親の心子知らず

父は豪快な人だった
何事にも全力で
喜ぶときも叱るときも悲しむときもはしゃぐときも
いつも大きな声をあげて
誰よりも自分全開だった

僕はそんな父が嫌いではなかった
小学校6年生の運動会で
徒競走に出ていた僕を
アンカーでヒーローになるはずだった僕より目立って応援してくれた時は
恥ずかしいからマジでやめてくれと心底思ったが
そこに嫌悪感はなかった

そんないつも主人公の父の相手が1番大変だったのは僕の高校受験の時だった

僕は塾に通って順調に成績を伸ばし
志望校にも十分手が届くところまできていた
あとは本番で実力が出せるよう
自信を持って挑めばいい
僕の中では結構いいかんじに整っていた

しかし父は
塾のテキストや問題を自分でも問いて僕に解説して得意げになったり
自分で問題を作って僕に解かせ教師気分を満喫したりしていた
まるで僕のことはそっちのけで
子供の受験というイベントをただ楽しんでいるように見えた

正直ウザかったけど
笑えるくらい父らしいとさえ思えたのをよく覚えている

「おかえり、遅くまで勉強お疲れさん。そうだ、プリン買ってきてるぞ、駅前のやつ。冷蔵庫にあるから。」
「急にどうしたの?俺プリン特別好きってわけじゃないけど…まあ明日食べるよ。」

僕もまた父になった
高校受験を控えた息子のことが心配でたまらなくて
居ても立っても居られない父になった
何か僕にできることはないかという一心で日頃しないことまでしてみたが
あまり役には立てていないようだ
 
あの時
僕の父も同じ気持ちだったのだろうか

確かめることはもうできないけれど
やっぱり僕は父のことが嫌いではなかったと深く心で噛み締めた

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