Bad Blood から考える Fake it, till you make it. の功罪
シリコンバレーのバイオテック企業 Theranos の詐欺事件を描いたノンフィクションのドキュメンタリー「Bad Blood」がやばかった.
Theranos は,数滴の血液を指先から採るだけであらゆる病気を検出できるという革新的なデバイスを開発していたスタートアップ.多額の資金調達や大型提携をおこない,一時は時価総額 1 兆円を超えるユニコーン企業に成長する.また並行して,CEO の Elizabeth Holmes はカリスマ女性起業家として名を挙げ,Forbes の表紙を飾るまでになる.
しかし,実際はデバイスは全く完成しておらず,何年もの間嘘に嘘を積み重ねていた.資金調達や提携の際も動いているように見せていただけ.社員の中にはそれに気づく人もいたものの,言及した人は訴訟リスクを盾に脅して口封じされた上で,クビにされていく.最終的にはジャーナリストが元社員の協力を得た上で嘘をすべて暴き,全部詐欺だったということが発覚.現在訴訟されており,今夏にいよいよ裁判が始まるようである.
本事件は,Fake it, till you make it. (うまくいくまでは,うまくいっているフリをしよう) のカルチャーを象徴する事件と言われている.スタートアップ界隈にいるとよく聞く言葉であるが,歪んで解釈する人や組織が少なからずおり,稀にこのような訴訟問題に発展する.去年 Netfilix でドキュメンタリー化された Fyre Festival も同様の事例であり,こちらも訴訟に発展した.
Fake it, till you make it. という言葉は,もともとハーバードのビジネススクールの心理学者 Amy Cuddy によって,姿勢は心に影響を及ぼすというポジティブな意味で使われたもの.TED の動画を見たことある人も多いかも.
この言葉を本来の意味で,自分に自信を持つために使うのはよいと思うけど,曲解して周囲にネガティブな影響を与えてしまうのであれば,それは詐欺と変わらない.特に Theranos なんかは医療デバイスで人命に関わる問題であり,うまくいっていないからといって嘘をつくことは言語道断である.
もちろんスタートアップには,時に自信が十分になくても「できます!」って言うべきタイミングはあると思う.クレイジーなアイデアであればある程実現可能性は低く,VC などもそれを理解した上で投資をする.むしろこのようなチャレンジは推奨されるべきである.
ただ,途中で実現できないことに気づいた場合,傷が浅いうちに正直に認め,マイナスの影響を最低限にすることは非常に重要であり,これができるかどうかが詐欺かどうかの境界線なように思う.大きなチャレンジをしている程,引き返しづらいことは多いと思うが,そういう時程正しい倫理観を見失わずに判断できることが経営者には求められているように思う.
ちなみにシリコンバレーではこのような問題が度々発生した結果,最近は Fake it, till you make it. ではなく,Trust, but verify. (信用してもいいけど検証しろ) と言われているみたい.
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