4/23-掌編小説 21世紀の料理

 美味しい料理をつくるための秘訣は、美味しくなくなるようなことをしないことだと思う。昔はきっと違ったよね。美味しい料理をつくるためには、美味しくするための工夫、場合によってはあるいは魔法のような、とんでもないことをして美味しくしていたのかもしれない、美味しくないものをいかにして食べるか、どう誤魔化せば美味しいとさえ思えるような変化を与えられるか、料理とは、とても難しく、誰にでもできることではなかったのだろう。人々はそれぞれ分業し、狩に出る者、作物を栽培する者、それを口に運べる形にする者、その者たちを育てる者、ひいてはそれらの物を運ぶ者や、それを知らせる者、皆、自分の役割を見つけ出し、はたまた創り出し、切磋琢磨していたのだろう。
 ぼくの生きる時代は、美味しい料理を誰でもつくれる、美味しくなくなるようなことさえしなければ、特別な能力を持っていなくても、誰にでも美味しい料理がつくれる時代になった、美味しくない材料を使わなければいい、そして美味しくなくなるようなことをしなければ、誰もが当然に美味しい料理がつくれる。自分の身体が嫌がるような美味しくないものを食べなくても、手に入れられる美味しいものだけでぼくらに必要な栄養やエネルギーを摂取できる時代になっている、しかし、それに気づけば、の話ではあるのだろう、自分の好み、今日、いま、現在の自分に必要なもの、それがわかるのは本来、自分だけだから、自分の食べるものは自分で決めて、自分でつくるしかないっていうのが、いまのこの時代においては常識であるはずのことだと思うのだけど、多くが気づいていないから一昔前の常識のまま、美味しくないものを美味しくしてもらってから食べている、それを贅沢だと思ってて、贅沢しているけど、誰かにやってもらわなきゃいけない不便についてやその価値について思考を巡らせくれよと思う、自分でやるという、自分にやってもらうという、贅沢について、考えてみてほしい、お金をかけて美味しくないものをわざわざ作ってもらって、お金をかけてそれを美味しくしてもらって、お金をかけないと美味しいものも美味しくないものも食べれないと思ってて、美味しくないものを美味しくするのは素人には難しいけど、美味しいものを美味しく食べることは誰でもできるのに、美味しくないものだったら、一気に大量に作れるからって、それを誰かにしてもらって、それは特別な力を加えれば、まるで美味しいものに変身させることができて、それを食べ続けると少しずつ体が蝕まれて、するとぼくらはわざわざ病気になって、それを治せる力を身につけた人々に仕事を与えることができるという、え、え?ぼくらは、何をしているんだろう、わざわざ身を粉にして働いて倒れて、倒れる前にしていた働きで得たお金を払って、治療してもらって、忙しくて、自分の食べるものを自分じゃつくれなくて、誰かが大量に作っておいてくれたそのままじゃ到底食べられないものを誰かが加工してくれて美味しくしてくれたものを食べて、知らず知らずに、身体の中で何かが進行して、病を患い、お金をかけて、誤魔化す、という意味不明な一連の流れを永遠に続けられるようにと儚く願いながら、繰り返し繰り返し繰り返しているのは、何がどうなっているんだろう、それでも人なんだろうか?人々はずっと人として生きることは許されず、人々として、この回転を止めないためだけに、その身を捧げろと、無駄に無駄をつくり、それを捧げ、幸福には犠牲が必要だといまだにまだまだ本気で思っているみたいで、無駄に無駄を生んでいるからその無駄分がもともといらなくて、それが失われていくことを犠牲だと思ってて、それが必要だと思ってるみたいだけど、もともといらないのに多めに多めにってつくってて、失う予定で失ってもいいようにってつくりすぎてるから、悲しみが溢れてしまうのに、医者だって、そんな無駄な繰り返しの治療をしてあげるために、存在したいわけじゃなかったよ、なんの意味もない向上しない、繰り返しの、ただ誤魔化すだけの治療を施してあげることが日々の仕事だったら賢かったはずの頭もおかしくなるよね、ああ、そうさ、ぼくらはファンタジー、楽しみ尽くそう、どうせ尽きない、どんどん増えていくんだよ、溜めてしまうと追いつかないほど増えていくから、休みなく、幸せであってくれよって話なんだ、幸せは日持ちしない、一秒も持たないから、いますぐ享受しないと、いますぐ輝きを失うんだ、もったいぶってる暇はない、苦しみが溢れてしまうのは誰もがサボっているからだ、幸せが苦しみに変わる前にこの瞬間の幸せを感じてくれよ、休んでる暇はないんだ、順番待ちとかないんだよ、なぁ、君専用のやつがあるんだよ、誰かにあげるとか譲るとか、使い古しとかない、この輝きに気づけよ、ねぇ、ぼくはなんだか息ができないよ、ぼくにばっかり忙しくさせないでよ、自分の仕事は自分にしかできないし、自分の幸せは自分でなんだよ。頼むよ、ねぇ。

行きたいところにふらっと行きたい、ひとりのひかり暮らし、明日を恐れずに今日を生きたい、戦争と虫歯と宝くじのない世界を夢想してみる。