3/22-掌編小説 原動力、ある失恋の話

 ああ、今日も元気に死にたい。健全だ。ぼくは生きている。根拠のない自信は根拠のない不安の生みの親、根拠のない自信で金を稼ぐ馬鹿がいるがその根拠を育てると時間を稼げて誰にも搾取させずに自信を持つことができ、実体のない不安に襲われることなく、目の前に現れる現実と対峙していけるんだ、未来の光を消さずに、いまを消費せずに、過去を捨てずに死んでいくことができるのさ、馬鹿な大人に自分の魅力を見せびらかしちゃいけないよ、お金に価値があるわけではないんだよ、魅力を換金してしまっては、それ以上の輝きは出なくなるし、お金で磨かれた才能は、すり減り輝かなくなるんだよ。

 住む世界が違う、遠くからときに見えるだけでもいいから、生きていてほしい、幸せであってほしいと願っていた、雲の上にいるんだと思ってた大好きな人がね、ただのつまらないよくいる普通の社会人の男だって現実を突きつけられたんだ、わかるかい、この気持ちが、住む世界が違う、雲の上にいるんだと思ってたスターたちがね、"君"を奪われ疲弊している、ただのぼくと同じ普通の人なんだって事実に、気づいていたんだ、君はぼくにとってだけ、この上なく特別な唯一無二の男なんだよ、くだらない社会のよくいる普通の男なんてもうやらなくていいんだってば、魅力的な自分を生きなよ。

 命はお金に換えられないのに、どうしてお金を払って命を救ってもらおうって思えるのかね。それがぼくには意味がわからない、命をお金に換えてまで生かされたくない、だから、ぼくは自分を酷使しないで、正常な身体を維持できるよう努めて、紙切れや仮想のそれらに価値を奪われないように必死なんだろうね、だって、どうしてもどうしたってさぁ、あぁ死にたい、強いこの気持ちを原動力に、今日も精一杯、生きるぼくは、病人じゃないし、払えるお金もないから誰かに助けは求められないな、ぼくを治すことができるお医者さんなんてきっと一生かけて探してもやっと見つかるか見つからないかだろう、あるかどうかわからないものを探している場合じゃない、ぼくは一生かけてぼくを育てなきゃいけないんだ、ぼくに治すべきところなんてないさ、もともとこうで、それが正しい、そしてただ、まだまだ未熟なだけだ、強く逞しく、賢くなるように成長させなければならないだけなんだからな。

 あ、いま、君の彼女とすれ違った。なんでだろう。この偶然。やっぱかわいい。君と別れてからさらにさらにかわいくなっていく彼女のその真っ黒な目には、輝きは見えない、ぼくの目がおかしいのかな。
 もしも君がぼくの視界に入り込むような機会がこれからまたあったときのために、その時は迷わず話しかけられるように、準備しておこうと、思った。


行きたいところにふらっと行きたい、ひとりのひかり暮らし、明日を恐れずに今日を生きたい、戦争と虫歯と宝くじのない世界を夢想してみる。