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『最初の舞踏会』を読んだ

2022/2/26、家にて読了。

岩波少年文庫ホラー短編集第3弾。去年読んだ『八月の暑さのなかで』は英米文学を集めたものだったのに対し、こちらはフランス文学編となっている。もう英米文学はいったん読んだので第2弾『南から来た男』を飛ばしてきてしまっているが、いずれ読みたいと思っている。せっかくなのでね。

以下、全15作品中、特に気に入った作品の感想を書き留める。

『沖の少女』
ジュール=シュペルヴィエル作品は初めて読んだ。美しいメルヘンの中に見え隠れする、底冷えするような孤独。物語における死に慣れ過ぎてしまったぼくらに、死以上の恐怖を浴びせかける作品だといえるかもしれない。

『最初の舞踏会』
レオノラ=カリントンも初読みだったが、わりに好きですね。無垢な少女性と残酷なユーモアが、あっけらかんとした読後感を残す。このくらいパリっとくるほうが笑えていい。

『壁抜け男』
マルセル=エーメも初めて読んだ。いかにフランス文学を通ってこなかったかが露見する。近年ミュージカル化された旨が紹介文に記載してあったが、なるほどそれも頷ける。壁抜け男デュティユールが怪盗として働く悪事は舞台映えするだろうし、怪盗には得てしてロマンスがつきものである。一見あり得なさそうなのだが物語を読み進めるうちに、ハーそんなこともあるのか、と妙に納得してしまいそうな感じもある。舞台を観てみたくなった。

『心優しい恋人』
アルフォンス=アレー作。知らない作家だが一発でお気に入りになったので、彼の『悪戯の楽しみ』というコント集を読みたい本リストに追加した。『シュールレアリスム宣言』のアンドレ=ブルトン(この間赴いたミロ展で知ったばかりだったので、本書に名前が出てきたのは嬉しい驚きだった)に「エスプリへのテロリズム」だと作風を評されたこともあるらしい。エンタの神様のキャッチコピーみたいですね。馬鹿馬鹿しいほどブラックなユーモアを突き付けられると、そのパワーで笑うしかないみたいなところがある。

『恋愛結婚』
エミール=ゾラ作。世界史で『居酒屋』『ナナ』を執筆したひとであるとは習ったものの、その作品に触れるのは今回が初。フランス自然主義文学とはかくたるものかとニヤつきたくなるような硬派な語り口で、ある不倫カップルの顛末を描く。登場人物たちの心理の激しい変化がしっかりと捉えられた筆致であるため、読者が振り落とされることがなくてありがたい。いわゆるヒトコワ。悪いことってのはできないね。

『大いなる謎』
アンドレ=ド=ロルド作。名前すら聞いた事がなかったが、こうした作家の作品と出会えることは読書の大きな醍醐味のひとつだ。親切心で真実を暴こうとしても、それがかえって逆効果になることもあると教えてくれる作品。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。昔のひとは偉大である。

『イールの女神像』
プロスペル=メリメ作。こうしてみると初めて読む作家ばっかりだな。ほぼ中編に近い長さのお話だが、これは面白かった。1番好きかもしれない。そもそも民俗ホラーが好きだというぼくの癖(へき)によるものかもしれないが、異教の女神というモチーフにまずそそられる。地元の名士と考古学者が繰り広げる推理合戦には知的好奇心を刺激されたし、呪いの書き方もダイナミックでいい。

岩波少年文庫ホラー短編集は重宝しますね。色々な作家による良質な古典を少しずつ紹介してくれるので、オードブルのような趣がある。少年文庫ということですが、大人もかつては少年であったわけなので、これからも有難く読ませて頂くことにする。フランス文学をもっと読みたい気持ちも増した。今までモーリス=ルブランとかレイモン=クノーくらいしか読んだことがなかったんじゃないか?

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