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パスクール出版記念 Twitterスペースイベント<後編>

パス練習のコツ

池田:
さて、『パスクール』では作例が結構たくさん出てきます。こういう作例を作れるようになるまでにパス練習をされたと思うんですけど、どんな練習をしましたか?うまくなったなと思うようになったきっかけがあればそれも教えて下さい。

村石:
(昔の自分のツイートをリツイート)
ベジェ曲線でデッサンをしたことがあります。ハッチングという線を交差させて濃淡を表現するデッサンの技術があるんですけど、それをパスでやれないかって。1回やってみてこの時死ぬほどパスを触ったんで、これでいけるようになりましたね。

池田:
すごいですね。これ。

吉田:
これをやるにいたった過程がすごい村石らしい。

村石:
この頃イラレのグラデーションメッシュですごくリアルなイラストを描いたりしていました。メッシュができるんだったらデッサンできるんじゃね?ってやってみた感じです。

池田:
これはめちゃくちゃすごい。
吉田さんはアドビの書体デザイナーとしてご活躍されているので精度的な話があるかなと思います。

吉田:
僕は本職が書体デザイナーなのでパスを触らない日は一日たりともないと言っていいほど毎日毎日パスを使って書体を作っています。

池田:
かっこいいなあ。

吉田:
いやいやいや。そんな僕なんですけど大学に入りたての時はあんまりデジタル系の作業は得意ではなくてずっとアナログ派でした。大学入るとすでにイラストレーターとフォトショップを高校の時点で使いこなしてる友達もいたりして、すごいなあと思いながらも、やっぱり億劫で始められずに1年生の前期はずっとデジタルでやった方が明らかにいい場面も無理やりアナログで、切り絵にしたり、ああだこうだして頑張ってアナログで乗り切りました。もう持ち味にしてやろうぐらいでやってきたんですけど。親しい友人が結構使いこなしていてそれを近くで見てやばいなと焦っちゃって。夏休みにめちゃくちゃ本を読んで頑張って1回覚えたんですよ。宿題みたいな感じで。それこそ『パスクール』じゃないですけど、イラストレーターの○○みたいな本を読んで勉強したんですね。そこで初めてきれいな線が引けた。その時の感動というか、それっぽいものができたときの喜びが忘れられなくてそこから一気に抵抗感がなくなって、どんどんうまくなっていきました。書体デザイナーを目指してから、より精度が高まった感じです。

池田:
どのような方法で練習しましたか?

吉田:
既存のロゴや看板文字の写真とかを取り込んで模写することはしました。ロゴを見て実際に作ろうとすると、長方形と丸で出来ていると思っても意外と調整されていて。あ、楕円だったんかい!ということが結構あって。学生の時にそれをやってすごくいい経験になりました。

池田:
単純な形に見えてもパスで引いてみると意外に一筋縄ではいかない。

吉田:
美大を受験する時もデッサンや色彩構成の模写はしていて、結構ポピュラーな練習方法だと思うんですけど、それをパスでやってみたら意外とよかったです。

池田:
文字のロゴがメインですか、それとも幾何学や他の形もやりましたか?

吉田:
シンボルマークみたいなものの下に文字があったり、文字だけだったり、よっぽど複雑な形じゃないものだったら何個かチャレンジした記憶はあります。

池田:
パスで模写というか、デッサンというか。観察ですよね。

吉田:
デッサンも観察ってよく言われますし。まさにそんな感じだと思います。

清水:
この話題でまことに申し訳ないのですが自分はばりばりパスが引けるタイプではなく、美大の時からそれこそアイデアで勝負したろ位な感じで。パスは必要最低限で、どちらかというと読者の方に近い立場にいます。“重版出来”の制作を通して村石や吉田に壁打ちすることで、どんどん自分があがっていくような感覚がありました。

池田:
一番最初から最後になるまでクオリティが全然違ったものになっていっているのが、すごく新鮮だなあと思いました。清水さんも達成感があったのですね。

清水:
伸びているって感じがしました。

池田:
パスの引き方がこの『パスクール』のすごく大事なところなので、そこのアプローチは同人誌版から大きくは変わってないんですけど、誌面ではより読みやすく、分かりやすくしているので、是非その辺を皆さんにも見ていただけたらと思っています。

参考になる文字の見つけ方

池田:
続いて、文字の参考の探し方です。『パスクール』の継続編に、郊外授業として町中での文字探しが6ページほどあるんですけど、どんな感じで参考になりそうな文字を探しているのか、それを見つけだすセンサーの磨き方も教えて下さい。川越の取材の時も、参考になりそうな文字をいきなり見つけたりしましたよね。

吉田:
そうですね。学生のとき文字の参考にならないかなと最初に探していたのはやっぱりSNSで、それは結構よくある手法だと思います。本でも、同人誌版のときに触れたのかな。参考先が似てきちゃうよね、とメンバー内でも話していて、SNSであがっているものを見て、それを見本に作る人がいて、それを見本につくる人がいて、似る作品もだんだん出てくる。それが悪いことではないけど、町の看板はそういう意味で良くてそれこそパスで作られたものじゃないというか、手描きのものは書き手の独自の手法があって、書いている人の年齢も自分たちと離れているし、その人の時代に流行ったものが反映されていたりするので、SNSから1歩ひいた目線で見れるのはいいと思うんですよね。看板だけじゃなくて手描きの値札も、見てみると結構面白い。

池田:
探していて、吉田さん手描き好きだなと思っていました。

吉田:
値札はめちゃくちゃ良いです。店主なのか店員なのか、お店の誰が書いたのか分からないですけど、その人の好きな形で。値札なので何回も書かないといけないんですけど、その上でちょっと目立たせたいっていうのがありつつ、効率化させたいっていうのが表現されてることが多くて、横線の先っちょに鱗みたいなのがついてたりとか。かなり面白いです。

池田:
ちょっとだけの差なんだけど結構オリジナリティが出ている。でも、あんまり意識的じゃなかったりしません?癖でやってるなあというのは僕も見てて思ったんですけど。その癖がちょっと愛おしいというか。

吉田:
分かります。

池田:
『パスクール』の中でもありますけど、吉田さんが北海道に行かれた際に撮った毛ガニと鮭の値札のとこに入っていて、それが結構かわいいんですよね。

吉田:
かなり良いのでぜひ見てもらいたいです。量を書いてるからうまいんですよね。
マッキーとかで書いてるから制約があって、コンピューターで描くと、いくらでも細かく描けちゃうんですけど、こういう太いペンを使うと、動きが制限される分、形の統一性がとれて結構かわいい形になったり、意外とまとまりある形がうまれやすいって個人的には思ってます。

池田:
コンピューターで描くと画材が何でもOKで、制約や必然性が出てこない形になりがちですよね。それが逆に手書きで何回も同じことを書いて、しかもちゃんと目立たせないといけないとなると、オリジナリティが生まれやすい。吉田さんはそういうのを見つけ出すセンサーをどう磨いたのですか?気が付いたら見えるようになっていたとか?

吉田:
特殊能力みたいですけど、それこそこの本を読んだらもう見ずにはいられないと思いますよ。こんなに溢れているんだ、って思うようになって、そうなると結構連鎖的にハマっていく。町のポスターに使われている書体やフォントもそうですけど、これが使われてるんだって気づいた瞬間、じゃああれも。じゃああれも。みたいな。

池田:
連鎖反応が起こってしまうのですね。村石さんはどうですか?

村石:
僕のおすすめは、お店の中です。例えば釣り具のデザインってすごく自由でメーカーによって全然バラバラだったりするので、デザイナーだったら、立ち寄ると楽しいと思います。あとはロードバイクもすごくかっこいいロゴが多くて、しかもそれがかっこいい自転車に印字されている。あと、喫茶店。さっきの話とも繋がるのですが、お店の人が頑張って書いたであろうメニューがすごく好きで。なんていうか、デザイン的には正しくないけど気持ちが伝わってくるものが好きなんです。多分、町文字は森みたいなもので、お店の中に入ったら別の世界が広がってるというか。

池田:
違う森に入っちゃったみたいな。沼ではなく森ですね。村石さんは特に買うものがなくてもお店に行かれたりするんですか?釣り具屋さんとか。

村石:
そうですね…。特に買わないけど、見にいきますね。あと最近ご飯食べに行って思ったのが、海外のお酒の瓶のラベルがかっこいいので、そういうのを取り扱っているお店に行ったら楽しいんじゃないかな。

池田:
輸入系の雑貨や食料品店はちょっと違うテンションのデザインが多かったりしますよね。僕の個人的な好みなんですけど、そういうお店で日本用のラベルを裏に貼ってたりするじゃないですか。あれが結構好きなんです、テンションが色々あって。わりと適当に作ったものから、数が出ていてかなりしっかり作り込んでいるものまで色々あるから、文字ではないんですけど、組み方、レイアウトの仕方として面白いなと。お店の話を聞いて思い出しました。
村石さんのセンサーの磨き方はどうですか?興味がないけど入っちゃうみたいな、そういう気軽さですかね。

村石:
いや、多分興味がないというよりは興味を持つことが大事なんじゃないかなと思ってます。ちょっとでも興味あったら気が付くと思うので。

池田:
清水さんは川越でかわいいものを見つけていましたが、いつもどんな感じで見ていますか?

清水:
川越を散歩中に気付いたんですけど。動物や生き物を扱ってるお店がけっこう狙い目なのかなと思っています。例が2つあって、1つはペットショップ。ワンちゃんやネコちゃんが好きな方がお店をやっているので、看板の横に自分でイラストを描かれていたりします。で、そのワンちゃんやネコちゃんへの愛に引っ張られた形で”ペットショップはここ”みたいな文字も書かれてたりすると、すごくファンシーなキラキラした文字、しかも理性で抑えられないパッションがふわぁって浮かび上がってきて、素敵だなって思うお店が何軒かありました。

池田:
めっちゃペット好きなんだろうな、みたいなお店ありましたもんね。

清水:
もう1つが、鰻。鰻屋さんの看板文字も、「う」がうなぎの形になっているイメージをみなさんお持ちだと思うんですけど、意外とそこのバリエーションが違っていたり、違うところが鰻のモチーフになっていたりして、自分たちの持っているイメージよりも繊細な表現がされているんだなっていう発見があったので、そこらへんちょっと見ていただくと面白いかなと思いました。

池田:
たしかに鰻って、「う」を大きくして、はい終わりみたいな感じがありますよね。ペットなどの文字を探すセンサーの磨き方はどのような感じですか?

清水:
自分の好きなものを明確にしておくと、町を歩いていてもふっと視界に入ってくる機会が増えます。意識をしておくというか、獲物を狩るじゃないですけど。狩人の気持ちになる、どこかにいい文字があるんじゃないかという気持ちを常に抱えておくだけでも、やっぱり入ってくる量が変わってくるのかなと思います。

池田:
姿勢として、いい文字を探す。能動的に探す、ですね。

清水:
めちゃくちゃ当たり前なんですけど、やっぱりそれで全然変わってくるなと思いました。

池田:
三者三様で面白いですね。

『パスクール』はどんな人に手に取って読んで欲しい?

池田:
改めて『パスクール』はどのような人に手に取って読んで欲しいですか?


村石:
第一は学生の方です。

池田:
パスというかイラストレーターですよね。アドビのアプリケーションを使い始めた方なんかに一番最初にパスってやっぱり難しいから、そこで読んでもらえたらいいですよね。

村石:
解説もかなり基礎の基礎から始めていて、長く読んでいただけるように難しい所まで網羅的に構成しているので、早い段階でこの本と出会ってくれる人がいたら長く読めるのではないかなと思っています。


池田:
特に学生さんは作りっぱなしになることがありますよね。作ったら他を参考にして、また作る、と継続してアウトプットしていく姿勢を身につけてほしいと僕は思います。学生さんや若手のデザイナーさんなど、ある程度キャリアのある方でも読んでいただける形になっていると編集担当として思いました。

吉田:
同じく学生に読んでほしいと思っていて、僕達もこういう本があったらよかったなって思いもありながら本を作りました。さっき姿勢の話が出ましたけど、この本の章は基礎があり、実践があり、講評があり、最後に継続となっていて、特に継続や講評会は姿勢に繋がる部分がかなり書いてあるので、ぜひ参考にして頂きたいです。これからパスを使っていきたい人や、後でやろうと思っていた人は結構多いと思うので。僕もそうでしたし。そういう方にぜひ手にとっていただけたらと思います。

清水:
自分も第一には学生さんに手にとっていただきたいというのは同じです。あと、購入してくれた友人の話を聞いていると、配属が変わって初めてイラレを触ることになって、なにかちょっとモノづくりをする部署に異動になった方とかが手にとって良かったという話をもらいました。急にそういう立場になってしまった方も、まず最初に手に取る一冊になったらいいなと思います。すごく段階的に書いてあるので、寄り添ってくれる本ではあるかなと思います。

池田:
ありがとうございます。それでは最後に一言ずつお願いします。

村石:
制作を始めてから大体3年半で、一番最初に話したパスと文字を並べて見せるというアイデアを思いつくのにも2年位寝かせていて、自分の中では一番長いプロジェクトだったので、こういう形でリリースできて今は嬉しい気持ちです。よかったら僕の固定ツイートにしてる告知ツイートを拡散していただけたらありがたいです。

吉田:
すごく長い時間をかけてここまでたどりついてほんとに良かったなという思いと、村石をはじめとする関係者の方にありがとうございましたという思いでいっぱいです。最初同人誌版を出した時は、パスの本なのでカジュアルな見た目にしたはいいけど、どれくらい反響があるかというのは分らなくて。実際販売してみるとめちゃくちゃ反響があって、1100冊ほど販売できてこんなに需要がある本だったんだと初めて認識しました。いま作字とかも盛り上がってますし、おすすめの1冊になるんじゃないかと思います。是非口コミなど拡散、よろしくお願いします。

清水:
見た目はすごくかわいらしくポップにできてるのですが、そばで見てきた自分としてもこの本は一切の妥協のない、村石しかり大成しかり、関わった人の全てが詰まってると言っても過言ではない1冊になっていると思います。買っていただいて、使ってもらって完成する1冊だと思いますので、是非書店に行って手に取っていただけたらと思います。

池田:
三人とも今日は大変ありがとうございました。私も今回編集担当として著者の三人、あとはイラストレーターのnanoさんと一年ちょっとほど、走らせてもらって今回商業出版できたことを大変嬉しく思っています。私も文字が大変好きなので、文字デザインとかしていく中で『パスクール』みたいな本があったらすごく学びやすかった、もっとうまくできたな、と感じました。文字デザインであったり、パスであったり、使っていく中で大変使える本になっていると思いますので、皆さまご購入のほうよろしくお願いいたします。

<完>



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