『異人論 民俗社会の心性』を読んだ
2022/6/12、読了。
妖怪が大好きで、いつか会いたいと願っては妖怪図鑑を飽きずに眺めているような子供だった。それが長じて、次第に民俗学に興味を持つようになった。高層ビルが立ち並び、生命さえ科学技術で操作しようというこの時代にも、光が当たらない闇の部分があるーそこにどうしようもなく惹かれるのは、或いは総てが明らかになってしまうことへの反感の裏返しであったのかもしれない。妖怪を信じるというよりも、信じていたい幼年時代だった。
本書は「異人」という共通するキーワードを中心に編まれた論文集である。去年の暮れに、文化人類学者の波平恵美子による学術書『ケガレ』を読んだ(2021/12/8読了)のだが、その記憶が多少なりとも理解をスムーズにしてくれたような実感があって嬉しかった。
「異人殺しのフォークロア その構造と変容」で、筆者は異人殺しを扱っているフォークロアを4つのタイプに分類しているのだが、これにはいささか承服しかねるところがあった。読みようによっては2つのタイプにまたがるような解釈ができる事例が多数見受けられる気がしたのだ。しかし、物語というのは多面性を持つものなので、完全に分類し切ることを求めるのは無理な話なのかもしれない。プロの研究者と学部卒の自分を引き較べるのは大変おこがましいのだが、ぼくは卒論で落語の演目の分類・分析をやった。質はともかく、手法だけは小松和彦と同じことをやったので、その種の作業の難しさは身を以て痛感したつもりだ。自戒の念も込めて、もう少し詳しく「なぜAの分類ではなくBの分類にしたのか」という理由付けが欲しかった。
しかし、裏表紙に「ニューウェーブ民俗学の誕生」と銘打たれている通り、興味深い論考が集まっている。河童が人形起源であるという説やヴァギナ・デンタータ型の説話の存在を、ここで初めて知った。「蓑笠をめぐるフォークロア」では、蓑笠がマレビトの表象ではなく通過儀礼の象徴であると結論付けられるのだが、その過程に説得力があって面白かった。
俄然読みたくなって、古本屋で昔話集を漁ってしまった。旅行先で買える和綴じのやつ。
p.s. 民俗といえば、7月29日から『女神の継承』という民俗ホラー映画が封切られるそうですね。イサーン地方の祈祷師の一族をめぐる物語で、タイ語映画だということらしい。プロデュースは気鋭の韓国人監督イ・ホンジン。以前観た『哭声』がなかなかヘビーだったので、めちゃくちゃ楽しみ。