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『チリの地震』を読んだ

2022/5/15、読了。

池袋に梟書茶房という喫茶店がある。このアカウントを遡ると、2021/4/6に『共産党宣言』を読了した際に訪れていたようだ。様々な文学作品をテーマにしたフードやドリンクを取り揃えていて、古い洋館のような内装も好ましい茶店なのだが、ここでは「ふくろう文庫」という一風変わった商品を扱っている。

「ふくろう文庫」に入った本は、題名・装丁をカバーで伏せられる。その代わり、それぞれの書籍には1番から1231番までの番号が振られる。お客は、その番号か、それぞれの本に付された、ごく簡潔なネタバレにならない程度の紹介文を頼りに購入を決める。ぼくは自分の誕生日に該当する本を選んだ。そうして本書に出会った。

ハインリヒ・フォン・クライスト。生前は日の目を見ることはなく、苦悩の果てに女性を射殺し自らも34歳で拳銃自殺を遂げた、悲劇のドイツ人劇作家である。死後に作品の再評価がなされ、カフカやドゥルーズがその文体をこよなく愛したらしい。

古風な言葉が多く登場する種村訳の影響もあるかもしれないが、クライストの文体は気高い。その高貴な文体と劇的な場面転換が共存していることが、クライスト作品をまたとない魅力的なものにしている。

本書は6篇の短編と、2篇のエッセイで構成される。感情の描写が細やかでどれも面白いが、短編に関して言えば、後半の『聖ツェツィーリエあるいは音楽の魔力』『決闘』の2篇が特に印象に残った。物語の持つうねりが凄いのだ。前者は、超自然的な出来事を通じ、進行と精神の関係を実に神秘的に描いている。後者は、ミステリチックなストーリーテリングに引き込まれた。真実を言っているのは一体どっちだ?

エッセイを一読して、まるで哲学者のようなエッセイを書くんだなという感想を抱いたが、解説を読みクライストが大学で哲学を学んでいたことを知った。皮肉っぽいブラックユーモアと几帳面な論理の重ね方に、200年も前に生きていたクライストそのひとを透かし見るような気がして、少し愛おしくなる。

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