「物語を読むことは『体験』に近い」 イラストレーター・吉田誠治の本棚(#クリエイターの本棚)
2020年出版の『ものがたりの家-吉田誠治 美術設定集-』(パイ インターナショナル)は12万部を超える大ヒット、昨年10月に出版された『TIPS! 絵が描きたくなるヒント集』(MdN)は発売から半年で4度の重版!
クリエイターのみならずたくさんの人を魅了するイラストレーター・吉田誠治さんのご自宅にうかがい、本棚を見せていただきました。幼少期から現在の創作活動に至るまで、特に影響を受けた作品についてお話を伺いました。
ーー本棚の構成はご自身のなかで決められていますか?並べ方に決まりなどがあれば教えてください。
並べ方に厳密な決まりはありませんが、少年誌と青年誌などのジャンルでざっくりと分けたり、同じ著者の作品はまとめて並べるようにしています。あと、なるべく本の背の高さを揃えるように気を付けたりもしています。
ーーご両親が図書司書だったこともあり、絵本に恵まれた環境で育ったと雑誌『MOE』(白泉社)のインタビューで拝読しましたが、ご自分の意志で最初に購入された本とその理由を教えてください。
本は親が積極的に買ってくれていました。自分のお小遣いで最初に買った本は、覚えている限りだと漫画『機動警察パトレイバー』(ゆうきまさみ/小学館)だと思います。映画を観て好きになって、当時出ていた1~4巻をまとめ買いしました。
自分のお金で最初に買った絵本は『アンデルセン コレクション』(リスベート・ツヴェルガー/太平社)で、これは美術館で同じ著者のドイツ語版『オズの魔法使い』を読んで一目惚れし、こういう絵本を描きたいと思って書店で探したものです。当時は『オズの魔法使い』はまだ邦訳されていなくて、訳のあったこの本を買いました。
ーー買う本はどのようなジャンルが多いですか?
よく買うのは漫画、小説(ミステリ、SF、歴史、ホラーその他いろいろ)、画集、建築関連書籍、児童書などです。児童書は子どものために買うのもありますが、自分でもよく読みます。それと、小説は「積ん読」はせず、読み終わってから次を買う主義です。
ーー最近買われた本でおすすめがあれば教えてください。
・『北欧 木の家具と建築の知恵』(長谷川清之/誠文堂新光社)
非常に実用的で独特な進化を遂げている北欧デザインについて、木との深い関係性から掘り下げた本。膨大な写真と図解で分かりやすく解説されていて、創作の参考になります。
・『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版』(九井諒子/KADOKAWA)
独自のファンタジー世界に対する圧倒的な解像度の高さが垣間見える一冊でした。ここまで考えて世界観設定ができるのかと驚かされますし、どんな画集よりも触発されます。
・『国旗えじてん』(パイ インターナショナル)
様々な国旗を軸に世界の国々を紹介している絵本。子どもでも読めるシンプルな内容ながら、様々な地域の風土や文化について、カラフルで可愛いイラストとともに触れることができるのでとても勉強になり、親子で読んでいます。
ーー今までの人生で何度も読み返している本があれば教えてください。
『モモ』『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ/岩波書店)は、どちらもハードカバーも文庫も買って何度も読みました。特に『モモ』のベッポじいさんの哲学が自分に合っていると思っています。
ーー本はどこでどのように購入していますか?
近所の書店に週一回ほど立ち寄るので、その際に目当てにしていた新刊と、他にも何かないか店内を一通り探して買うことにしています。たまに大きな書店に行くと、初めて見る本がたくさんあって何冊も買ってしまいます。書店で見当たらない本は、主に ヨドバシ.com で通販しています。
ーー写真集や建築関連の書籍をたくさんお持ちなのかと思っていましたが、ビジュアル本よりもストーリーが素晴らしい本が取り揃えられている印象です。この本棚の中で、もっともご自身の作品に影響を与えていると思う本を教えてください。
先述のエンデの作品の影響がとても大きいです。エンデについては他にも対話集なども読んでいて、その思想は僕の創作の基礎として欠かせない存在です。ビジュアル的に特に影響を受けたのは、宮崎駿、大友克洋、村田蓮爾、安野光雅、男鹿和雄、リスベート・ツヴェルガー、ノーマン・ロックウェルなどで、すぐ手に取れるよう作業机のすぐ横の棚に画集を並べています。
ーークリエイターに向けて、本棚の中から「ぜひ読んだほうがいい!」という1冊があれば教えてください。
『ジブリの立体建造物展 図録〈復刻版〉』(トゥーヴァージンズ)
ジブリ作品を中心に美術設定画がたくさん掲載されていて、またそれらがどういう意図でデザインされたかなどの解説も載っているので、創作における建築デザインの考え方を、馴染みのある題材を用いて気軽に学ぶことができます。特に建築デザインは難しい!という人にオススメです。
ーー仕事に使う本と読者として楽しむ本に大きな違いはありますか?
あまり大きな違いはありません。結局のところ、あらゆるものが創作の題材になるので、どういうものが参考になるのか先に知ることはできません。最近は仕事の関係もあって建築デザインの本を多く読むようになりましたが、純粋に読者としても楽しんでいます。逆に、仕事に役立つと思っていなかった『ダンジョン飯』(九井諒子/KADOKAWA)から大きなヒントを貰ったりもしています。なのでほとんど区別していないですね。
ーー「つげ義春と大友克洋はすべてそろっている」とおっしゃっていましたが、漫画を読み始めたきっかけと、他にも好きな漫画や漫画家がいれば教えてください。
子ども部屋につげ義春と大友克洋の漫画全て(父の蔵書)のほか、母の蔵書『めぞん一刻』(高橋留美子/小学館)『風と木の詩』(竹宮惠子/白泉社)など置いてあって自由に読めたのが本当に最初のきっかけだと思います。つげ義春は貸本時代のものがあって、もっと少年漫画風な内容だったので、物心ついたころから楽しく読んでいました。
蔵書としては他にも『火の鳥』(手塚治虫/朝日ソノラマ)『貸本版悪魔くん 復刻版』(水木しげる/二見書房)『なんて素敵にジャパネスク』(山内直実・氷室冴子/白泉社)や、友人の家で読んだ漫画版『風の谷のナウシカ』(宮崎駿/徳間書店)、『5年の科学』(学研)に載っていた『まんがサイエンス』(あさりよしとお)などが小学生の頃のお気に入りでした。他に好きな漫画家さんは、諸星大二郎、士郎正宗、黒田硫黄、OKAMA、上山徹郎などです。あと大学時代の友人の三島芳治くんの漫画も、在学中から好きだったので最近注目されていて嬉しいです。
ーー以前PixivFANBOXの投稿で「『鏡の中の鏡』も大好きなのですが、こちらは中高生ぐらいの年齢で読むと一生記憶に残る作品かもしれません。」と書かれていました。幼少期~青年期で本(物語)に触れることは、今後の人生にどのような影響があると考えられていますか。
子どもの頃に物語に触れることは、その人を豊かにしてくれると考えています。読書には知識を得て賢くなるという直接的な利点もあるのですが、物語を読むことはむしろ「体験」に近いと思っていて、価値観や倫理観を形成し、自分自身で価値判断するための基準を自分の中に作ることができます。もちろん、本ではなく現実の体験からもそういった豊かさは得られるのですが、物語はそういった体験を高い密度で、豊富なバリエーションでできるのが魅力です。結果として多様な価値観に触れることができて、価値観がより柔軟で視野が広くなると思います。そういう概念を、僕は「豊かになる」と表現することにしています。
ーーお子様に絵本を買ったり、一緒に楽しんだりすることはありますか?また、「こんな読書体験をしてほしい」という思いがあれば教えてください。
二人の娘とは、よく書店に行って本を選びます。子どもは予備知識の少ない状態で絵本に触れるので、意外な反応が返ってきたり、鋭い観察をしたりして、僕自身にもいい勉強になっています。読書体験は、やはり大人に与えられたものより自分で選んだものの方が得るものが多いと思うので、親としては子どもが自由に選べるようできるだけ多くの選択肢を用意するようにしています。例えば、家のあちこちに本棚をつくっていつでも本を手に取れるようにしたり、『こどものとも』『たくさんのふしぎ』(福音館書店)などを定期購読したりして、自然に新しい本に触れられる環境をつくって、あとは子どもの自由に任せています。もちろん僕の蔵書も好きに読んでいいことになっています。いまのところ二人とも読書好きに育っているようなので嬉しいですね。
ーー今後作りたい本や、やってみたいことなどがあれば教えてください。
まずは絵本にしたいアイデアがいくつかあるので、それを実現したいです。あとは、個人的に郷土資料館や博物館、図書館などあまり営利目的ではない、しかし重要な文化施設を盛り上げていきたいので、そういう施設の面白さを紹介する図説などの仕事ができたら嬉しいです。
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