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より正確なギターのイントネーション調整 ~⑩ギター側の事情~

ギターのオクターブ調整の考え方を一歩進め、より正確なピッチをフレット上で得るためのチャレンジです。

最初から読みたい方はこちらからどうぞ。

番外編です。

理論も知らないまま、推測とチューニングメーターと耳だけでここまで来てしまいました。が、やっぱり思うのですよ。

どうしてギターのピッチはこんなに合わないのか。

エレキギターだけを考えても考案されてすでに70年以上経過しているのに、ピッチなどという楽器の最も根本的なところでなぜ未だに悩んでいるのか。計算できちんと求められる平均律のピッチをギターはなぜすんなり出せないのか。

なお、ピッチで悩むというのは正しくチューニングしてもどこか合わないという意味であって、トレモロぐりぐりしたら3弦がシャープしましたという意味ではありませんので、当たり前ですが念のため。

それについてギター側の事情(きちんとできない理由:言い訳)を考えてみます。もしかしたら最新コンピュータで設計された個体は解決済みの事象も含まれるかもしれませんが、ストラトとかレスポールとか古典的な楽器目線の記述とご理解ください。

ナット位置

前項でも触れましたが、開放弦を合わせても1フレット押下で大きくピッチが狂う楽器は調整が大手術になります。ナット溝の深さ調整だけで寄り付けばよいですが、大きくピッチが狂う個体はナット自体を前後に移動しなければならない場合もあり、それは木部加工も入るので大手術になります。さらに最適な位置を計算で求められるのかわかりませんし。

改善策としてバジーフェイトン(BFTS)はナット位置をアレしていますし、ミュージックマンのナットはまるでブリッジ駒のように最初から凸凹位置で弦を支持する特殊ナットを採用していますね。弦の太さを変えたらどうなるんだろうと思いますが。

試しに、1フレット音痴の個体とフェンダーCSやSuhrを並べて、ナットと1フレットの距離を計測してみたいですね。いま私の手元には強力な1フレット音痴君はいないので、どなたか情報お待ちしております!

ナット溝の深さ(ナット高)

ナットに関しては、ナット溝が高いほど1フレットピッチがシャープしやすくなります。それを見越した設計になっていれば条件は緩和されます。ただどうしても、開放弦だけは「チョーキング」していないわけで、これを不特定多数の弦使用を前提として計算式で求めるのは難しいはずだと文系は思います。

ナットでの弦間ピッチとブリッジ駒での弦間ピッチ

これも前項で触れましたが、ナット側からブリッジ側へ扇形に拡がるように弦がセットされています。それに対してサークルフレット(CFS)等一部システムを除き、フレットは横一文字です。そうなると1弦はハイフレットでシャープするに決まってます。もしこれが顕在化しないようにフレット位置を微調整した設計になっているならば、今度は逆に3、4弦あたりがハイポジションでフラットするはずです。そもそも物理的に無理がある話です。フレット位置は何弦を基準に位置決めしてるの?

ついでに言えば指板Rも

筒状または円錐状(コンパウンドラディアス)に丸くなった指板に張られた横一文字のフレットに対して扇状に張られた弦。どういう難しい計算によって最適なフレット位置が求められるのか、理系ではなく軽音楽部じゃなかった経済学部出身の私には勿論わかりません。

弦高

また指板上の弦高に関しては、高ければ高いほどハイポジションでのピッチシャープが起きやすくなります。

押弦という行為が「チョーキング」そのものであるため、弦とフレットの間隔が拡がればピッチはシャープしていきます。通常のセッティングでは、弦高はハイポジションほど高くなるので、ハイポジションではシャープ傾向を示します。

ネックの反り

ネックの順反り/逆反りはあまりピッチに影響がなさそうな気がしますが、極端な荒療治の例をご紹介しておきます。

レスポール系の楽器だったと思いますが、ローポジションはシャープ、9フレットあたりのミドルポジションがフラット気味で、ハイポジションが再びシャープする個体でした。

弦高を下げても症状はあまり解消されないので、ネックの反り具合を調整してみました。かなり思いきった順反りにです。

さらに弦高を下げ気味にセットすると、ネック上のミドルポジションはかなりの弦高があり、ハイポジションは低い弦高という状況になりましたが、そうするとミドルポジションでの「押弦チョーキング」は強まり、逆にハイポジションでは弱まりました。

上記によって、フレット全域のピッチをトータルではかなり改善できたことがあります。恐ろしい民間療法なのでお奨めしませんが。

フレットの摩耗

フレット状態についても、摩耗して頂点が平らになってしまうと、平らな部分の端が弦との接点となっているので弦長が短くなることになります。仮に摩耗によって1~2mmの平らなポイントができてしまった状態は、ハイポジションにおいては結構な弦長誤差になります。

また演奏内容によって特定フレットだけ摩耗することもありますが、これも特定フレットだけピッチがおかしくなるということです。だからと言って指板全域にわたりフレット摩耗していればよいかというと、当然違います。

弦の太さとブリッジ駒位置

どんな調整方法を採ったとしても、ブリッジ駒の位置は各弦ばらばらになります。そして現実的にほぼ以下の並びになります。

  • 0942や1046ゲージでは1~3弦駒が徐々に下がっていき、4弦が少し前に出たのち、再び4~6弦駒が徐々に下がっていく

  • 0946のようなボトムヘヴィゲージでは1~6弦駒がほぼ一直線に下がっていく

もし上記のような相対位置にならない場合、買ってきた弦の品質が悪いか、ギター側に何か問題があるか、単に調整方法がよろしくないかの可能性が高いです。ご注意ください。

なぜこのようなブリッジ駒の並びになるかというと、弦(巻き弦の場合は芯線)が太いほどブリッジ駒は後退していく傾向を示すからです。

余談ですが、そういうことで0942では4弦は3弦より細いのです。そういうことで4弦が切れやすかったりします(私自身はほぼ弦を切りませんが)。

それは何故?

実世界の現象として上記のように弦の太さでブリッジ駒位置が変動することはわかっています。そしてナット~12フレット~ブリッジ駒の間隔が最も等しくなるのは1弦です。

でも何故? それがわからないのです。

これは仮説のひとつですが、弦が太いほどナットやブリッジ駒に接する周辺が振動しにくくなり、実際に振動している弦長域が短くなるのではないか、そのためにあらかじめブリッジ駒を下げて弦長を増やしておく必要があるのではないか。

ただし、もし上記理由で太い弦の弦長が増えていくならば、フレットは横一文字で良いのか? さらには12フレットが概ね1オクターブと調整してよいのか?

ほら、わからないことだらけです。

昔の楽器でそんな難しいこと考えてるわけないでしょう。そもそもフレットが付いてるなんて大衆楽器のギターくらいで、皆がより簡単に弾けることが一番でピッチなんで二の次よ。

そうなんですけど、そろそろなんとかならないのでしょうかね。デジタル機器に信号送出する楽器が原始時代の超アナログ・・・。

今ほしいもの

実測や現物合わせの非理論的な推察も限界に近付いている感があります。手元に溜まりつつある色々な仮説を証明したり、今後のギターライフを余計なことを考えずに正確なピッチでハッピーに過ごしていくためには、以下のような情報やツールがほしいと思っています。

  • 指板設計時フレット位置を求める計算式
    それは諸事情を考慮した調整後の位置なのか、それとも単なる数式ベースによる位置なのか

  • よいチューニングメーター
    ・ど真ん中に合わせるだけでどんな音程でも正確なピッチ確保
    ・1~2セントの差異を確実に把握できる
    ・弦振動の減衰や倍音に対して強く基音をしっかり測れる

  • 劣化や温湿度変化によるピッチ変動が少ない弦

以上、今回は特に解決策もなく、困ったことを列挙しただけの読み物となってしまいました。失礼いたしました。

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