アボカドのバクダン風
「えっらいでかいね今日のコロッケ」
「コロッケじゃないよ。でかすぎてちゃんと揚がってるか自信ないから中切ったとき確認してな。だめだったらチンするし」
コロッケじゃないの? と鉄太は驚きながらご飯をよそっている。
「地元にね、バクダンって食べ物があんのさ。練り物の中にゆで卵がゴロンと入って揚げてあるやつなんだけど、ちょっとそれっぽくしてみた」
「ゆで卵にしたってこれ、でかくね?」
「ゆで卵の代わりにあるものを入れてまーす」
えーなにぃー? といいながら鉄太はしげしげと握りこぶし大の揚げ物を眺めている。三木本は二人分の箸とビールをとって、足で冷蔵庫の蓋を閉めてから席に着いた。
「これって何かけんの? ソース?」
「あーうーーん、とんかつソースと、ケチャ半々くらいがいいかも。待って、作るわ」
「揚げ物のときいっつも作るやつね」
「そ」
「そっ」でも「そう」でもない、三木本の「そ」には彼の美点の全てが詰まっている。ひらがな一文字の過不足のなさ。だからお前は居心地がいいのだと、鉄太は三木本に何度も言ったが、当の本人は「そういうよく分からん自説を本人に向かって言えるところがお前の美点なんだろね」と言うばかりだった。
三木本がとんかつソースとケチャップを雑に混ぜて作ったソースを揚げ物にかけてくれる。
「食ってい?」
「どぞ」
鉄太が箸を突き刺して割ると、中には緑色の何かに包まれたハンバーグのようなものが出てきた。
「あ、火は通ってんね」
「これアボカド?」
「そ。アボガドさぁ、買ったら種がでかすぎてスカスカだったから、肉詰めした」
「……手ぇ込んでる~。あ、だからあの窓際の種」
そ。と言って三木本は満足そうにビールの缶を開けた。
「あの種育てんの? あ、うまっこれ美味いわ」
「あっち! わっかんね。けどなんか捨てんのもなって」
「てかさ、バクダンって結構物騒じゃね? コンプラとか? 大丈夫なん」
「あー。『地雷』とかもホントの意味以外で使うのあんまよくないって聞くもんな」
その発想はなかったわ、と三木本が言いながらビールを早くも飲み干してしまう。
「バクダンっておれがちっちゃいときからある名前だからな~。昔はやっぱなんか、おおらかだったんだな」
「花火とかのがよくね?」
「アボガド花火? いいなそれ」
三木本がいったい何歳までアボカドのことをアボガドと言い続けるのか――それはきっと見届けられないんだろうなと思いながら鉄太は苦手なビールを一口飲んだ。
あの種はきっとすぐに、根と芽が出て不気味なほどに成長するだろう。
たぶん三木本の手には負えない。でもそれは言えなかった。
了
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