熟れた果実に「ありがとうございました」
不覚にも笑ってしまった。
雨のにおいが濃い午後2時。太陽はなく世界は灰色。梅雨前線はずっと停滞中。私の踏む石畳もぬかるんでいるような日の出来事。
京都、はんなり舞妓さん。
そんな京都にだってそりゃ、ありますよ。ヘルスくらい。熟女とか巨乳とか○○専門とか。私はその向かいにあるつぶれかけの台湾料理店の方が気になったけど。儲かってんのかな。昼営業はしてないみたいだけど。
なんのことはない。
目の前のファッションヘルスから、男がひとり出てきただけだ。
「ありがとうございました!」
と、店員に見送られて。
それで笑ってしまっただけだ。
だって、あまりにも元気な「ありがとうございました」だったから。
体育系かよ、みたいな。グランドに挨拶してるの?みたいな。
野球部の挨拶すごいよね。
「グランドにありがとうございました」って、ほとんど「ありがとうございました」に聞こえない「ありがとうございました」を言うわけだ。感謝の気持ちは伝わってると思う。親御さんにも同じくらいありがとうって言ってあげな。
まあ、ヘルスにだって運動しに行くみたいなものなのか。知らんけど。
それにしてもまったく不釣り合いだ。
しけったこの路地も、煤けた店の外壁も、色あせた看板も、そして出てきた男も何もかも。単調の中の長調。雨の調べにデスボイス。
ヘルスなんて好きな時に行けばいい。出てきた男はすっきりしたんだろうし、夜勤明けで発散したのかもしれないし、ずっと我慢してたのかもしれないし。
このご時世、お客だって少ないだろうから、いきたいときにいけばいいじゃない。下ネタじゃないよ。
性の発散は人の営みだ。
愛する人と時間を過ごそうが、痴漢ヘルスで発散しようが人妻専門店で発散しようが、正直何も変わらんのでは。
出す。終わり。
愛だ何だはよくわからない。そりゃ本番はダメだし全く同じことはできないよ。風営法とかあるからさ。夜の街のソーシャルディスタンスだ。ソーシャルってかリーガルか。
でも身体的な反応としては全く変わらんワケだし。
愛だのなんだの言うからややこしいんじゃないか。こーいうの。
なんて、橋の上で濁流を眺めながら思うのだ。
春の新作はイチゴ味。真っ赤な果肉と真っ白なクリーム。熟れた果肉と甘ったるいどろどろ。
あひゃひゃ。生々し。