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どうしても忘れられないゲーム〜その2『アルカノイド』(1986年)(前編)

オイラがアルカノイドと初対面したのは、1986年の19歳の夏。当時既に上京を果たしていましたが、夏休みの間はヒマなので、静岡の実家に戻ってダラダラと過ごしていた頃でした。オイラはその夏、静岡駅の近くにあるお茶工場で、新幹線の車内で販売するためのプラスチック容器入りのお茶(お湯が入っていてティーバッグを入れて揉むヤツ)を作るバイトを、おばちゃん達に混じってやっていました。

午前中の作業が終わって昼飯を食べて昼休みになると、オイラは熱気ムンムンの工場を脱出し、クーラーギンギンの繁華街のゲーセンに行って涼んでいました。そして、そこで気になったゲームを毎日ひとゲームだけプレイするのをお昼の日課にしていました。そんな何でもない夏の日常のある日、突如ゲーセンに『アルカノイド』なる新しいゲーム機が設置されたのです。

子供の頃に駄菓子屋の軒先で夢中になっていた『ブロック崩し』のおかげで腕に自信があったオイラは、その新機種のアルカノイドを早速プレイしてみました。イントロダクションのスペーシーで魅力的なSE!ブロックを壊すと様々なアイテムが降ってくる斬新さ!ダイヤルコントローラーの重みがスゲぇ心地良い!おいおいボタンでレーザーが撃てちゃうのかよ!ヒャッハー!最高だぜコレ!

てな事で、この日から毎日アルカノイドをひとプレイする昼休みの日常が始まりました。最初の頃は5面のインベーダーレイアウトの面(アイテムがほとんど出てこない)で毎回跳ね返されていたオイラでしたが、徐々にコツを掴み始め、夏休みの後半にはなんとか10面くらいまでは攻略できるようになっていきました。

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そして覚醒の日は突然やってきます。この日は序盤からアイテムに恵まれ、ブレイク(次の面に進めるアイテム)も連発で面を次々とクリア。更に1upアイテムもバンバン出るという運の良さで、課題の10面も楽々と撃破できたのです。「こりゃいいぜ!この調子なら未知の面も拝めるんじゃね?」と気合を入れてTシャツの袖を捲り上げるオイラ。そんなオイラに呼応するかのように欲しい時に欲しいアイテムを排出してくれる、今日は妙にユーザーフレンドリーなアルカノイド。

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しかし実はここで大問題が発生していました。バイトに戻らなければいけない時間が刻一刻と近づいていたのです。昼休みの終了は午後1時。そして今現在は12時50分。しかし手持ちの自機はまだ5機ある。しかも自己新記録更新中。どうするよオレ?

いつもオイラに優しく接してくれる工場のおばちゃん達の顔が一瞬浮かびましたが、オイラは即決でプレイ継続を選択したのでした。だってやめる理由がどこにある?自分のアルカノイド史上ベストのプレイを今続けているんだぜ!ここでやめたらこの夏が無駄になる!…そして約束の1時はキコーン!キコーン!というアルカノイドの金属音と共に静かに過ぎ去っていったのでした。

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そこからのオイラは、「もうバイトなんか関係ねぇ!」という吹っ切れた気楽さとこの夏1番の集中力でゾーンに入り、次から次へと現れる初見の面も苦にすることなくクリアしまくるという快進撃を続けていきました。そして遂に驚愕の最終面に到達することになったのです!

初めてみる最終面は、今までと様相が全く違っていました。それまでの色とりどりなブロックが様々なレイアウトで並ぶデザインの面ではなく、画面中央に鎮座しているのはなんと一体の巨大モアイ!「モアイ?何でだよ?コレ!どうすんの?」とパニックに陥るオイラ。しかもこれまでの面とは違い、そのボスキャラであるモアイはこちらに向かって攻撃を仕掛けてくるのです。そのハードな攻撃を掻い潜りながらパドルでボールを打ち返し、ボスキャラのモアイに数回ぶつけて撃破するのがどうやら最終ミッションのクリア条件。「やってくれるじゃねぇか!タイトーさんよ!その驚かせてくれる展開!嫌いじゃないぜ!」と心の中でタイトーに対する最大の賛辞を送るオイラ。しかもこの時点で手持ちの自機はまだ豊富!これはもらったも同然だと最終面に臨むオイラ!

モアイ

しかし、そこからの展開は散々なモノでした。プログラマーが仕掛けた、“トリッキーな打ち返し方をしなければモアイの攻撃とボールのレシーブのタイミングがシンクロしてしまう“という構造に気がつかず、攻略の糸口を掴めぬまま連続で自機を削られてしまったのです。コンシューマーゲーム機と違って、ポーズボタンを押してじっくり考察するような機会は当然与えられず、次から次へと貯金を使い果たしてしまうオイラ。そしてついに迎えた最後の自機!ここで、“パドルの端でボール受ければ角度のついた攻撃が出来る。そうすればモアイの攻撃のタイミングもずらすことが出来る“ということにようやく気がついたオイラでしたが、時すでに遅し。最後の自機で粘りに粘りましたが、「あっ!」という小さな叫び声と共にパドルでボールを受けきれずにゲームオーバー。敗北。オイラのひと夏をかけたワンコイン全面クリアの夢は、パドルの横を無情にすり抜けていくボールのように、手元から彼方へ消え去ってしまったのでした。

1時を大分過ぎて工場に戻ったオイラは、主任にこっぴどく叱られました。オイラは昼休みの遅刻の理由を説明できるはずも無く、ただ黙って「すみません」と頭を下げることしかできませんでした。しかし態度とは裏腹に、心の中はなんだか晴れ晴れとした爽快な気分で一杯でした。「クリアはできなかったけど、あそこまでは行けた!これで全クリに希望が持てた!」と。そしてガミガミと怒る主任の顔をチラリと見ながら「昼にアルカノイドやるのはもう終わりにしなきゃな」とも思いました。(後編に続く)


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