが美しい軌道でおこなえるように自分自身に対して動作教育をしていく必要があります。重力との良い関係性を掴むには、複雑な動きを通じてではなく、シンプルな動きからはじめるべきです。

だから、身体に楽な生活によって蒙る変化が深刻な問題となって現われるまでには、長い時間がかかります。でも、このようにはいえます、「重力の恩恵を避けている人は、重力をうまく活用する方法を見つけ出し、早くから実行に移して、それを生涯続ける人に比べて、明らかに早く老ける」と。重力を理解し、重力を利用する方法を身につけることが、よりよく老いる秘訣なのです。

サーカスの団員のような複雑な動きを練習すると運動したという気分にはなるかもしれませんが、それは脳を満足させているだけです。シンプルな動きをクオリティ高くできるようになっていった先に、そういった動きができると素晴らしいと思いますが、まずはクオリティに目を向けるべきです。魚住先生のメールから、引用した文章は拝借しました。

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