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無風のこころ

先日ミュージシャンの小坂忠さんが旅立たれた。闘病生活の話は知ってしたし、それでもあちこちに顔を出されていたのも知っていた。しかしそれが現実になるとやはり虚無だ。私は忠さんという人物はレコードやラジオ、テレビでしか知らない、だから何がどうだとかは分からないから。しかし忠さんの素晴らしい歌や曲は多いのを知っているしそう感じている。それを書きたい。

前提として書くならば私が小坂忠さんを聞きはじめたのは細野晴臣さんの流れ、細野さん、その過去のバンドや仲間、はっぴいえんどからの流れだった。レコードを買うまではエアチェックが多かった、それにレコードも置いていない店も多かった。だからそのタイミングまではFM等のエアチェックというのがメインだったが、忠さんはそんなに流れていた記憶もなく、実際は買うまでは有名曲を聞いたことがあるというくらいだった。その後年齢を重ねるにつれてある程度自由に物も買えるようになり、私の住んでいる街には当時はなかった中古レコード屋に足を運ぶこともできるようになった。そうして忠さんも含め様々なアーティストを知ってゆく、そのなかでも忠さんの初期の細野さんやティンパンアレーと作っていたアルバムは愛聴盤になっていった。私個人ではアルバムHOROは名盤、いやありがとう、モーニングも含めそれぞれのアルバムの曲の全てが心に残った。そこで好きな曲は全部だよ、といったらそこで終わってしまう。そういうことも含めて書いてゆきたい。


機関車

機関車はありがとう、HOROに収録されている忠さんの代表曲。私が一番好きなのはやはりHOROバージョンだ。ありがとうに収録されているカントリー、フォークのようなバージョンも好きだけど、やっぱりHOROの機関車の歌唱が好きだ。ありがとうバージョンはまるではっぴいえんどのようで、それはそれで好きだし落ち着くのだけど、HOROのガツンとシンバルのクラッシュと同時に始まる歌唱、カントリーのにおいは残っているが、ブルース、ソウルのような歌唱に魂の歌を感じる。吉田美奈子さんのコーラスもあいまってこころにずっしり響いてくる。これが小坂忠さんの歌だと思える。


ボンボヤージ波止場

これも忠さんを代表する曲。曲は細野さん。HOROに入っているバージョンはしっとりしていて、このモーニングのバージョンはもっと洗練されたシティポップという感じだ。このバージョンは忠さんの余裕があるような歌い方で、より大人の歌だなと思えるし聞こえる。どちらのアレンジも好きだが、HOROのアレンジは波の音も聞こえ、まさに静かな夜の波止場でという感じだが、モーニングのバージョンではやはり都会のどこかというイメージだ。いうなれば哀愁と洗練、そういう棲み分けが歌唱にもアレンジにもある。大好きな曲だ。


からす

ありがとうのA面一曲目。私はアルバムとしてHOROを先に聞いていたが、ありがとうの発売当時、人々が忠さんに出会うのは多分これが最初だろう。それがうらやましいと思う。一枚目でもあるし、忠さんの当時の初々しさが聞こえてくる。この曲が一曲目に流れてくると、とてもわくわくしてしまう。フォークロックという感じだが、抑えたボーカルは安定していてもっと聞きたくなる。そんな声。アルバムにはありがとうも含めたくさんの素晴らしい曲があるが、やっぱりこれだと思う。忠さんと同じように細野さんを好きだが細野さん色が濃い曲も多く、はっぴいえんどかと思ってしまうくらいの曲もある中、この曲が忠さんだろうなって感じがするのだ。


ゆうがたラブ

これもHOROに入っている曲で、アルバム自体の演奏がティンパンアレーだというのも知っている。そのバンドの力なのか、それとも忠さんの持っているパワーなのか分からないが、R&Bやファンクのようなサウンドや歌唱がたまらない。また歌詞の高叡華さんは忠さんの奥様でこういう曲のこういう歌詞も大好きだ。忠さんには松本隆さんの歌詞の数々があり、それが原動力として大好きな理由の一つでもあるが、このゆうがたラブはそれとは違うリズムを感じる。とてもカッコいい曲。


流星都市

一番最初に書いたがアルバムのありがとう、HORO、モーニングからは好きな曲ばかりで選ぶことは難しい。その中でも今、この瞬間は一番好きと言いたいのが流星都市だ。松本隆さんの歌詞が甘いラブソングで、だが、ただ甘いだけじゃないという私の思考が矛盾しているのだが、それだけでも最高だ。それに細野さんの曲がとてもいい。それを歌う忠さんの声、その歌唱が素晴らしすぎる。そしてエレピとハモンドオルガンの響き、それに引き立てられるというよりもそれを従えるような忠さんの抜ける声。甘いだけじゃないというラブソングに感じるのは、小坂忠という男性としての魅力が表れている歌唱があるからだ。歌詞も曲もすごいが、歌唱がすごくてその一体で完成されている。あらためて思うのは、これは日本に、世界にとどろかせたい。忠さんの永遠に残る曲の数々、その中でも今はこの歌詞と曲と歌をかみしめていたいのだ。その歌をずっと聞き続けるだろうが、今は虚無、無風のこころだ。でもそのこころにも優しく激しく忠さんの歌は響く。


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