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【読書感想文】西加奈子著「i」

あらすじ

 主人公の「アイ」はシリアで生まれた。裕福なアメリカ人の父と日本人の母に養子として育てられた。ニューヨークでの幼少期を経て日本で過ごす中で、かけがえのない友人「ミナ」、写真家の「ユウ」と出会う。苦しみ、もがきながらも本当の自分を探す物語。

ぴーなりの感想(以下ネタバレあり)

 心を打たれたのは物語の中盤。主人公のアイが親友のミナに秘密を打ち明ける。アイは黒いノートに世界中で起きた災害や事件、巻き込まれた死者の数を記録していた。記録が増えていくたび、彼女は「なぜそれが自分ではない誰かに降りかかるのか」と苦しんでいた。ミナはアイに「その苦しみを大切にすべきだ」と声をかける。迫りくるように語りかけられる言葉の数々に、胸が押しつぶされ、大きく揺さぶられた。

 自分にも同じようなことがあった。2011年3月11日午後2時46分。大災害が日本を襲った時、北海道の中学校にいた。揺れは長かったが小さく、生活が脅かされることはなかった。

 それから約5年後、ふと考えた。「俺、このままあの災害について何も知らなくて良いのかな」。お金はなかったが、長距離バスを予約し宮城県石巻市に足を運んだ。駅から海岸までは距離があったが、ただひたすら歩いた。海岸で顔をこわばらせる海風を受けながら見た、「何もない」場所の光景は今も忘れない。

 今でもあの時、何に突き動かされたかは分からない。被災の経験もほぼない人が今更被災地を訪れたところで、それは「偽善だ」と言われるかもしれない。でもあのときの行動には、確かに「愛」があった。一生忘れることのない光景にたどり着いた。

 今の自分には「愛」があるだろうか。2024年にも世界中で大災害や悲しい出来事が起きている。正直、「自分とは関係ない」と考えている。それはそれで良い。何不自由なく生きられる環境に感謝すべきだ。でも自分の外で起きることを「何とかしたい」「知りたい」と少しでも思った時、変わる世界があると思う。

 全ての仕事は、誰かのためにするものだ。だが自分は「誰か」が考えていることも、苦しみも、全ては理解することのできない。それでも「誰か」とかかわるとき、本気で相手のことを想像しているか、放棄しているか。「愛」があるか、ないか。それで得られるものが少しだけ違ってくるのかもしれない。

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