4/19-掌編小説 空想

 人々にいま伝えよう、我々は魔法使いだ、だが、魔法は使うな、魔法には連続性がない、つまり、端っこがあるということだ、追いやられれば落ちるということだ、魔法は、基本、使ってはならぬのだ。魔法を使うと時短できる、すると暇になる、暇は辛いぞ、だから人々は忙しくするようになっていった。魔法は悪を生み、犠牲をつくる、我々の身体を蝕み、時間を奪っていく。我々には本来、無限の時間があった。しかし、日常的に魔法を使うようになった人々は、時間を浪費するようになり、時間の概念が歪み、時間には価値が与えられ、我々はそれを奪い合うようになったんだ。追いやられそうになったときに、咄嗟に否応無しに使ってしまう魔法は悪を生まなかったのだが、なぜならそれは地球に端っこがないからなのだが、怠惰を極めた人々はいつでも当然の如く魔法を使うようになり、地球がまあるいことを忘れた、それが当たり前になりすぎて、落っこちそうになることがなくなり、代わりに突然に落とされる穴が出現し始めた、前触れなく突然落とされるようになったから、咄嗟の魔法は使えない、魔法が使えることを忘れた、魔法を使いながら生きていることにも気づいていない人々だ。
 太古の昔より人々は皆、知っていたんだ、我々は皆、魔法が使えると。ではなぜ使わなくなったか、魔法は解けるからだよ、心奪われてしまう盲目な、その恋ってやつは魔法の一種ね。努力しなければ魔法は使えるようにならない、だが、努力して魔法が使えるようになっても、それは解ける、一生なんてまったくもたない、恋で身を滅ぼす理由はそれね、魔法で手に入れた幸せは儚い。では幸せは儚いものなのか?いや、本物の幸せはそんなものではないんだよ、魔法使いとして生きることをしないぼくら、魔法が使えることも魔法は解けることも知らないぼくらが闇雲に孤独に知らぬ間に魔術を身につけてしまうことは由々しき事態を招くに決まっている、本当はみんな気づいている、努力には二種類あってさ、一つは、消えない幸せをつくるためのもの、根拠のある自信、中身のある自分を育てるためのあらゆる努力、もう一つは魔法、すべてに味方されラッキーを起こすための努力。努力とは、願う奇跡を、必然にする魔法。その魔法を解き明かして、そのからくりを魔法を使わずに実践できるようにしていくことが人生、一秒も暇はないのさ。

行きたいところにふらっと行きたい、ひとりのひかり暮らし、明日を恐れずに今日を生きたい、戦争と虫歯と宝くじのない世界を夢想してみる。