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海底の月

どうしてかは分からないが買ったアルバムがある。あがた森魚さんのバンドネオンの豹だ。ジャケ買いでもないだろうし自分でもなぜ買ったのか謎ではある。多分あがたさんがヴァージンVSというテクノポップ?ニューウェイブ?のバンドをやっていて、音源は買っていないけどあちこちで聞いて興味があったんだと思う。そのヴァージンVSは解散していたけど、以前からもちろんあがた森魚さんという名前は知っていたし、有名な曲も知っていた。でも結局はニューウェイブつながりかという事になるのかな。しかしそのアルバムはニューウェイブとは全然違って'タンゴ'だった。そしてそれは想像力広がる美しい世界の物語で、タンゴとバンドネオンのすばらしさにも気づかせてもらえた貴重なものだった。こういう出会いがあるから音楽はいい。


バンドネオンの豹

あがたさんによればOsvaldo Puglieseさんの二人のためにというタンゴ曲に歌詞をつけたというアルバム表題曲。後に原曲も聞いてみた。そしてあがたさんの素晴らしい歌詞と曲のアレンジ、原曲も含め素晴らしいタンゴだ。アレンジは白井良明さんで彼の出だしのギターが凄い。これを持ってくるのが次に出てくるバンドネオンの音色を際立たせている。物語が語られる。バイオリンとギターの音が凄くいい。ピチカートも効いていて凄い。一気にこの世界にハマる曲。

PARA DOS - Osvaldo Pugliese(原曲)



ブエノス・アイレスの冬休み

この曲はシンプルでポップ、あがたさんの歌詞は短く物語のどのような部分を埋めるのか分からないのだけど、心に残る。

忘れてしまってくちずさんでる

こういう言葉に出会うことによって自分は少しでも世界の何かを知ったのではないかと思ったりもする。


博愛(目賀田博士の異常な愛情)

タンゴではないポップな曲。この曲は物語で重要な一部だろうと思う。それ以前に思うのは曲の完成度が高い。あがたさんの歌唱、あがたさんならではのボーカルでそれだけでこの世界にどっぷり浸かれる凄さ。もちろん歌詞も重要だろうしとてもカッコいい。メガロマニア、アストロマジシャン、パラノイア、そしてサイコロジスト。世界観が素晴らしい。それはこのアルバムを通して続くもの。静寂から高揚へと、または逆の変容があるのも物語の世界を感じる。そして曲のアレンジも素晴らしい。また、作曲は高波慶太郎さん。彼らしい曲で、うきうきするような情景を思い浮かべてしまう。ピチカートVも、細野晴臣さんのレーベルでの細野さんのレコードを発売日に買いに行って、同日同レーベルから発売されていた12インチシングルをジャケ買いしてから大好きだ。その後ピチカートファイヴになって…またそれは別の話。


シフィリスの真珠採り (真珠採りのタンゴ~シフィリスのもののあわれ)

優しい海を感じさせる曲調から始まるピアノ、そして深いサックスとバンドネオンが奏で、あがたさんの歌が響く抒情的な歌。どこか遠い昔の海の底から聞こえてくるようなタンゴ。バイオリンとベースも印象的で海の底を船で進んでいるような。そんな大好きな曲。


月光のバンドネオン

素晴らしく最高の物語のエンディング。すべてのお話の幕が閉じるような曲、歌詞。そしてアレンジは鈴木慶一さんでギターが素晴らしい。ここでも海を感じたり静かに音が降ってくるような感じもしたりドラムのリズムは迫ってくるような。深い場所から響くキーボード、そしてギター。歪んだエレキは物語を閉じる楔のようで一緒に連れて行かれそうになってしまう。これで一貫の終わり。


この物語を構成する曲はこれらだけではなく他にも素晴らしいものばかり。そして繰り返して聞き体に沁みると続編のバンドネオンの豹と青猫が待っている。これもまた素晴らしいアルバムだが今回は違うんだ。あがた森魚さんの世界を堪能すれば離れられなくなるかも。これを聞くことによってタンゴやバンドネオンがより近くなり、後にピアソラなども聞くようになった。こういう素晴らしい作品に出会えたことで世界が広がった。音楽を中心としたこの世界の創作、それを届けてくれたことへ感謝。


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